167話 アレイド、冷静なる“弟”の決断
朝の柔らかな日差しが城の大広間を照らす中、アレイドはテーブル越しに新聞を広げていた。周囲に浮かぶ王族たちの声が彼の集中を邪魔する気配はなかった。
侍従クレイン(そっと)
「アレイド様、お住まいの地区で明日の祭り用の人員調整の件ですが……」
アレイド(窓の外を眺めながら)
「そうですね、老人福祉ボランティアのリストに追加してください。彼らにも楽しい時間を過ごしてもらいたい」
クレインは微笑み、静かに頷いた。アレイドは“弟”でありながら、すでに小さな政治家のようだった。
昼下がり、ルシアとアリアが勉強部屋で言い争っていた。算数の問題で意見が食い違い、口論が熱を帯びてきた。
ルシア
「答えは15でしょ? ほら、この公式を使って……」
アリア(癇癪気味に)
「でも教科書は16って書いてあるもん!だから間違ってるもん!」
アレイドは席を離れ、二人の間に割って入る。
アレイド(静かに)
「どちらも違うかもしれない。でも大切なのは、“どうして”数がそうなるかだよ。ルシア兄さん、アリア、公式をもう一度確かめよう」
二人は静かになり、アレイドの提案に耳を傾けた。彼は理路整然と丁寧に式の意図を説明し、やがて三人は笑顔で解答に辿り着いた。
アリア
「ありがとう、アレイド……すごくわかりやすかった」
その夜、アリアが眠る前にひそかに呟く。
アリア(眠たげに)
「アレイド兄ちゃん、大好き……」
アレイドは微笑むと囁く。
アレイド
「僕も、大好きだよ」
夕方、アレイドは城外の景勝地を散歩していた。子どもたちの声が響く広場で、幼児たちが転んで泣いているのを見かける。
アレイドは迷わず駆け寄る。
アレイド(優しく)
「大丈夫?膝、痛くない?誰かお母さん呼ぶ?」
泣いていた子どもは頷くが、人見知りもあり声を上げられない。アレイドは笑いを交えながら膝を撫でてあげ、安全な場所まで連れて行った。
その場にいた母親が声をかける。
母親
「ありがとうございます……助かりました」
アレイドは軽く敬礼のようなお辞儀をする。
アレイド
「いいえ。誰かが泣いてるのを見過ごせないだけです」
アレイドの姿は、家族だけでなく国民へ対する“心遣い”も備えていた。
夜、アークとミカとアレイドは子ども部屋で三者面談中だった。
ミカ(微笑みながら)
「アレイド、この頃の君を見ていて思うの。冷静で、誰かを気遣う姿勢が素敵だと」
アレイドは少し照れながら頷く。
アレイド
「僕、お兄ちゃんみたいに守るよりも、“支え合う関係”がいいなって思ったんです。誰かを助けるなら、自分の気持ちも伝えたい」
アークが頷く。
アーク
「言葉にできることは強さだ。お前はその才能を持っている」
ミカも続ける。
ミカ
「だから、アレイド。あなたには“民の声を国へ届ける秘書”になれる素質があるわ」
アレイドは深呼吸し、真剣な表情になる。
アレイド
「僕、もっと学びたいです。国の仕組みも、人々の生活も。そうすれば、誰かの声に応えられる距離を自分で選べると思うから」
夜更け、ミカとアークは子ども部屋から出て行く。アレイドは枕元に置かれた日記帳に向かっていた。
アレイド(小声で)
「“僕は、誰かの声を伝えるために、どんな大人に育つんだろう”……」
ペンを置き、アレイドは窓の外の星空を見上げる。
アレイド(囁き)
「ルシア兄ちゃんの優しさ、アリアの笑顔、家族の信頼……その期待に応えたい。でもそれより、自分の声で誰かを救える人間になりたい」
静かな夜に、アレイドの瞳は強く輝いていた――幼いけれど、もう自分だけの道を見つけた少年の覚悟の光で。




