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10話 教育制度と人材育成の始動

「……また、同じミスか」


俺はため息をついた。

物資申請書の記入欄に、また“個数”ではなく“重さ”が記されていた。しかも単位が「ゴブリン袋分」。


――“いつものやり方”は、必ずしも“正しいやり方”ではない。


いくら業務フローを整備しても、それを正しく使える人材が育っていなければ意味がない。

魔王軍の中には、超一流の戦闘員もいれば、長年の勘で仕事をこなす古参もいる。

だが、標準化されたスキルや知識を持つ者は、ごくわずかだった。


「仕組みは整った。次は……人だ」


俺は人事局の局長・サラフィーネに声をかけた。


「“研修制度”を導入したいんです」


「研修? 勉強会のような?」


「そうです。新人向け、管理者向け、職種別――体系立てた教育が必要です」


「ほぉ……それは斬新ね。でも、時間も人手も足りないわよ」


「だから、まずは“教える人”を育てましょう。“教官制度”です」


第一段階は、“教える人材の育成”から始めた。


俺はかつての会社で学んだ「OJTオン・ザ・ジョブ・トレーニング」の考え方を応用し、

優秀な現場責任者に対して“指導者講習”を実施した。


内容は以下の通り:


・業務手順の伝え方

・フィードバックの出し方

・部下の成長を促すマインドセット

・誤解を防ぐための魔法的“視覚補助”


講習は好評だった。なぜなら――


「……部下の育て方なんて、今まで考えたことなかった」


「いつも“失敗したら怒る”だけだったが……“失敗した理由を訊く”って、考えたこともなかったな」


皆、気づいていなかったのだ。

指導とは、叱責ではなく“伴走”であることに。


次の段階は、“基礎教育の整備”だ。


俺はリリス様と相談し、空き部屋を改装して「研修室」を作った。


魔法黒板、記録用クリスタル、再現魔法によるシミュレーター。

これらを活用し、新人兵士や新任文官を対象に“初任者研修”を開始。


内容は以下の通り:


・基本的な書類の書き方

・報連相(報告・連絡・相談)の魔法式実践

・魔王軍の組織図と指揮系統の理解

・魔導端末の使用法と注意点


研修は1週間。修了者には「認定証」が授与され、

一部の部署では“初任給の昇給対象”にもなった。


「すごい……こんなにわかりやすく教えてもらったの、初めてかも!」


「現場の指揮官に叱られる前に、ここで練習できるのありがたいです!」


受講者の声を聞くたびに、俺は確信した。

“人は、育てれば育つ”と。


ただ、ここでも課題はあった。


「なんだ、あの子は……字も読めないのか?」


「いや、そもそも基礎教育を受けてないんだ」


魔族の中には、貧困地帯出身で読み書きすらおぼつかない者もいる。

そういう者たちは、これまで“力仕事”に回され、管理業務からは排除されてきた。


「でも、それじゃダメなんだよ」


全ての業務が“脳筋”でこなせる時代は終わった。


俺は研修制度の中に“識字・計算力強化コース”を追加。

対象者には学び直しの機会を与えた。


「自分には関係ないと思ってた。でも、今ならわかる。“学ぶって、強くなること”なんだな」


ひとりの大男が、俺の前で照れながら言った。


「……ありがとうな。オレ、字が書けるようになって、家族に手紙送れるようになった」


俺は黙ってうなずいた。

それが何よりの報酬だった。


そして、制度の完成に向けて、俺は最後の要素――「評価と昇進の仕組み」を提案した。


努力した者が報われること。

知識を持つ者が指導的立場に立つこと。

それが魔王軍の“新しい風土”になるように。


魔王陛下に進言し、次のような制度を導入した。


・研修修了者には「評価点」が付与される

・評価点は昇進・転属・給料に反映される

・評価の透明性を保つため、年2回の“面談評価制度”を導入


「まさか魔王軍に“人事評価”ができるとはな……!」


「オレ、この前面談で“部署異動”希望出したんスよ。そしたら通っちゃって!」


驚きの声が上がる一方で、冷ややかな視線も感じた。


「点数化なんて、人の価値を決めるな」


「それでも、誰かが決めるしかない。でなければ、また“声の大きい者”が得をする」


評価とは、“見えない努力”に光を当てる行為でもある。


俺は、それを忘れないようにしていた。


そして現在――


研修制度の導入から半年。

魔王軍では“自発的な学び”が芽生えつつある。


「今度、応用魔法事務処理研修ってのがあるらしいぜ」


「教官になってみようかな……後進に教えるのも悪くないしな」


人は変わる。

そのために必要なのは、“仕組み”と“機会”、そして“信じる意志”。


俺は今日も、研修資料を抱えて会議室へと向かう。


秘書の仕事とは、ただ指示をこなすだけじゃない。

未来を描くこと――そして、それを共に築く仲間を育てることなのだ。

小説家になろう掲載に伴い

オリジナルソング作成しました。

YouTubeにアップ中です。


イメージソング「書類とスケジュールと魔王陛下」

https://youtube.com/shorts/OtvJK7Ycg50


2曲目のイメージソング「書類と魔法と決裁印」

https://youtu.be/nZO8pJycays


2曲ともいい出来です( ̄▽ ̄;)


現在三部作目を執筆中。四部・五部考案中です。

よろしくお願いいたします。

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