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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

契約破棄された魔法少女は、最恐魔法少女に成り上がる

作者: 月乃宮 夜見


「ソレーユ! きみとの契約を破棄するよ!」


 魔法少女達の拠点の中で、そう告げられた。


「え」


 突然の言葉に、ソレーユことわたしは絶句する。


 顔を上げれば契約破棄を言い渡した妖精テールが、うさぎのような耳を立てて興奮した様子だ。小さい身体で宙に浮いて、わたしを見下ろしていた。


 そしてその横には、チーム1番の美少女のヴェヌスが立っている。


「ヴェヌスが1番の魔法少女だって分かったからね!」


 ヴェヌスは銅色の長い髪を掻き上げ、緑の目を細めて勝ち誇ったように微笑む。そんな様子も美しい、というか様になっている。


「ごめんね、ソレーユ。あたしががんばっちゃったから……

でも、あなたはもう、テールにとっての1番じゃないの」


 彼女の美しさには誰も敵わない。金星の加護受けてるから。『頑張っちゃった』、というのはおそらく倒した敵の数とか社会貢献とかそういうところだ。

 魔法少女は敵を倒して社会貢献した者にポイントが与えられる。

 そして溜まったポイントは、妖精や魔法少女の評価につながるのだ。


 わたしもみんなが倒した敵の後始末とか道案内、ゴミ拾いとかしていた。けれど、敵を倒す事や目に見える親切よりは目立たない。だから、あまりポイントは稼げていなかった。


「それにマルスもメルキュールもジュピテルも居るし」


敵を倒すのは火星のマルス、撹乱させるのは水星のメルキュール、作戦を立てるのは木星のジュピテルの役割だ。

 拠点での食事の用意や片付け、掃除は、全部わたしがやってるけれど。


「みんな頑張ってるって言うのに、きみはただそこに居るだけだし、何もしていないじゃないか」


 確かに、みんな目に見えて活躍をしている。でも、わたしはそのみんなをサポートしているだけ。……みんなより、何もしていない。


「ソレーユ、きみはもう要らない」


 改めて突きつけられた現実に、目の前が真っ暗になる。


「契約……切れたらどうなるの」


「それはもちろん、魔法少女じゃなくなるんだ」


淡々とテールは答えた。


「きみが今まで受けていた恩恵も全てなくなるよ」


恩恵、というと魔法少女に変身できること、衣食住の保証があること、そういうところだ。


「まあ、また新しい契約を結べたら、話は別かもしれないけどね」


とテールは言い、離れていった。

 くすくすと笑う魔法少女達が、こちらを見ている。


「安心して。契約が切れても1ヶ月は猶予があるから。じっくりと、ただの少女に戻る日々を噛み締めて過ごすといいよ」


×


「はぁ、どうしよ」


 拠点に居られなくて、夜の街に飛び出した。

 誰にも咎められなかった。

 昔は「危ないよ!」とテール達に注意されていたのに。


「これはこれは。珍しい方がいますね」


 からかう声に顔を上げると、そこには敵対しているはずの銀髪紫眼の、神経質そうな男が居た。


「リュンヌ!」


「お待ちください。貴女と敵対する意志はありませんよ、折角の好機だと言うのに」


 武器を構えたわたしに、リュンヌは軽く両手を上げる。


「好機?」


「ああ、いえ。貴女とじっくり会話ができる機会、という意味で」


「ふぅん?」


いつもは敵対していてまともに会話できないから、だそうだ。わたし自身はあまり話すことはないけど、と思いながらリュンヌを見る。


「もしかして。切れたのですか、契約」


 わたしを見つめ、リュンヌは問いかけた。


「え」


なんでわかったのだろう、と思わず警戒して後ずさる。


「ああ、だから警戒しないで下さい。簡単なことです。こんな時間に貴女が外にいる事、貴女の力が弱まっている事それらを鑑みれば、(おの)ずと想像できます」


「そう、なんだ」


 言われて、肩を落とす。契約が切れたそれが事実だと突きつけられた気がした。


「私と契約をして頂けませんか、ソレーユ」


 片膝を突いて手を差し出して、まるでプロポーズをするかのような出立ちでリュンヌは告げる。


「……え?」


 彼は、じっとわたしを見つめた。その顔は真剣そのものだ。


「契約って妖精とじゃなくてもいいの?」


「まァ、どうとでもなります」


わたしの疑問に、立ち上がって彼は投げやりに答える。そして、「変身ができるなら妖精でなくとも問題ないでしょう」と膝の埃を払った。

 事実、妖精との契約が切れた現状でも、わたしはまだ魔法少女に変身できている。


「なんで契約してほしいの」


「逆に、貴女は魔法少女を辞めたいのですか?」


「ぐぬ」


質問を質問で返された。わたしは……魔法少女を辞めたくない。


「相手が誰であれ、『契約をしている魔法少女』には衣食住の保証が行われます。学校や給金、その他諸々のお金の問題も全て」


「知ってるけど」


辞めたくない理由はこれだ。親なしのわたしがちゃんと学校を出るには、魔法少女をやるしかなかった。


「それに、妖精から解約された魔法少女は『無能』として二度と選ばれることは滅多に無い」


「……」


「つまり、契約を切られた貴女と再契約しようという妖精など、ほぼ居ないと言っても過言でない」


 悔しいけど、彼の言葉通りだ。再契約を結んだ魔法少女の話なんて、一度も聞いた事がなかった。


「きみの方のメリットは?」


彼は魔法少女と敵対する存在のはず。だから、魔法少女は減った方がメリットがあるだろう。


