165話 背中を見せる者として
「母として・王妃として・秘書として――歩む姿が、誰かの未来を照らす」
朝の大理石広間に、ミカが凛とした姿で立つ。傍らには補佐官たちが控え、その眼差しには確かな期待が込められていた。
補佐官A(静かに)
「王妃殿下、本日の教育改革案は質疑応答を含めて二時間の審議予定です」
補佐官B
「午後には貿易協定書の草案修正も始めます」
ミカは目を閉じ、深呼吸。背中を滑る緊張と覚悟。
ミカ(強く)
「ならば、国の未来を背負うつもりで臨みましょう。背中を見てくれる人がいる限り、私は後退しない」
議場では教育改革案に対する質疑が続く。ミカは傍聴席に立ち、制度図を手に回答する。
議員エルマー
「王妃殿下、なぜ異種族の教育制度強化にそんな力を注がれるのです?」
ミカ(静かに)
「未来に共に歩む者たちに、等しく学ぶ権利を与えることは、平和の礎です。国が長く続くために必要な“心の絆”を育むことこそ、私たちの使命です」
議場から拍手が起き、ルシアやアレイド、アリアの唇が誇らしげに引き上がるのを、彼女は感じた。
夜の食卓。三人がそれぞれ今日の出来事を語り、ミカは笑顔で耳を傾ける。
アレイド
「母さん、教育の改革って、ぼくが話したあの ‘科学クラブ’ の件も含まれてるの?」
ミカ
「ええ。あなたのアイデアもちゃんと取り入れたのよ。“理論と実践を学ぶ場”と明記しました」
アレイドの顔が輝く。
ルシア
「お母さんが壇上で答える姿、かっこよかった。すごく堂々としてたよ」
アリア
「ママの言葉、すごく温かくて…。私も誰かの未来を守れるようになりたい!」
ミカはそれぞれ抱きしめる。
ミカ
「ありがとう。あなたたちが“私の背中”を見て育つなら、私はもっと強く歩こうと思えます」
夜も更け、ミカは執務室で外交文書の最終確認を行う。
補佐官C(控えめに)
「王妃殿下、明日の連合王国との条約には“女性の権利保障”条項を入れておくべきでしょうか?」
ミカは静かに頷き、文書に赤いペンで「+女性教育基金の創設」と書き加える。
ミカ
「国の礎は“全ての民に機会を”。秘書として、王妃として、約束を形にしましょう」
補佐官Cが感謝を目に浮かべる。
補佐官C
「殿下の視線を見習いたいです」
ミカは疲れた顔で微笑む。
ミカ
「私はただ…皆で歩く道を照らすだけです。その先に、未来がある限り」
深夜、執務室を後にしたミカの後ろからアークが静かに近づく。
アーク(そっと)
「まだ起きていたか……」
ミカ(振り返り)
「あなたにこの言葉を聞いてほしくて。私の背中――あなたはどう見ていますか?」
アークは彼女の側に歩み寄る。
アーク
「それは、国も家族も秘書も――すべてを紡ぐ主軸だと感じる。私たちにとっての“北星”のように」
ミカの頬が涙で濡れる。
ミカ
「私にできることは、歩き続けることだけです。だから……」
アークがそっと指を弾く。
アーク
「だからこそ私は、君の背中を押す。」
二人は、夜空に寄せた誓いを交わすように、静かに寄り添いながら立つ。




