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32話 勇者と語る「正義と責任」

「“正義”とは何だ?」


勇者レイの言葉は、まるで刃のようだった。


「正義とは、弱きを救う力。……それが俺に与えられた役割だ」


アークは目を閉じ、深く息を吐いた。


「その“役割”が、我ら魔族の排除を命じたのか?」


「神託は明確に言った。“魔王は災厄を呼び、この世界を滅ぼす”と」


「だがレイ殿、実際に“滅ぼされた”ものはあったか?」


私が口を挟むと、レイは少しだけ視線を緩めた。


「……実際に滅びた国を、俺はまだ見ていない」


「そう。それが“事実”。神託は予言かもしれないが、未来はまだ起きていない」


「なら、お前たちは何をしている? 魔族は、昔から人間を襲っていたはずだ」


「昔、確かにそういう歴史はあった。だが今は違う」


アークが静かに立ち上がる。重厚なマントが広がる。


「我らが今、しているのは――国の統治。民の保護。弱者の育成。人間と、何が違う?」


レイは、目を伏せた。


「それでも……人間たちは、恐れてる。お前たちが、いつ牙を剥くか……」


「恐れるのは自由だ。しかし、その恐怖を理由に“先制攻撃”を選ぶなら、それは“正義”ではない。ただの“暴力”だ」


レイが握りしめていた拳が震える。


「俺だって……俺だって、殺したくて剣を振ってるわけじゃない!」


「レイさん」


私の呼びかけに、彼は少しだけこちらに顔を向けた。


「私は、かつての“現代日本”で、同じような矛盾をたくさん見てきました」


「……日本?」


「ええ。人の名の下に争い、制度の下に苦しむ者がいて……でも、それを変える方法も、確かにあった。話し合い、理解し、共に未来を創る――その方法を、私はこの世界でも信じたいんです」


レイの眼が、わずかに柔らいだ。


「話し合いで、“真実”が見えるとでも?」


「はい。だから私は“秘書”として、両陣営をつなぎたい。魔王アークと、貴方と……人間の未来を、考えたい」


レイは、剣を床に突き立てた。


「俺の任務は、魔王を討つこと。それは今も変わってない……だが、正直、わからなくなってきた」


「わからないなら、少しだけ立ち止まれ。見極める時間を持て。それも“勇者の責任”だ」


アークの言葉に、レイは目を見開いた。


「責任……か」


「正義を信じる者は、正義に殺されることもある。だが、“責任”を果たそうとする者は、たとえ失敗しても、“誠実”として人の記憶に残る」


私の胸に、その言葉が重く響いた。


「……話し合いを続けたい。人間の国の上層部の意向も、伝える必要がある」


「それができるなら、我も提案しよう。“中立交渉の場”を作る。魔族と人間、そしてその他の種族も交えてな」


「……いいだろう。だが、俺が疑念を感じたら、剣を抜く」


「そのときは、お前の“正義”を見せてくれ」


こうして、勇者レイと魔王アークは、“短期的な非戦協定”に同意した。

敵対ではなく、“対話の場”に立つことを――。


だが、すべてがうまく進むわけではない。

次なる試練は、人間側の裏事情だった。

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