20話 「最後の決断と“自分の使命”」
季節が巡り、魔王軍の職場改革は一応の完成を迎えていた。
残業ゼロ、士気向上、育成制度の安定運用……。
かつて「滅び寸前」とまで囁かれた組織は、いまやモデルケースとして注目され始めていた。
その日、悠真は魔王アーク=ヴァルツの執務室で最後の報告書を差し出した。
「……以上が、内政部門の最終整備報告になります」
「ご苦労だった、ユウマ」
魔王は静かに報告書を手に取り、しばらく目を通してから、言った。
「貴様が来てから、我が軍は変わった。いや、“進化した”と言うべきかもしれんな」
「ユウマ。私は一つ、決断をした」
魔王は、静かに椅子から立ち上がった。
いつもはどこか飄々とした彼の目に、強い意志の光が宿っている。
「私は、魔王という“力の象徴”である立場を、半ば手放すつもりだ」
「……どういうこと、ですか?」
「これからは“支配”ではなく、“連携”の時代だ。
魔族、人間、獣人、エルフ……すべての種族が共存しうる世界を目指す」
魔王軍を“軍”ではなく、“行政組織”へと再構築し、
自らは象徴的な存在へと退き、各種族との話し合いで政治を動かしていく。
それがアーク=ヴァルツの“魔王としての最終決断”だった。
「……それで、ユウマ。貴様は、どうする?」
しばらくの沈黙の後、悠真は口を開いた。
「俺は、ここに残ります」
「……異世界に来てまで、魔族の秘書をやりたいとは、奇特だな」
「正直、最初は逃げ出したいと思いました。でも……」
「この世界には、俺にしかできない仕事がある気がするんです」
「“変える力”を手にしたなら、それを活かす場所に身を置く。
それが――前世でできなかった、俺の“使命”だと思うんです」
その夜、悠真は初めて自室のベランダに腰を下ろし、空を見上げた。
異世界の星は、どこか優しかった。
前世の夜空では感じたことのない「肯定」がそこにある気がした。
> 「死んで終わり」じゃなかった。
> 「死んだから始まった」人生が、ここにあった。
過労死して終わったはずの人生は、異世界で「誰かを生かす」使命へと変わった。
それは、単なる異世界転生ではない。
> これは「再生」だったのだ。
数日後。魔王軍は正式に「魔王行政庁(通称MAO)」として再出発した。
悠真はその初代・総務長官に任命される。
もはやただの秘書ではない。「変革を導く者」として、組織の中心に立つことになる。
そして、魔王アーク=ヴァルツはこう語った。
「貴様はもう、秘書ではない。“導く者”として、共に歩もう」
悠真は笑った。
「いえ。俺はやっぱり、魔王様の“秘書”です。
世界が変わっても、その本質は変わりません」
第1部 完 ――
> “転生して初めて、誰かを支え、世界を変えることができた。”
> “魔王の秘書になったことは、人生で最高の転機だった。”
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✨次回予告:「転生したら魔王の秘書でした」第2部 開始予定!
第2部は21話から始まります。
次回予告:「転生したら魔王の秘書でした」第2部 開始予定!
「転生したら魔王の秘書でした」第2部:『秘書と王国と、世界会議』
現在、第三部作目執筆中。第四部・第五部考案中。
ご声援よろしくお願いいたします。




