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退屈龍女と少女王子の国造り  作者: ミツタカ・ケン
7/8

遊牧民の国とは、仲良く発展するに限る

21話までアップしました。

タツキの魔法をちょっと使って、拠点となる場所を確保。水が欲しければ邑のオアシスに頼らなければならなくなる。遊牧民を締め出すより、仲良くした方がお互いの利益に。

後は読んで。

19.戦後処理


 ハンラックの謁見の間に諸侯が集まり、戦後処理の話し合いが始まる。

 ロペス侯爵に落ち度があったのかが焦点になる。

「母親と叔母が結託していてはしょうがなかった。母親にこそ罪を償わせるべきだ」

「いや、母君としてもロペス候を人質に取られてやむなく協力しただけで、情状の余地がある」

「連盟国に縁の深いハンラック侯爵家をこの地に置くのが問題だ」

意見は分かれた。

 皆の意見を一通り聞いて、ウオルトが発言する。

「今後については、国王と話し合って見通しをつけてある。様々な意見はあるだろうが、ハンラック侯爵家はこのまま存続させる。ただし、目付け役としてグレン公爵が派遣されてくる。今回の問題の根本は連盟国にある。体制が整い次第、打って出る。諸侯は直ちに準備に取りかかってもらう。出陣の時期は来年の春の予定だ」


 命令が下されるや、諸侯は整然と領地に戻り始めた。

 ウオルトと国王軍は居残り、ハンラック領の復興の手助けをしながら、目付け役が到着するのを待つ。一か月も経たずに王弟グレンが500騎の部下を伴い着任。

 状況が落ち着くのを確認して、ウオルトと部隊は王都に帰還するのだった。


 王都に入ると住民が通りに出て歓迎の花吹雪で迎える。

「やはり王都は良いですね、タツキ様」

 侍女たちも王都に帰ってきた安心感から、長旅の緊張もほぐれ嬉しそうであった。


 しばらくすると日常が戻ってくる。

 国王への報告を終え、久しぶりに時間の取れたウオルトは、タツキ達の通う学園を訪れる。

 学園時代の制服に身を包み、お忍びの訪問だ。近くに警護の姿もない。

 授業中なのでタツキ達の部屋で待つことにし、向かっていたところ、学園の教員にとがめられる。

「君、今は授業時間中だよ。こんなところで何をしているのだね。この先はビップルームだ。よからぬことを考えてはいないかね。すぐに戻りなさい」

「構わぬ。タツキの部屋で授業終了を待つつもりだ」

「この先はビップ専用だと言っている。タツキ様の知り合いだとしても、授業が終わるまで一階の警備員室で待っていなさい」

 教員は赴任直後のため、王太子の学園時代を知らなかった。融通は利かないが、職務に忠実な実直そうな人柄を評価して、ウオルトは従うことにする。

 

 教員の先導で警備員室に入ると、ウオルトを認めた警備員たちが一斉に立ちあがり、直立して礼をする。

 その教員は唖然として、『かなり偉い方のようだ、失礼なことをしてしまった。文字通り首が飛ぶかも』と、顔から血の気が引いていく。


「タツキの授業が終わるまで、ここで待たせてもらおうと思ってきた。皆にタツキや諸侯の子女たちの普段の話など聞いておきたい。先生、案内ありがとう。職務に戻ってください」

 教員は逃げるように退室していった。


 しばらくの後、終業の鐘がなる。早とちりする職員が現れないよう、守衛の先導でタツキ達の部屋を訪ねる。

 

「タツキは何を勉強しているのかな。ほとんどが解りきっていて、つまらなくないかい」

「そうでもないぞ。人の歴史は面白い。とらえ方や考え方が千差万別で驚かされることも多いのじゃ」

 「タツキが過剰な力を使うのではと心配していたが、守衛の話だと上手に猫をかぶっているようだね」


 久しぶりの再会に話に花が咲く。その間マヒロやアシル達は、紅茶やケーキを運びかいがいしく二人の世話を焼くのであった。


 「ところで、今日来たのはほかでもない、連盟国に攻め込む件だが。相手は遊牧の民。攻め込んでも逃げ回るだろうし、こちらが兵を引けば戻ってきていつもの生活をするだけになる。かといって軽騎兵を各地に分散させると、各個撃破の的になるだけ。そこで、一つ策はあるが、タツキの協力が必要だ。手を貸してくれるか」


 ウオルトの依頼を聞いて

 「時間はかかるがその方がうまくいくと両国にとって利益になるのう」

 タツキは助力を約束するのであった。



20、拠点確保


 王都に春が来る。昨秋の実りも豊かだった。兵糧の蓄えは豊富で、食料を拠出しても民が不足することもない。兵たちの意識は高い。

 今回の兵の装備は丸盾と槍、腰に両刃の剣という通常のもの。重厚な盾と長槍は輜重兵隊が食料その他とともに運ぶ。


 ハンラック侯爵の城で作戦会議が開かれる。各侯爵家からも主だった武将が出席する。

「今回は戦というより拠点づくりが主になる。詳しくは王弟グレン公より説明していただく」

「今回の作戦は二つからなる。一つは領土の拡大、一つは領土の維持だ。ウオルト殿には領土の拡大と地ならしをお願いする。そこにわが部隊が駐留し街を作って行く予定だ。部隊編成は後程指示する。一番の苦労は工兵隊になる。なお、連盟国までの街道はすでに整備が 終わっている。以上だ」

