40話 最後の決断と“自分の使命”
世界会議の最終日。
大広間には緊張感が張りつめ、各国の代表たちが静かに着席していた。
ミカは報告書を手に、魔王アークの隣に立っていた。
目の前に広がるのは、獣人、エルフ、ドワーフ、人間――あらゆる種族の要人たち。
「いよいよね、アーク様」
「……ああ。ここからが、本当の意味での“交渉”だ」
魔王はゆっくりと席を立ち、壇上へと歩を進めた。
「諸君。私は“魔王”と呼ばれてきた存在だ。力で支配し、恐怖を振りまいた悪の象徴……それがこの世界の認識だったろう」
魔王アークの声が、魔力によってホール全体に響き渡る。
「だが私は、この会議で“敵”の姿を見なかった。見たのは、未来を憂う者たちの瞳だ」
静寂の中、ミカは彼の手元の原稿を見つめる。
それは、彼女が一緒に作った“魔王軍の和平宣言案”だった。
「我々は提案する。“魔法と科学の共有協定”、そして“全種族間の戦力均衡条約”だ」
各国の代表がざわつく。
「争いは終わらせねばならない。私の名が“魔王”である限り、それを望むのはおかしいだろうか?」
そのとき、席を立ったのは人間代表――ルクレティア王国の首相。
「あなたの言葉が本心であるのなら……我が国は、あなたの“改心”を認めるべきかもしれません。しかし――」
「“裏切者”と呼ばれたら?」
アークの問いに、首相は苦笑する。
「そう。我々もまた、勇気が試されているのです」
続いて立ち上がる者、口を閉ざす者、それぞれの想いが交錯する。
議場の動揺を見て、ミカは思わず前に出た。
「……わたしからも、言わせてください!」
彼女の声は震えていたが、瞳には揺るぎなかった。
「私は元々、異世界から来たただの人間でした。ですが、この世界で魔族と生き、働き、学び……」
彼女は叫ぶように言った。
「魔王アークは、私たちの未来を奪うような人ではありません! 彼は今、たった一つのことだけを望んでいます!」
沈黙が落ちる。
「“争いをやめよう”と。――それが、彼の真の願いなんです!」
しばらくの沈黙ののち、ひとり……またひとりと、賛同の拍手が鳴り始めた。
「……ならば、我らも歩み寄ろう」
「戦いは、もはや望まぬ」
「この地に、和平の礎を築こう!」
最後にアークが静かにうなずいた。
「ありがとう、ミカ。君がいたから、私はここまで来られた」
ミカは、涙をこらえて笑う。
「こちらこそ。……わたしの使命は、きっと“あなたの真実を伝えること”。」
「そのために、この世界に来た気がします」




