34話 魔族と人間の対話の可能性
魔王城・謁見の間。
勇者レイが再びその場に現れたとき、空気は一瞬凍りついた。
「……来たか、人間の勇者」
玉座に座る魔王アークが、静かにその姿を見下ろす。
「今回は剣ではなく、言葉を交わしに来た」
「剣を持っている者が、言葉を語るとは矛盾ではないか?」
「俺は、剣も言葉も、どちらも必要だと考えている。どちらかが嘘だと言われても、今はそれでいい」
アークは少し目を細めた。
「……では語れ。“勇者”としてではなく、“人”として」
レイの視線が、アークの傍らに控える秘書・ミカ(=主人公)へ向けられる。
「前にも思ったが、君が“理”を通しているのだな。魔王軍の中で冷静さを保つ、数少ない存在だ」
「ありがとうございます。ですが、私は“人”として、“秘書”として任務を果たしているだけです」
「なら、任務の一環として――俺の話を聞いてほしい」
レイは腰を下ろし、目を閉じた。
「俺はこれまで、戦ってきた。魔族を倒すのが“正義”だと信じて」
「……ですが?」
「だが、ここに来て“正義”が変わった。いや、揺らいだんだ。魔王アークが民を守り、統治をし、戦争を終わらせようとしているのを見て……俺は、確信した」
「“戦うこと”が正義ではない。“考えること”が正義だと」
アークは一度立ち上がり、背後の大きな窓を開いた。
眼下に広がるのは、魔族と人間の子どもたちが共に遊ぶ“境界都市プロメティア”の風景。
「我が王国は、今や数多の異種族が共存している。戦争で疲弊した魔族、故郷を追われた獣人族、技術を求めたドワーフ……彼らはこの地で共に暮らしている」
「……そんな未来があるのか」
「あるさ。だがそれを壊そうとする者もいる。“敵”は魔族でも人間でもない。“利”に生きる者たちだ」
レイが立ち上がる。
「なら、俺と君とで、正式に“和平の場”を設けよう。魔族と人間、それぞれの代表者を集めて、“言葉”で結論を出すんだ」
アークが笑みを浮かべた。
「……愚直だが、嫌いではない。秘書よ」
「はい、魔王陛下」
「この“人間の勇者”と共に、“世界会議”の草案をまとめよ。――これは我らが世界の未来を決める、最大の“議題”だ」
その夜、魔王城の裏手。
人影が闇に紛れ、報告の書簡を焚き火で焼き払っていた。
「勇者が“和平”を望んでいる? 馬鹿な……それでは、我らの“計画”が……」
彼らの正体は――人間側の一部過激派、そして魔族の反アーク勢力。
和平を許せぬ“旧体制”の残滓だった。
「ならば、和平会議の場で……“真の混乱”を始めるまで」




