39話 秘書ミカ、情報戦へ ―裏の“もう一つの戦場”―
「どうして会議の内容が、外に漏れてるの……?」
ミカが愕然としたのは、早朝のニュース報道だった。
“世界会議、魔王軍の内部分裂か?”という見出しが、各地に配信されていた。
「これは……仕組まれた報道ですね」
報告書を手にしたセレフィナが顔を曇らせる。
「裏に情報屋がいるのは間違いありません。しかも、かなり精通している」
ミカの拳が震える。
「魔王軍だけでなく、他国の会談内容も歪められてる……。これ、放っておけない!」
そのとき、魔王軍の記録室に一通の申請書が届いた。
【特別取材許可申請書】
氏名:リオン・クラヴェル
所属:中立報道機関
「人間界のジャーナリスト……? しかも、敵対国側じゃない?」
「ですが彼は、過去に数件の内部暴露記事で功績を上げています。信頼できるかは、接触してみないと分かりませんが」
ミカはため息をつきつつ、リオンに会う決意をした。
「……面白い。君が“魔王の秘書”か。見かけによらず、鋭い目をしてるな」
現れたリオンは30代前後の男。
飄々とした態度だが、眼だけは嘘をつかない強さがあった。
「あなたの記事が各国の情勢をかき乱してるのは事実。わたしたちは、それを“偽情報”と見ているの」
「それは困ったな。私は事実を追ってるだけだ。……だが、君が真実を話すなら、私はそちらも報道しよう」
ミカはじっとリオンを見つめる。
「じゃあ、取引ね。“裏の真実”を教えて。あなたのペンで、この混乱を正して」
「ふふ……魔王軍にも、こんな誠実な交渉官がいるとはな。いいだろう」
ミカとリオンの間で、非公式ながら情報の共有が始まった。
「裏で各国に資金提供してる“スポンサー”の影がある。人間界の軍産企業だ。戦争を長引かせるために、和平を崩そうとしてる」
「……それが“背後の陰謀”……!」
リオンは言う。
「正直、俺一人じゃ掴みきれない。でも、君とならいける」
ミカはうなずき、手帳を差し出した。
「これが、魔王軍がまとめた裏ルートの動き。公には出せないけど、事実よ」
そして数日後、リオンの手によって世に出た新たな報道は――
【特集】“平和を望まぬ者たち” ―会議の影で蠢く資金と権力の闇―
「魔王軍、誠意ある交渉姿勢を見せる」
世界の空気が、微かに変わり始めた。
「……あなたの力がなければ、暴けなかった」
報道がひと段落した夜、ミカはリオンと再び対面する。
「お礼を言うわ。あなたは、敵じゃなかった」
「俺は味方でもない。ただ、“真実の味方”でありたいだけさ」
リオンはふっと笑った。
「でも……君と話すのは嫌いじゃない。なにより、魔王軍がこの時代を変えようとしてるのは、本当なんだなって思えた」
「ええ、わたしたちは――」
ミカは夜空を見上げながら答えた。
「この世界を、争いのない未来へと導くためにいるのよ」




