畸形
「何故」と問う君を、僕はワイヤーで椅子に縛り付ける
傷付かないように丁寧に
でも、逃げようとしたら傷付くように
当然だけど、同級生を監禁するのは初めてだった
納得のいく状態になれば解放するつもりだったが、僕の目算では『納得のいく状態』になり得るとは、とても思えなかった
「ねえ、なんで?」
「こんな事する必要ないじゃん」
君は不安げにワイヤーを視回す
僕には解る
暴れないのは、ワイヤーが躰に喰い込むからだ
──何日か前から、僕たちは秘密裏に恋人としての交際を始めていた
しかし、僕が今やっているのは、さながら片思いをこじらせた異常者のそれだった
「君の事がずっと好きだったんだ、おかしくなるくらい」
独白のように僕は語る
「君と恋人になれば心が満たされて、おかしく無くなると思ってた」
「なれるって思ってた」
君の眼を視る
言葉よりも雄弁に、視線が『解らない』と告げていた
『一体何を言っているのだろう』とも
だから、僕は続ける
「でも君から受け入れられて、僕はおかしくなっちゃったんだ」
自分の声の予想外の抑揚の無さに、僕は気持ち悪さを感じた
君が僕を視ている
恐怖
この瞳の『色』は、『恐怖』だ
解って貰えるとは思わずに話してはいたけど、涙が溢れてくるのを感じた
僕はそれを無意識に抑えようとしたけど、いま感情が抑えられないのと同じように、どうやっても涙に蓋をする事が出来なかった
「───君が誰かと仲良くしてると、ムカつくんだ」
ぽつりと、僕は君に言った
本当はもっと取り繕った言い方をしたかったけど、何度考えても、他の言い方では意図を正確に伝える事が不可能そうに思えた
「ずっと、僕だけの物になって欲しい」
「おかしいよね」
「僕は多分、怪物なんだ」
ぽた、ぽた、と音がする
視なくても解る
僕の涙が床を打つ音だった
「ねえ、助けて」
答えは既に知っている
古今東西を問わず、この言い方で助けて貰えた怪物はこの世に存在しない
「助けて」
「助けて」
「助けて」
まばたきもせず、僕は君に向けて歩く
君が何かを言おうとするのが視えた