隠されていたフィールドボス
奥に着くと、案外多くのプレイヤーがいた。
ざっと見ただけでも、さっきの10倍以上はいる。
「なるほど、みんな奥に居たからプレイヤーが少なかったんだ。
…ところでミル、そろそろ降ろしてくれない?」
「あっごめん今すぐ降ろすの!」
ミルはすぐに降ろしてくれた。
よかった。傍から見れば幼女に高校生くらいの女の子が乗っている奇妙な光景だ。
見られる前で私は胸を撫で下ろした。
「むぅ…最初だし私が戦うの!」
「大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫!少なくともリリが戦うよりは安全だと思うの」
「それは言えてる」
そう言われちゃ何も言えない。
戦いはミルに任せることにした。
そういや、テイムしてみたいけれど…今はまだ、テイムしたい、と思うような子と出会っていない。
大体一撃で終わるし、そんな強い子と出会っていないからなのかな?
いや、可愛さに強さは関係ないから、可愛い子をテイムしてみたい。
あーでもまだいいかなぁ。
そんなくだらない事を考えてる間に、ミルが戦いに行っていることを思い出した。
この奥のフィールドで多く見るのは定番の兎と狼。
兎は見た目は可愛いが、狼はその真逆。
リアルと近づけすぎているのでは?と思うくらいには凶暴だ。
「うーっ、えい、えい!」
ミルはそんな声を漏らしているが、実際には1ダメージも喰らっていない。
なんなら一撃で倒している。
倒すことに躊躇が生まれるような見た目をしている兎を一切の容赦なく倒していく。
狼も言わずもがなだ。
「ねー、リリ。ここの敵、手応えがないの!」
「うーん、そっか。ミルが強すぎるからねぇ。
一旦街に戻る?」
「むーっ、仕方ない。もっと強い敵と戦いたいんだけど…」
ミルがその発言をした時に私ははっとした。
こういうゲームには、フィールドボスというものが存在するのではないかと。
「ミル、フィールドボスいるかも!」
「んぇ?フィールドボス…?そーいや、どっかで聞いたことある気がするのーっ」
「じゃ、倒しにいこっか」
「強い敵と戦えるなら大歓迎、なの!」
こういうことを聞いていると戦闘狂なのでは?と思ってしまう。
否、戦闘狂だと思わざるを得ない。
ルンルンのミルと一緒に、どんどん奥へと進んでいる。
いや、これ以上奥があったのか、と思った。
実は、ミルが人間化を解いて、ぶらぶらしていたところ、小道を見つけたと報告してきてくれたのだ。
かなり奥の浅いところに、茂みで隠されるようにあったと言うのだ。
隠されているようにあるということは、探していたフィールドボスがいるところなのでは?と思い、この小道を進んでいるところなのだ。
「うーん、人間化を使うのもいいし、このままの姿でもいいなぁ。普段はどっちで過ごすのがいいのかなぁ?」
「注目を集めない、ということでは人の身長の人間化の方がいいと思うなぁ。まぁ、羽が生えてるから注目はいやでも集まると思うけど」
「えーっ、そっかぁ。羽、仕舞うことも出来るけど、仕舞うと窮屈なの。だから、注目を集めるのは仕方ないと割り切るしかないの…」
やけに悲しそうな顔をしているミル。
人懐っこい性格な気もするが、今までにも注目を集めたことがあるのだろう。
「ま、まぁまぁ!ほら、そろそろ道が開けて来たよ!ちょっと、動いているものが見えたからおそらくフィールドボスじゃないかな?」
「…うん、そうだと思うの!ふふーん、楽しみなの!」
道が開けた。今までの小道とは全然違って、一気にだだっ広い空間があった。
そこに足を踏み入れようとした瞬間、脳内に声が響いた。
******************************
ここから先はフィールドボスの空間です。
入った瞬間に戦闘が開始します。
戦闘の準備は万全ですか?
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親切なものだ。わざわざ、戦闘の準備は万全ですか?と聞いてくるなんて、思いもしなかった。
やっぱり、ここはフィールドボスがいるところだったか。
「ミル、ここから先はフィールドボスがいるんだって。1歩でもここから進むと戦闘が開始するけど、準備は万端?」
「うん!あっ、ちょっと待って。『人間化』!
よし、これで万端なのー!ふふふっ、楽しみなの。どんな敵でも、絶対に勝ってみせるの。」
ふふん、と不敵な笑みを漏らすミル。
こんな表情も出来るんだ、と私は驚きを隠せない。
「ん、行くよ?」
「はい、なのー!」
私は、目の前の空間へと、1歩足を踏み入れた。
◇◆◇
1歩足を踏み入れると、そこに居たのは少し大きな狼。大体2m50cmぐらいなのである。
ひえっ、こわわわ。
しかも、毛は漆黒の黒。それで金眼。
まるで黒猫のようなカラーリングだ。
「先制、行くの」
ミルは真剣な表情で、鞘からキンッ、と音を出して剣を出し、構えた。
一気に速度を出し、間合いを詰め、前脚狙って剣を振るう。
見事にあたり、前脚を切り落とした。
「ガウアァァアァアア!!!」
すこし、動きが鈍った。
私はその隙を見逃さず、木刀を振るう。
当たったが、ミルほど大きなダメージは与えていない。
ミルがあの一撃で削ったのは全体HPの2割。
それに比べて私は0.5割程度。
…うん、比べるのはやめよう。虚しい気持ちになるだけだ。
ま、まぁ、ミルは攻撃力特化だし。私は防御中心だし。
「っ次!『メルト』!」
ミルはメルトを発動した。これによってミルの攻撃力が上がったはずだ。
「グルルルル…」
狼は様子を窺っている。
だが、前脚を切り落としたのがかなり効いているようで、時々顔を痛みで歪ませる。
その隙を見逃さず、ミルは攻撃した。
さっきは1点集中だったが、今度は全体的に。
「ふんぬっ」
「ガァァァア!!」
ミルが攻撃した後に、狼はミルを攻撃する。
「っつぅ」
ミルのHPが7割削られた。
これはキツい。防御力とHPが低いのが仇となった。
狼はミルの攻撃で4.5割程度削られた。
残りHPが3割を削ったとき、狼はついに暴れ始めた。
どうするか。ミルを回復しようにも、私のMPが低いから、全然回復出来やしない。
なら、これはだめだ。
「ミル!あと2回攻撃して!そうしたら削りきれる!」
「…っ、わかったの!」
伝えた通りにミルは攻撃をしてくれた。
ミルが最初に攻撃をした時、2割削れていたから大丈夫だと踏んだ。
予想通り、狼のHPははじけ飛んだ。
▽ワールドアナウンス▽
プレイヤーリリと、テイムモンスターミルキーウェイが草原のフィールドボスを討伐しました!
「「やったー!!」」
私とミルは、ハイタッチをした。
ーーーー気付かずにいた、ぴくぴくと動く狼を背景にして。
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