33話 人間側の真実と背後の政争
人間側の中心都市・聖アルセリア。
勇者レイは、王都城の謁見の間で跪いていた。
「――魔王アークとの戦闘は中断。交渉の余地ありと判断し、休戦状態にございます」
「なに?」
玉座の上に座す王は、口元をぴくりと動かした。
「レイ、貴様……神託に背くつもりか?」
側近である枢機卿のベルダインが声を荒げる。
「いいえ。ですが、私の目と耳が告げています。“魔族は対話を求めている”と。敵意ではなく理性を――」
「理性? 魔族に?」
「戯言を申すな。魔族とは殺し合ってこその存在だ!」
「……それが、本当に“正義”なのか、私は疑っています」
レイが部屋を辞すと、王と教会関係者たちは険しい視線を交わした。
「……あの者、使えんかもしれぬな」
「勇者という立場に甘えて、神託に背くとは。異端の芽を摘まねばな」
貴族たちがざわつく。
「いずれ、勇者に代わる“兵器”を……」
「いや、奴が魔王と接触したのなら、逆に利用できる」
「交渉の場に情報を送り込み、魔族の内部を割るのだ」
彼らの“正義”とは、民ではなく“自分たちの地位”を守ること。
そのためには、真実さえ歪めるのだ。
一方、レイはかつての旧友であり、現在は王国の諜報部に所属する女性・セリアと密かに語らっていた。
「……王も教会も、戦争が続くことを望んでいるように見える」
「それが“利権”というものよ。魔族との対話が成功すれば、武器産業も、教会も、立場を失う」
「じゃあ俺は、何のために勇者になったんだ……?」
「あなたは“選ばれた”のではない。“使われた”のよ。あの剣も、その称号も――あなたが正義を信じる限り、道具にされる」
「それでも……俺は、俺の正義を捨てたくない」
レイの拳が、静かに震えていた。
「レイ。実はもうひとつ……重要な情報がある」
「なんだ?」
セリアが差し出したのは、一通の極秘書簡だった。
「魔王アーク――彼の血筋には、“かつての人間の王家”の血が混ざっているらしい」
「……なに?」
「つまり、魔王は“純粋な魔族”ではない。かつて人間と魔族の和平を築こうとした“異端の王子”の末裔だと」
レイは絶句した。
彼が敵だと教えられてきた相手が、“人と魔の橋”であったとは――
夜の王都。
レイは剣を前に、一人思案する。
「俺は……魔王と戦うべきか。それとも、共に未来を見るべきか」
剣に映るのは、自らの揺れる瞳。
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「レイ様、至急。王から“正式な討伐命令”が下りました」
「……!」
世界は、レイに“決断”を迫っていた。
その“責任”を背負う者として。
昨日、第3部作完成しました。
少しお休み頂いてから第4部作執筆致します。
第5部考案中




