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【連載版】 ヒロイン大渋滞な世界は、一般人にはつらすぎる  作者: 榎本モネ


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13/19

13、学園祭は、修羅場の予感しかしない


 放課後の喫茶ステラ。本格的に学園祭の準備が始まる前、いつもの4人で飲み物を口にしながら、私とメロちゃんが書き出した「起きそうなトラブル一覧」を見ていた。


「で、学園祭でありそうなトラブルって、どんな感じだ?」


 ダンテ様の言葉に、私はは手元の資料を広げる。ここには、私とメロちゃんが前世の記憶を振り絞って書き出した、学園祭・文化祭系のイベントで起こりえるトラブルを列挙していた。


「学園祭当日だと舞台装置の故障はありがちですかね。音響や照明が止まったりすると、ステージ上がパニックになる。準備の段階でありがちなのは材料崩れとか倒壊。近くにいる人に被害が出る」

「なるほど。俺たちは巻き込まれないよう、退避ルートや危険ゾーンは頭に入れておく。何かしらの被害が出そうになったら、スムーズに避難誘導をする必要があるな」


 ダンテ様は手を組み、頷く。メロちゃんは資料を眺めながらため息をついた。


「火や水を使う魔法系の出し物は、距離を取らないと面倒なことになりそうね」

「ええ~面白そうだけどなぁ」

「巻き込まれそうになったらすぐ逃げること。自分の身体を第一にしないと」


 ロメオ様の発言に、メロちゃんが冷静に突っ込む。ロメオ様はうなずきつつも、やれやれと言わんばかりに肩をすくめた。……本当に理解してるのかな。


「ゴリラたちの演出過剰も油断ならないわ。巻き込まれる可能性もあるから、無理やり参加させられそうなときの逃げ方も考えておく必要がありそう」


 メロちゃんは資料に目を落としながら、端的に助言する。この場には「乙女ゲーム」「転生者」「攻略対象」を知らないロメオ様がいるので、メタ的な発言は控えなくちゃいけない。なので、ヒロインたちを「ヒロイン」と言うと「何それ?」となってしまうので、「遠い国にいるゴリラという生物が、あの猪突猛進な女の子たちの様子と重なる」ということにして、「ゴリラ」と呼称している。


「教室や廊下の混雑もだな。はぐれたり、他のゴリラと接触したりする危険は高い」


 ダンテは机を軽く叩きながら、疲れた様子でそう言った。


「あと魔術や錬金術関係も要注意。装置や材料の過剰魔力、予期せぬ挙動……爆発したり透明化したり、何が起きるかわからないと思います」


 私も言葉を付け加える。


「……まあ、こういう準備をしておくと、巻き込まれる可能性は減るってことだねぇ」


 ロメオ様は軽くうなずいているけど、それは「巻き込まれる=面白いこと」が減ることにちょっと不満を抱いているようにも見えた。


「お互い、被害者にならないように気を付けるのよ」

「はいはい、わかりましたってば」


 メロちゃんの言葉に、ロメオ様は肩をすくめ、どこか嬉しそうに笑った。

 4人の間に、軽い緊張と確かな連帯感が流れる。トラブルはまだ起きていない。ただ、学園祭はすぐそこだ。



◇◇◇


 学園祭の出し物が正式に発表された翌日から、学園全体の空気は一気に浮き足立った。

 廊下には設営用の板材や布、よく分からない魔術装置の部品が転がり、あちこちから金槌の音や詠唱の途中で噛んだ声が聞こえてくる。普段は静かな学園が、まるで巨大な作業場になったようだった。


