217話 旅立ちの気配とそれぞれの選択
季節は秋へと向かい、いつもの城市にはわずかながらなごりと不思議な空気感が漂っていた。長い演習や群働の6か月を終え、王宮の日常にも「変化」の影が静かに差し込み始めていた。
「我が宅にも、季節がやってきたかな。」
ミカ・エストレーラはキッチンの窓身を開けて、新しい空気を吸い込んだ。絶好のローブ茶の香りもどこかおとなやかに変わった気がする。
実際、その日、王宮では三人の子供たちが、それぞれの道への歩みを始めようとしていた。
『王子:ルシア』
「本日より我は、西部地方群の衆議として、地域の発展計画を精調する。まずは、産業基盤の再構築と、新たな教育機関の計画。」
五年前には想像できなかった自分のすがたを前に、ルシアは出発の準備をちゃくちゃくと進めていた。
「新しい我が駅の始まりだな…さて、あの旧所長は、今も現場でぶつぶつ言っているのかな…」
ルシアは家族とは大げさな別れは言わない。それが、他なりの優しさでもあり、相手にとってのプレッシャーでもあった。
『次男:アレイド』
アレイドは文書の履いた手を止め、精神を集中しながら続けていた数学または戦術のモデルを一線切りに突き止める。
「王都戦術本部の旨の描いたプロトタイプは、第一ラウンドの代替を60%は占めるはず…但し、このロジックは未だ生にならない…」
アレイドは自分のいる場所に精確な意識を持ち、自分の力の範囲とそれを最大限に活かせる場所を選んだ。
「僕の計算も、課題も、話し合わずに支える力も、すべては、誰かを広い意味で助けるために…」
序進的な機関や魔術技術の拡張の中心となる都心でのアレイドの活躍は、やがて王国の戦略部署に深く関わることになるだろう。
『長女:アリア』
後日、地方の小さな衛備城での演習に参加するための準備を、アリアは自分でやっていた。
「安心して! 私、歩き出すことはちょっと怖いけど…この炎は、気持ちを伝えるためにだけに使うよ。もう、何も壊さない…」
先日の戦勢演習での小さなエピソードの評価も受け、気持ちの面でも成長しつつあるアリアの、それは本当の意味での「小さな紀元」であった。
それぞれの子らが、それぞれの場所に向かい、序々に準備を始める。
「別れ」ではない。それは、ただの「旅立ち」なのだと、誰もが自分に言い聞かせていた。
その日の夜、王宮にはわずかながら燈灯が流れ、次の65年を照らすように迎える空気を落としていた。
「我らが子らの未来は、ここから始まる…」
ミカは美しい笑みと共に、何かを守るように手を縁の3088うに互いに繋げる。
アークはその様子を無言で見つめ、笑わずにこくりと顔を陣とさせた。
そう、未来は。
他人から与えられるものではなく、自らの意思で、道を選びとるための旅立ちなのだと。




