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18話 モチベーションを保つ方法

「定時退庁、休暇制度、健康診断……それで全てが解決すると思っていた。甘かった」


執務机で頭を抱える悠真。

魔王軍に導入した働き方改革が一定の成果を上げる中、新たな問題が表面化していた。


それは――

“やる気の低下”だった。


「……正直、張り合いがないんだよな」

「前は“怒られないために”全力で動いてたけど、今は怒られないし……逆に、やることに意味が感じられなくなった」


【報奨部】の若手魔族の言葉だった。

悠真はこの問題が「魔王軍全体に共通する空気」になりつつあると悟った。


「なるほど、“外圧”が消えたことで“内発的動機”が必要になったんだな……」


彼はひとつの言葉を思い出す。

――「認められたい」「役に立ちたい」

人が自ら動くには、“存在意義”が必要なのだ。



まず悠真は、全隊にこう通達を出した。


> 「各部署は、週に1度“ありがとうレポート”を提出してください」

> 「誰がどんな場面で助けてくれたか、ひとことでも構いません」


最初は反応も冷ややかだった。


「は? 感謝の報告? なんだそれ……」

「仕事でやったことに、いちいち感謝とかいらねーよ」


だが数日後――


「……え、これ、俺のこと?」

「“書類のミスに気づいてくれて助かりました”って……俺、見られてたのか……」


「“ありがとう”って、魔王軍にこんな文化あったっけ……?」


小さな“称賛”が静かに心に火を灯していく。



次に悠真は「役割ごとの目標管理シート」を配布した。

通称【ミッション・ログ】。


「任務目標」と「期間内の達成条件」を個別に設定し、

達成度に応じて上司から直接フィードバックを与える制度だ。


単純な作業も、「自分が責任を持つ任務」として扱えば意識が変わる。


【後方支援部】の小柄な魔族は言った。


「この前、俺がまとめた医療物資の在庫表、“作戦成功の鍵になった”って報告されたんだ」


「……数字を並べてただけなのに、“仲間を救った”とか言われたら、さ……」


思わず涙ぐむ彼を見て、悠真は確信した。


やる気を生むのは、“自分がこの場に必要だ”と感じられる瞬間だ。



最後の仕上げは、トップの威光。


悠真は魔王アーク=ヴァルツに「個別感謝メッセージ」の執筆を提案した。


「……面倒だ。わざわざ部下ひとりに言葉など……」


「たった一行でもいいのです。“よくやった”の一言が、何百時間分の労力に匹敵します」


「ふむ……人間界は不思議だな。言葉が力になるなど」


「いえ、言葉は――力そのものです」


しぶしぶながらも、アーク=ヴァルツは一枚一枚、魔王軍隊員へ直筆でメッセージを書いた。


そのひとつが、ある兵士の手に届いた時――


「“君の踏破した氷原は、魔王軍の道標となった”……っ!」


兵士はそれを額に入れ、寝室に飾ったという。


数週間後。


魔王軍は静かに活性化していた。


“誰かに見てもらえる”

“意味があると信じられる”

“ありがとうが返ってくる”


そんな当たり前の感情が、やがて大きな力へと変わっていく。


悠真は執務室の窓から、訓練場を眺めながら呟いた。


「“心”のない職場に、人は根を張れない。

でも、ほんの少し温かいだけで――世界は変わるんだな」

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