「強くなれる。ただそれだけですよ」


「悪い事に使う気?」


「貴女と契約している合間、なるべく悪いことはしないと誓いましょう」


 疑うとリュンヌは安心するよう言った。

 ……でも、確証が持てないから安心はできない。


「どうですか。私と契約をしましょう、ソレーユ」


 もう一度言い、彼はわたしに手を差し出した。


「……いいよ、契約」


 そして、わたしはその手を取った。


「ただし! 約束は守ってもらうからね!」


 現れた契約書に、速攻で文言を追加していく。『必要外に人や生き物、建物を傷付けない』『わたしの言うことを聞く』……などなど。油断したらすぐ悪いことするだろうし。


「何……だとッ?!」


「ふふん。これで契約完了、だね」


「……チッ、甘く見過ぎたか」


 そう彼は表情を歪めたけれど、少し楽しそうに見えた。


×


 金髪黄眼の少女、ソレーユと出会ったのは偶然だった。


 太陽の加護を受けた彼女は、周囲にエネルギーを与える能力を持ち合わせていた。


 あの力があればただの月である自分も強くなれる。


 そう思ったのは確かだったが。


 純粋に、彼女の落ち込む顔をこれ以上見たくなかった。


 まさか契約に乗るとは思わなかったが、これからが楽しくなるような予感がした。


×


 それから、ソレーユとリュンヌは世界を救う活動を再開する。


 エネルギーを分け与える相手がリュンヌ1人に減ったおかげか、ソレーユは以前より格段に強くなった。


 そして、リュンヌは魔法の扱い方をたくさん教えてくれ、さらに段違いにパワーアップ。

 まさに向かうところ敵なし、といった状況でみるみるうちに敵対勢力を配下にした。


 時折リュンヌが悪いことをするけど、上手く手綱を握れるようになったので大事には至っていない。


×


「ねぇ戻ってきてよ」


 ある時、そんな声をかけられた。

 とある戦闘での帰り道だ。


 振り返ると……なんだかみすぼらしい妖精が居た。


「えっと……どちら様?」


見覚えがあるような、全くないような。


「ボクだよ! テール!」


言われて、契約破棄した妖精(相手)だと気付いた。艶やかだった毛並みはボサボサに汚れ、なんだか汚い。


「きみが居なくなってから……みんな、輝かなくなっちゃったんだ!」


よく見ると、その後ろに他の魔法少女達が力無く立っている。暗くて分からなかった。


「きみがボクを含め、魔法少女達にエネルギーを与えてたなんて、知らなかったんだ!」


そしてテールはぽろぽろと大粒の涙を流し始める。


「お願いだよ、戻ってきて! きみが居なきゃダメなんだ! 助けて! このままじゃ死んじゃう!」


そして、こちらに近付いてくる。


「いやだよ」


 そう、ばっさりと言い切った。


「そ、そんな、」


テールは絶望した様子で、目を見開く。


「彼女はもう、私のものだ」


 そして、彼女の横には1人の男が立っていた。

 銀髪紫眼の、月のような男が。


「リュンヌ! 一体どこから!」


男を見上げ、テールは吼える。


「彼女は、私と契約した」


対して、男は静かに告げた。


「そんな、嘘だ!」


到底信じられず、テールは(わめ)く。


「証拠など、見せなくても貴方はわかるでしょう」


言われて、新たに契約が結ばれていることを、テールは思い知る。付け入る余地は、もう微塵も無かったのだ。


「……っ」


よろよろ、と力無く地に落ち、テールは(うつむ)く。そして、


「……だったら、きみを殺してやる!」


 キッ、と睨み上げ高速で飛び込んで——


——パァン、と強い力で弾かれた。


「な、なに……」


 不意の衝撃に地面に転がされ、テールは混乱する。


 ソレーユが、無表情で見下ろしていた。

 太陽のように暖かな彼女に、はたき落とされたのだ。


 輝く金髪が夜風に揺れるも、黄の両眼は静かだった。


「いいよ」


 そして、そう言葉を溢す。


「ソレーユ?」


リュンヌが訝しげに声を掛けた。


「助けてあげる」


 その言葉に、テールは顔をあげる。


「でも、他の子だけ」


告げ、彼女は軽く手を動かす。すると、いつのまにか現れていた彼女の配下達が、魔法少女達を回収してゆく。


「テール。きみはもう要らない」


 全ての感情が抜け落ちた顔だった。


「わたしには、必要ない」


 そう言い、彼女は踵を返す。


「猶予もあげない。きみみたいな有害な妖精は、野に放ったら危ないから」


 そこにただ、1匹の妖精が取り残された。


 そして目の前に、底冷えする冷たい目の男が立っている。


「な、何をする気……?」


震える声で問うても、男はただ冷たく笑うだけだった。


「彼女の、言葉通りに」


×


 それから、二人は拠点に戻る。

 二人が契約した時に用意した場所だ。


「良かったのですか」


「いいの。わたしの罪悪感が少なくなるから。それに、あの子達とは会わないようにしてくれるんでしょ、きみが」


「ええ、もちろん……では、残りのアレは?」


「やっちゃったものは仕方ないよね?」


「まあ、そうですね。これから、どうしますか」


「悪を貫く」


「は」


「しょぼい罪で捕まるとかみっともないでしょ! やるんならもっとでっかい事やろ!」

「は?」


「例えば、世界征服とか!」

「はァ?!」


 そうして。

 見事に世界征服をやってのけ、ソレーユは最恐の魔法少女として世界に名を馳せた。


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