213話 小さな英雄と認められる瞬間
「アリア、そこだ、いけるからなっ」
「わかった、ユリア。裏は頼んだよっ」
学園の模擬戦も終盤。一方的な辛戦は救助作戦へと大きく断導が切られた。
今日の課題は「逮捕者押退」。
トラップに落ちた役の生徒を、周囲から無傷で救い出す。
「左側のランに一緒に飛び込もう。この時間だと隙が出る。驚いてまだ陣形が復元してない。」
「私が突破する。他は頼むよ。」
探索した空間を通って、アリアは周囲を掃撤しながら前進した。
「もう、上手になりましたね。ラインの記憶ログとアレイドさまの分析は正しかった…」
「行くよ、私の炎はもう壊したりしないっ」
終盤、迷路のような不平地を通る程度の繋ぎ直し。階段を乗り越える時、アリアは倒れかけた役の女子をすんでのところで把握する。
「大丈夫。私が支えるから。待って、この棒を使って。」
相手は一瞬言葉を失ったようだったが、すぐにうなずい、先を進む。
最後の発災点。大きな堤を跡にして、アリアたちのチームは全員無事に逮捕者を救出することに成功した。
学園の教師たちの弾声と拍手。
ほっと一息つく間もなく、教練長の女性が身を前に押し出した。
「アリア、良くやりましたね。これまでなら前のめりしてしまいそうな場面でも、今日は『待つ』ことができた。」
「私は、ただ助けたかっただけ。それだけです。」
アリアは額の汗を押さえながら笑う。
以前のように胸を張るわけでもなく、ただ平穏な思いで。
「ふん…」
遠くの集合群の陰で、アレイドがそっと視線を向けていた。
「やっぱり、なりましたね…。炎が、光を過る日も遠くないのかも」
その瞬間、ユリアがゆったりと近づいて来た。
「よくやったな、アリア。本当に…良かったよ。」
「ユリア…うん、私、やっとなんだ。火を、前みたいに…壊さないで持てた」
「おめでとう。光らしくはなくても、その灼けるぐらいの燃え方は、美しいな。」
二人の視線が重なった瞬間、まるでいつかの戦場を見すえるような静けさと温もりが漂った。
「私の炎は、やっと灯火から炎になれたんだ」
少女は下を向きながら笑った。
その心はもう繁ることはなく、まっすぐに未来を見つめていた。