 グレンの軍団は実戦部隊よりも工兵が多い編成になっていた。出席した武将たちは奇妙な部隊編成に首をかしげながらも、自陣に帰り、指示を待つことにする。


 王国軍は整備された街道を苦労なく進軍する。

 ザイ・ガダル連盟国との国境を越え、陣地を作り始める。これもグレン公とロペス候が事前に用意した材料で、堅固な砦が出来上がる。周囲に塀を巡らせ、丸太を使った小屋が幾つも作られてゆく。食堂、調理場、風呂、トイレがそろった、侵攻の拠点だ。森の木は伐採しても見る間に成長し、4か月程で元の森に戻る。タツキの魔法が生きていた。

 

 拠点作りと並行して、グレン公爵の名前でザイ・カダル連盟国の各部族長に、親書を携えた使者が送られる。各部族は散り散りに遊牧し、王国軍が去るのを待っていたため、使者の到着に時間がかかった。


 一方、ウオルトはタツキとともに連盟国に分け入る。拠点から馬車で5日の距離で停止。いよいよタツキの出番だ。

 草原は雨が少なく、水場が貴重だ。タツキは周囲の水場を魔力で集めてオアシスを作る。直径60メートルほど。常に水が湧き出し、汲んでも尽きることはない。

 水場の近くに砦を作り、オアシスを柵で囲う。その周囲2キロにわたり水田にもなる泥土が囲む。騎馬対策を兼ねるのだ。さらに5キロ先を果樹園が囲む。

 こうしてオアシス邑が出来上がる。


 200名の守備を残し、ウオルトたちは次の地点に向かう。そこから馬車で2日の距離に同じような邑を作ってゆく。その2か所から等間隔にもう一つと増やしていく。7か所作ると中心の邑は3倍の規模にして1,500名の守備系を置く。万一の時は狼煙の合図で、全ての砦から守備兵を除いて騎士の部隊が集結する仕組みだ。


 タツキ達が4つ目のグループを作り終えたとき、最初のころの邑に連盟国軍が襲撃をかけてきた。狼煙の色と煙の上がり具合で位置がわかる。


 邑の見張りが連盟国の襲撃部隊を発見、すぐに狼煙を上げ、守備の準備にかかる。

 連盟国の約1,000の騎馬兵は果樹園から出ると、鬨の声を上げながら砦に向かって突撃を開始。しかし、泥土に来ると馬の足が取られて勢いが止まる。滑って倒れる馬も出てくる。そこに砦から弓矢の一斉射撃が襲う。5回の斉射で連盟軍に300余りの負傷者が出る。

 一旦引いて隊列を組みなおした連盟国の部族軍は、火矢での攻撃に切り替える。しかし、予想していたタツキは、魔法ですべての木材が自ら地面から水を吸い上げ、いつも濡れた状態にしていた。火矢対策も万全だ。


 攻撃の無謀を悟った連盟国軍は負傷者を抱え、斥候兵を残して撤退していった。

 一方、王国軍では、各邑から半数の兵が救援に駆け付ける。近くの邑々の騎馬隊が急ぐと9時間ほどで終結する距離だ。残った斥候は、翌朝までに王国軍が続々と集まる様子を見て、これ以上の襲撃は無駄だと報告するのだった。



21.交渉内容


 王国の使者は、各部族の移動跡を追いかけ、親書を運ぶ。手渡された親書は連盟国にとって有利な内容に思われた。協議の必要を感じた部族長たちは呼びかけに応じて、盟主オプトカの下に集まる。


親書の主な内容は、

〇 国交を開始し、相互不可侵条約を結ぶ。

〇 連盟国内に外交官事務所を開設する。

〇 老人、妊婦、乳幼児、病人などが安心して過ごす場所として、連盟国内に造った邑を明け渡す。

〇 定住を推奨し、自給自足の農業のため、農耕指導者を派遣する。

〇 小児用の教育機関を作り、教員を派遣する。

〇 診療所を作り、医療従事者を派遣する。

〇 高等教育を受けたい者は王都への留学を認める。

〇 革製品、家畜などの余剰品は王国が買い取る。

〇 建築資材は安価で提供する。

〇 その他すべては協議で決定する。


 これまでの王国の治世を見てきたオプトカは、ウオルトは信にたる相手と認識していた。親書の内容は連盟に有利なもので、王国と争う必要のないものだった。

 ほぼすべての族長はこの内容に賛成した。妊婦や乳幼児の安全の確保ができるのが大きな理由。一定の人数を邑に住まわせ農耕に従事させることで、必要に応じて新鮮な野菜が手に入る。そこも魅力だった。また、乾季にはオアシスの周辺で過ごし、離れた家族と一緒の時間が持てた。



 数年が過ぎると両国の関係はより親密になって行く。

 外交官の館の周辺には、市場ができ、連盟国の家畜、革製品、羊毛の寝具や衣料が売られる。     一方、王国の鉄製の調理器具、農耕器具、塩、装飾品などが並べられる。

 両国の商館も経ち始め、街へと発展する基盤ができつつあった。


 国民が豊かになり食料に余分ができ、貨幣経済が浸透していき、国への納税が可能になる。

それまでは部族内の自給自足だったものが、国民の半数近くが定住者になり、国民との意識が生まれた。

 両国の友好と発展のため、オプトカとグレン公爵の娘との婚姻が発表される。居城の必要ができ、オプトカは外交官の近くに宮城を作ることにする。

 タツキは大きなオアシスと、花でいっぱいの庭園を造り二人に送るのだった。



遊牧民の国とは融和が進み、お互いに発展しあう関係に。国が富むと横からよからぬことを企む国が出てくる。南の強国が虎視眈々と狙ってくる。その前に別件で、ひと悶着がありそうだ。

タツキの身柄が中心に。

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