表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/237

182話 はじめての会談

官邸風格の空気が立ちこめる広間。

白い厚手のカーテンが風に揺れ、窓越しには穏やかな庭園が見渡せる。

だがその美しさとは裏腹に、重厚な机を挟んで向かい合う者たちの思惑は、曇りなく険しい。

たった今から行われるのは、王都ルシアにとって最初の公式外交会談だ。


対面するは、小国「ヴィオラルド」の代表団。国王代理として、年長の宰相が出席している。


ルシアは、大人たちの間に並んで立った。緊張からか、両手を軽く握りしめている。

父アーク、母ミカ、そして重臣たちが礼装を纏い、その背後で静かに歩調を揃えて見守っていた。


「ルシア殿下も、こちらへどうぞ」


ヴィオラルドの宰相が静かに礼をし、ルシアに席を促す。ルシアは深呼吸を一つして、彼の隣の席へと歩み寄る。


アーク(静かに囁く)

「君の言葉を聞かせてほしい」


ミカ

「焦らず、あなたの率直な想いを」


ルシアは頷き、席に着いた。身体はわずかに震えているが、目だけは真っ直ぐに宰相と重臣たちを見据えていた。


宰相(重厚な声で)

「魔王国――失礼、王都よりご来訪を賜り、感謝いたします。貴国との交流は常に平和と繁栄の架け橋であり、今後も継続したいと考えております」


アーク(穏やかに)

「ヴィオラルド国の友好と協力に、心から感謝いたします」


ミカ(明るく)

「本日は、若き王子ルシアも交えての場となります。彼からも、皆さまへご挨拶をいただければと存じます」


ルシアは息を整え、立ち上がる。

静かな緊張感が、ルシアの言葉を聴く室内の空気を包んだ。


ルシア

「本日は、この場に立つ機会をいただき、誠にありがとうございます」


その低く落ち着いた声に、誰もが耳をそばだてた。


ルシア

「私はまだ未熟ですが……それでも、王族として、この国と国民の未来を考える者として――ここに来ました。私たちが築く交流は、利益だけではなく、お互いを理解し、共に歩む“道”を繋ぐものと信じています」


その真摯な言葉に、ヴィオラルド宰相は微笑みながら頷いた。


宰相

「王子殿下の言葉、まことに誠実であります」


会談は、貿易協定や関税、文化交流、人材派遣など多岐にわたり進展していく。

しかし、最も摩擦が生じたのは「魔力素材の輸出規制」に関する話題だった。


ヴィオラルド側は、希少鉱石を「保護資源」として重要視し、輸出制限を強めようとしていた。

魔王国側は、軍需や魔法研究に必要としており、その量を確保したい立場にあった。


緊迫した空気の中、議論はヒートアップする。


ヴィオラルド担当者(低く警戒心を込めて)

「我が国は環境保護と民生活の維持を最優先しています。鉱石の乱採が進めば、将来甚大な災害を招く恐れがあるのです」


アーク(穏やかだが強い意志を込めて)

「我々も理解しております。しかし研究と防衛のための資源は死活問題であり、一定量の安定供給をお願いしたいのです」


議場に静寂が流れる。その瞬間、ルシアが立ち上がった。


ルシア

「失礼いたします。私は王子ルシアです。正直に申し上げますと、私たちの目的は“生産と消費”ではありません。それは、ただの取引ではなく――未来を守るための選択です」


ルシアの発言に皆がざわめき、アークもミカも一瞬驚きを隠せなかった。


ルシア

「この資源は、我が国の民の生活と安全を支える一方で、ヴィオラルドの自然と文化を守る礎でもあります。どちらか片方だけを取るのではなく、安全と繁栄、双方を守る“調和”が必要です」


瞬間、室内が静寂に包まれた。ヴィオラルドの宰相が微笑む。


宰相

「王子殿下……その視点は、お見事です」


ルシアが相手の意向と自国の事情を織り交ぜたその発想に、議場の空気が一変する。


ルシアは続ける。


ルシア

「提案です。私たちは提供量を段階的に調整し、その使用用途と生産状況を双方で報告し、共にデータを分析し、必要があれば供給量を調整していく“協調管理”を取りませんか?」


それに対し、ヴィオラルド側が頷き合った。


ヴィオラルド代表者

「それは……我々が望む“責任ある協力”です。数値と契約だけでなく、互いのコミュニティと未来を考える姿勢……感銘を受けます」


アークとミカも、満足そうに微笑んだ。

ルシアは席に戻る際、両親から小さく頷かれ、彼の心の中に静かな誇りと確信が灯った。


広間を出て、廊下で四人は歩く。


アーク

「よくやった、ルシア。君の提案こそ、魔王国が求める“王族の言葉”だった」


ルシア(照れくさげに)

「ありがとうございます、父上。ただ……次はもっと、ミカ母上のような“言葉の優しさ”も身につけないと」


ミカ(微笑んで)

「あなたの言葉には、“責任”があった。それで十分よ」


ルシアは深呼吸し、空へと視線を向ける。


馬車を出る間際、彼は思いを巡らせた。

“未来”を背負うとはどういうことか。

“選ぶ者”として進む道にどんな風が吹くのか。


そして、覚悟は風と共に、彼の胸に根付いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