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28話 ドワーフの鉱山国家との技術交流

エルフとの“森の条約”を結んだ数日後。私は再び、異種族交渉の舞台に向かっていた。


今回の目的地は、ドワーフ族が治める鉱山国家「グルドガルド」。重厚な金属文化と屈強な労働精神を誇るこの国は、武具と機械技術においては世界でも屈指とされている。


ただし、気難しく、外の者への警戒心も強い。


「はぁ……。武器の話ならアーク様の方が得意なんですが」


思わずつぶやきながら、揺れるトロッコで鉱山都市へと降りていく。頭上には鉄と蒸気の匂いが漂い、遠くから打撃音と機械音が絶えず響いていた。


交渉相手は、グルドガルドの“鉄統長”――ボルド・ハンマーフィスト。巨大な鉄槌を背負った豪傑であり、技術にも誇りにも妥協を許さない職人の鑑である。


会談室には、金属製の長机と山のような設計図が広げられていた。魔王軍からの提案は、「技術協定による相互発展」――すなわち、


ドワーフの鍛冶・金属技術の共有


魔王軍の魔力変換技術の提供


新兵装の共同開発と供給体制の確立


だが、話は一筋縄ではいかなかった。


「――オレらの技術は、血と汗で築いた誇りだ。簡単に外に渡せるもんじゃねぇ」


ボルドの低く響く声に、私は静かにうなずいた。


「ええ。それは私たちも理解しています。だからこそ、我々は“共に創る”という道を提案したのです」


私は、持参した試作品――魔力で動く軽量鉱石ツール「エーテルリフト」の図面を提示した。それは、従来のドワーフ技術にはなかった“魔導の軽量化”の可能性を示すものだった。


「……これは面白ぇな。だが、“魔力依存”ってのが気に入らねぇ」


「では逆に、ドワーフ様の“蒸気機関と魔導融合”を提案しては?」


少しだけ、ボルドの眉が動いた。


会談の翌日、ボルドは私を地下鍛冶工房へ案内した。そこでは大小のハンマーが鉄を打ち、蒸気の熱気が漂っていた。


「見せてやるよ。ウチらの“魂”をな」


ドワーフ職人たちの無言の視線が突き刺さる中、私は懐から魔力エンジンのコアを取り出し、鋼鉄製の外殻と接合を試みた。


それは、「魔力×金属技術」の象徴ともいえる瞬間だった。


ボルドがその融合体をじっと見つめ、静かに言った。


「……言葉じゃねぇ。“作って、試して、燃えて、壊して”、それでようやくオレらは納得する」


その日、ボルドと私は、夜を徹して一つの“融合兵装”を作り上げた。


完成したのは、蒸気と魔力をハイブリッド駆動させる試作兵装――ギア・バースト。重量はあるが、一撃で岩盤を粉砕できる衝撃力と、魔力による精密制御を両立した画期的な装備だった。


試験運転の際、思わず職人たちが拍手を送った。


「……悪くねぇ。いや、かなりイイ」


ボルドが照れくさそうに呟くと、他のドワーフたちも次々にうなずいた。


「これが“融合”ってやつか」


「人間の娘、やるじゃねぇか」


その夜、グルドガルドと魔王軍との間で、正式な技術交流条約が結ばれた。

条約名は――「鉄と魔力の協奏条約ハーモニック・スミス」。


交渉が終わり、私は一人、火の残る工房を見回した。そこには、無骨で荒々しくも、どこか人間臭い“温かさ”があった。


ドワーフたちの誇りと、魔王軍の革新。相反するもののように思えたそれらが、交差し、手を取り合い、未来を形づくろうとしている。


「技術は、争いの道具にもなる。でも……信頼があれば、それは“架け橋”になる」


私の呟きが、鉄と火の中に吸い込まれていった。


こうして、三つ目の国家との交渉が、成功裏に幕を下ろした。


――だがその裏で、ある者たちの影が静かに動き始めていた。

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