41話 封印の記録と過去の回想
「……ここが“始まりの地”だよ」
夜の帳が降りた後、ミカは魔王アークに導かれ、魔王城の地下奥深く――
封印された禁断の聖堂へと足を踏み入れていた。
重厚な石扉が開かれると、ひんやりとした空気と共に、古代語が刻まれた壁が姿を現す。
「……これって、“封印術式”?」
ミカの目の前に広がっていたのは、魔族語と神語が交錯する禁呪文の陣。
それは、かつてアークが“魔王”として封じられた記録だった。
「ミカ……お前に見せておこうと思う。俺の、過去を」
アークは聖堂中央の魔石へ手をかざした。
すると次の瞬間――まるで幻のように、空間に映像が浮かび上がった。
そこに映し出されたのは、かつてのアーク。
だが――今とはまったく違う印象だった。
「……えっ、これって、魔王じゃない……?」
映像の中のアークは、純白の法衣に身を包み、人々に希望を語っていた。
「私は、“大賢者アレシス”。争いを終わらせ、世界に平和を――」
「……え?」
ミカは目を見開いた。
「私が封じられる前、私は“救世主”として人間たちと共にいた。
だが……真実を知ったとき、裏切られたと知ったとき……私は“魔王”にされたのだ」
「……じゃあ、あなたは……“魔王”ではなく、“英雄”だったの?」
ミカの問いに、アークは静かに頷く。
「世界を支配したいと願ったことなど一度もない。
だが、人間の王たちは“魔力を持つ存在”を恐れ、私を封印した。
それが……“魔族の王”としての誕生だ」
かつての仲間たちに裏切られ、封印され、魔王として記録を書き換えられた――
それが、アークの正体。
「魔族たちは、私を解放してくれた。
彼らは、何も奪わず、ただ“生きる場所”を求めていた」
「そんな……そんなの……!」
ミカは思わずアークの前に立ち、泣きじゃくった。
「あなたが……どれほど孤独だったか……!」
アークは彼女の手を取り、微笑んだ。
「ありがとう、ミカ。……だが、もう泣かないでくれ」
彼の瞳には、確かな決意が宿っていた。
「これから真実を明かし、俺の使命を果たす。
この世界の“嘘の歴史”を、俺たちの手で変えるんだ」
封印の記録の最奥、石壁には最後の一文が刻まれていた。
「この者、光と闇の狭間に在り。鍵を得しとき、世界は選ばれる」
「“鍵”……?」
「これは、まだ始まりに過ぎない。――真実の扉を開く鍵は、各地に散っている」
アークはミカに振り向いた。
「共に行こう、ミカ。お前の“使命”は、まだ終わっていない」
「うん……わたしも、あなたと一緒にこの世界の未来を選びたい!」
二人は新たな旅路を前に、封印の扉を背に立ち尽くしていた。
それは、“魔王”と“秘書”の――真の物語の始まりだった。