「……始まったね」


 教室の扉を開けた瞬間、私は思わずそう呟いた。

 私とメロちゃんのクラスの出し物は、「錬金×魔術の体験型展示」。安全第一、触って学べる、という建前のもとで決まったはずなのだけれど。


「で、なんで黒板の前に巨大な釜があるの?」

「雰囲気!」


 即答したのはクラス委員だった。釜の横では、錬金術の材料箱が三段積みになっている。しかも一番上の箱が微妙に傾いていた。


「それ、崩れない?」

「大丈夫大丈夫、固定してあるから!」


 その言葉を聞いた瞬間、私は嫌な予感しかしなかった。案の定、次の瞬間。

 ――ガタッ。


「ちょ、箱!」

「待って今押さえる!」


 誰かが慌てて手を伸ばしたが遅かった。一番上の箱がずるりと滑り、連鎖的に二段目、三段目と崩れ――。


「きゃっ!」


 床に散らばる錬金素材。粉末、瓶、小袋、小袋、小袋。私はため息と共にマスクをつけ、しゃがみ込んで素材を拾い集める。


「メロちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だけど、これ吸い込んだらまずいやつじゃない?」

「色的にアウト」


 その騒ぎの最中、教室の扉がノックされる。


「生徒会だ。進捗確認に来た」


 堅い声とともに入ってきたのは、ダンテ様だった机の上の惨状と、床一面の粉末を見て、彼は一瞬だけ目を細める。


「……想定より早いな」

「初日からです」


 私は苦笑しながら答える。


「一応聞くが、危険物は?」

「分類的には“扱い注意”が7割です」

「7割か……」


 ダンテは額を押さえた。


「一時間以内に片付く?」

「二時間は欲しいです」

「……分かった。廊下側は通行止めにしておく」


 そう言って、彼は静かに教室を出て行った。


「助かったわね」

「ええ……」


 メロちゃんと顔を見合わせて、同時にため息をつく。

 ――学園祭準備、一日目。まだ序盤なのに、すでに胃が重い。


◇◇◇


 午後。今度は装飾班が問題を起こした。


「天井から布を垂らして、幻想的な空間にしたいんです!」


 そう言って、クラスメイトが持ち込んだのは、想像以上に分厚い布だった。


「……それ、重くない?」

「大丈夫!魔術で浮かせるから!」


 その発言に、私はメロちゃんと同時に眉をひそめた。


「誰が魔術使うの?」

「えっと……呼んできます!」


 数分後、現れたのは、別クラスの魔術科生徒。彼は、大量の布を見て首をかしげている。


「簡易浮遊ならいけると思うけど……量、多くない?」

「雰囲気重視で!」


 嫌な予感が、確信に変わる。

 詠唱。一瞬、布がふわりと浮いた。


「ほら!」

「成功――」


 ――バサッ。

 次の瞬間、魔術が途切れ、布が一斉に落下した。


「きゃあああ!?」

「視界ゼロ!」


 教室が一瞬で布に埋もれる。


「誰!? 誰か布の端踏んでる!?」

「私じゃない!」

「動かないで!絡まってる!」


 私は布の隙間から顔を出しながら叫んだ。


「装飾、軽量化してください! この重さは展示向きじゃないです!」

「ええ~でも映えるのに……」


 その言葉に、メロちゃんが即座に冷静な声で切り返す。


「映える前に怪我人が出るわ」


 沈黙。最終的に布は半分以下にカットされ、魔術は補助程度に留めることになった。


「……想定通りだね」

「ええ、演出過剰」


 私たちはうなずき合う。私たちのクラスだけでも、これだけのトラブルが起きているのだから、他のクラスも大変なことになっているだろう。


◇◇◇


 翌日。今度は魔術科の廊下が騒がしかった。


「何これ、勝手に色変わるんだけど!?」

「魔力供給量ミスってない!?」

「ちょっと誰か止めて!」


 通りがかった私は、足を止める。廊下の一角で、小型展示用の魔術装置が暴走していた。光る。回る。鳴る。色が変わる。


「……あれ、止めないとまずくないですか」

「だねぇ」


 背後から聞こえた気の抜けた声。振り返ると、ロメオが立っていた。


「でもさ、今止めると中途半端な魔力残留が――」

「今それ言ってる場合ですか」

「まあまあ」


 彼はひらりと手を振り、装置に近づく。……と思った瞬間、装置が一際強く光った。


「うわ、派手」

「派手で済めばいいんですけど!」


 最終的に、魔術科の教員が飛んできて強制停止。


「魔力供給の再計算、やり直し!」

「はーい……」


 廊下に残されたのは、焦げた床と、ぐったりした生徒たち。


「……準備段階でこれは、当日怖いわね」

「だね」


 ロメオはどこか楽しそうだった。


「学園祭って、こういう“想定内の事故”が一番面白――」

「巻き込まれないでくださいね?」

「善処するよ」


 信用は、していない。


◇◇◇


 準備期間が進むにつれ、学園全体が「想定通りの混乱」に包まれていった。


 発注ミスで届いた大量の砂糖。足りないはずの紙皿が逆に余る模擬店。誰も使えない大型装置。通路を塞ぐ看板。


「これ、どこに置くの……」

「廊下はダメって言われた」

「教室ももういっぱい……」


 私は頭を抱えながら、メロちゃんと一緒に物品リストを見直す。


「……リーナ」

「なに?」

「やっぱり、準備段階が一番危ないわね」

「同感」


 私たちは同時に笑った。まだ何も“決定的な事件”は起きていない。でも、確実に、学園祭という巨大なイベントが動き始めている。

 浮かれた空気の裏で、小さなトラブルが積み重なり、いつか大きな何かに繋がる予感だけが、静かに、確かに、広がっていた。


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― 新着の感想 ―
温厚な生き物であるらしいゴリラかわいそう(笑)。
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