運営の悩み事
「さ、これからサービス開始だな!がんばろうぜ!」
「なんでテンション高いんですか?むしろこれからが1番大変だろ」
そう、ここからが1番大変なのである。
色々なイベントの仕込みをしたり、バグを修正したり…色々なことが運営には待っている。
「テンション高くなきゃやってらんねぇんだぜ」
「気持ちはわかるけどさぁ…イベント係としては…」
「俺は総合チェックだからな!楽なんだよ!!」
「そこ変われ」
そんな発言をしたらそう思うのも無理はない。
総合チェック係は自身に降りかかる嫉妬の眼差しに体を震わせる。
「なぁ、頼むよ、佐原。な?変わってくれるよな?」
「お、恵堂。な?変わって欲しいよなー?」
「GMコール係なんて1番大変だしなー」
「うぉぉおおお!!!」
突然大きい声で叫ばれて、皆が体を震わせる。
全員の心は、『うるせぇよ』と揃った。
だが、次の瞬間納得して自身も叫ぶ。
「テイムモンスターのランダム来たぞ!!」
「「「「マジで!?」」」」
なぜこんなにもランダムが選ばれただけで沸き立つのかというと──
ランダムはパネルで選ぶよりいいテイムモンスターが入っている確率が高いのだ。
だが、ランダムに手を出す人は中々いない。
しかも、テイマー自体が余り人気がない。もふもふをもふもふしたい人ぐらいだ。テイマーを選ぶのは。
「なにが出るかな〜?」
「なんでしょうねぇ!キャラデザ係としてはどの子でも嬉しいものですが」
そして全員の視線はルーレットを回すプレイヤー───リリへと集まる。
怖いほど目をキラキラさせて見ている姿は何も知らない人からすると恐ろしくて堪らないだろう。
ルーレットが止まると、一気に辺りが沸き立つ。
さっきなんて比べるまでもなく盛り上がっている。
「妖精来たー!!!!!」
「「「「うぉぉぉおおおぉお!!!!!」」」」
「これだけでも今日は満足だ!奢ってやるから今から飯食いに行こうぜ!焼肉!!」
「いいとは思いますが…今からじゃなくて仕事終わってからですよ?」
「さすがに仕事ほったらかしに出来ないしなー」
「うっ…」
以外にこの集まり──OROの運営は常識があるのだ。
いや…実際にあるのかはわからないのだが。
妖精を引き当てられて喜んでいるのは伝わっているのだろう。
妖精はランダムの中でもレアな部類だ。
というより妖精が1番レア。
それを引き当てたプレイヤーを特別視してしまうのも無理はないだろう。
だが、それを覆すことが起こったのは一時間後。
今度は総合チェック係────佐原───に泣きついてくるキャラクリ係が来たことによって知らされた。
「なぁ…これ、どうすべきだ…?」
「ひとまず事情を話せよ…わっかんねぇし」
「キャラクリ係の兎、ラビがキャラクリ係辞めた」
「「「「………は?」」」」
辞めるなんて思わなかった運営一同は大いに驚く。
そして、これからどうしよう、とも。
「現状は?」
「現状は予備の子使ってるが時間の問題。早くなんとかしないと」
「まず、状況。気付いたら辞めてたのか?」
「そうですね…手紙が置いてありました。ご丁寧に辞表とも書いてあり」
「内容」
「『キャラクリで面白いの引いたテイマーの子がいるからその子のところに行くね〜♪本当はすぐ行きたかったんだけど落ち着かなかったからさ!じゃあね!』……だ、そうです。」
「テイマー…?あのプレイヤーじゃね?」
「妖精引いたプレイヤーの名前は?」
「リリ」
よしきた、と男が呟く。
「管理AI、リリというプレイヤーを検索」
「承認しました。──PCにデータを移行。後ほど確認してください」
「どっどーん!!えーっと…ん?これあれじゃね?フィールドボステイムされるし、テイムしちったら魔王ルート行くぞ?」
「魔王ルート…!?どうしよ、フィールドボスに人化持たせなきゃよかった!」
「街の人との聞き込みもしてる…ダンジョンにも気付かれないか?」
「………はは、まぁいいだろ。面白そうじゃねぇか。だがあれだよなー、第1回イベントで無双しないか?」
「そのほうが魔王となった時納得されやすい気もするが」
「………まぁいっか!どうせならいつかのイベントで魔王討伐レイドとか開くか!魔王側は防衛したら参加した全プレイヤーのレベルの100分の1ぐらいのステータスポイント貰えるとか」
「もうどうにでもなれ」
こんなふうに運営に見られていたリリであった。




