昼休みに世界は混ざる
「ねっ、あれって弟くんじゃない?」
昼休み。後ろから同級生の声とともに肩をツンツンつつかれる。振り返るとツンツンしていた指先をすっと廊下の向こうへと指し直した。にやにやした顔で。
そこにいたのはまさしく私の弟であった。
「ふふっ、めっちゃ飲んでる」
給食で余った牛乳、しかも私のクラスのものを弟はそしらぬ顔で飲んでいる。腰に手を当て、ぐびーっと。……は、恥ずかしい。
「やっぱり背が高いだけあるね!」
そう言って同級生は去っていった。その声に向こうもこちらに気づいたようだ。と思ったらまだ飲んでる。……おい、ちょっとは恥ずかしがれよ!
「……卑しい行為だよね」
「先生にも許可とってるし勿体ないし、いいじゃんか」
「自分のクラスの飲んでよ。それか同学年の。最悪私のクラス以外を選んでくれない?」
「飲み尽くした」
「やだー成長期……」
ふと、気づく。家ではなんだかんだ話してるし、仲も悪くない。だけど学校で弟と話すのは何気に……うーん、一年ぶり?
珍しい状況だけど、話は家にいるのと大して変わらずスムーズで、何だか変な感じがする。
最近読んでる異世界転生小説がなぜか頭に浮かぶ。家と、学校。ある意味で異世界のよう。元いた世界の弟と異世界で偶然出会った気分。しかも相手は妙な行動をしている。……いかん、夜更かしして読んでるからこんなことを考えちゃうんだ。
「おーい、俺も飲むー」
「おっ、良かったな。ここならまだあるぞ」
弟の仲間が増えた。上級生のクラスの残り物を狙っている!
「え、あ、お姉さん……? こんちは」
「あっ、どうも……」
彼は弟の友達だが、私の友達ではない。そこから生まれる気まずい空気。
……うん、私も弟やその友人が牛乳飲んでる姿を見ていてもしょうがない。去ろう。
「あ、ちょっと待って」
「なに?」
教室に戻る足を弟に呼び止められる。すたすた近づくと私の頭をじっと見て、ぺしっと軽く叩いた。
「!?」
突然のことに驚いたが、一番驚いていたのは弟の友達だった。えぇ~、と声には出ていないけど言いたいのが口の形と表情で分かった。この子、顔芸面白そう。
「ゴミがついてた」
「……あー、じゃあ先に言ってよ」
「ごめん」
こんな姉弟の会話を見て、何か言いたげな弟の友達。でも私がいるところでは話さないだろうな、多分。
そういや私って同級生の男子とはこんな感じじゃないかも。ずっと同じクラスの子でも。弟とこうなのはやっぱり姉弟だからか。
それじゃ、弟は同級生の女子とはどうなんだろう。こんな感じなのかな。それとも、私と同じ感じかなぁ?
……ってそんなことはさておき、戻ろう、教室へ。戻ったらあの同級生の子に弟について聞かれそうだけど、なんてことない。彼は成長期なのだ。
さっきそう思ったからだろうか。教室に戻るという行動がなんだか違う世界へ戻るような気持ちになっていた。




