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退屈龍女と少女王子の国造り  作者: ミツタカ・ケン
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鉾と盾の戦い 魔法が少し

龍女タツキの魔法は万能。だから使いすぎると人間が堕落する。ちょっと手助けして、みんなが幸せになれるといいな。タツキとウオルトの思いは同じ。今回、隣国の襲来を受け、重装備で進軍速度の遅い軍隊が、騎馬の機動力と対峙し、どう戦うのだろう。

16.陰謀炸裂

 

 ザイ・ガダル連盟国の現盟主・オプトカの生母・アナハイはハンラック候の前侯爵モレロの妹にあたり、現当主の叔母である。請われて嫁いだが、侯爵家の宮殿で何不自由なく暮らしていたため、遊牧民の生活になじめずにいた。兄の敵討ちという絶好の口実を得て、事あるごとにオプトカに対してイサマイン王国への進軍の利を吹き込んでいた。最低でもハンラック領を占領し、宮殿生活に戻りたいとの願望が理性を上回った結果である。名君と評価され始めていたオプトカだが、母の溺愛の中で育ったため、涙ながらに懇願されては選択の余地はなかった。連盟国としてもハンラック領は手に入れたい領土であった。

 

 2か月の猶予を経て、オプトカの依頼に応えた各部族が続々とハンラック領近くに集まる。族長会議で、

 「草原はわれらの母だ。しかし、妊婦や新生児の死亡率が高すぎる。移動の負荷に耐えられないからだ。次代のため、移動なく安心した子育てする地がそこにある。生まれてくる子供たちのためにも、敵を撃ち亡ぼさねばならない。イサマイン王国をわれらの手に。富と栄光を手にするのは我らだ」

 オプトカの声にすべての族長が気勢を上げる。興奮冷めやらぬ族長たちは自らの部族に飛ぶ。


  アナハイとオプトカは少数の近衛を伴って、ハンラックの宮殿を訪れる。歓迎の宴が開かれた夜、随行の近衛兵が動き、大門を開ける。待機していた連盟国の騎馬隊が雪崩を打って侵入する。ハンラック兵は浮足立ち組織的な抵抗もできずに降伏。城内では寝室に乱入した連盟国の随行兵がロオペスを捕縛、軟禁状態にする。

 

 各地にある砦にロペスの指令書が届く。連盟軍を招き入れ指示に従えとの内容だ。いぶかしいと思いながらも従うもの、明け渡して砦を去るもの、裏に陰謀を感じて門を閉ざすもの、それぞれであった。従わない砦は圧倒的な連盟軍の数の前に、組織だった抵抗もできずに次々と陥落してゆく。先の内乱での痛手から修復できずにいたため、抵抗する力に欠けていた。

 わずかの間にハンラック候領を手中にした連盟国軍は、南部のカンタール地方の草原に、続々と集結し始める。王国軍も集結を急ぎ、両軍は幅70メートルの大河・アルム河を挟んで対峙する。

 

 

 17.両軍激突

 

 ザイ・ガダル連盟国は、内陸に位置する大草原に発生した遊牧民の国。羊の餌となる草を求めて部族ごとに移動を繰り返す。幼児は歩くより先に馬に乗るといわれるほど、馬術に優れた民族だ。そのため、すべての兵が騎馬での戦闘を基本に、機動力で押し切る戦いを得意としていた。対してイサマイン王国軍は、重厚な盾の防御と長槍を主力とした布陣で敵の足を止め、弓と騎馬隊で攪乱する戦法を得意としていた。戦場に盾の砦を築くため、機動力には劣っていた。

 

 王国軍は重装備のため,川がある場合、まずは渡河用の浮橋を架けるのが常であった。連盟軍は、それに備えて、アルム河に向けて投石機や弩弓兵を準備。帝国軍が橋を架け渡河しようとする時を待っている。渡河を強行した場合、相当数の犠牲を強いると予想していた。さらに連盟国軍は、機動力を生かして8千の兵を秘かに上流で渡河させる。戦闘の際、王国軍の背後をつく作戦である。もし本陣を突ければ勝負は決する。

 両軍の緊張が高まる中、連盟軍が先に布陣を完了し、王国軍の出方を窺っていた。

 

 王国軍の重装備歩兵がアルム河を前に布陣。工作兵の準備が進む中、日没を迎える。戦が動いたのは明け方近く。まだ闇の残る時間に、川岸まで前進した王国重装備兵団が集団で渡河を開始。夏の終わりに川が氷ついていた。タツキの魔法だ。足先に滑り止めの縄を巻き付け、音を殺して進む。肌に感じるのは冷気ではなく、夏の温風。これもタツキ。

 

 橋が完成してから王国軍は本格的に渡河を開始するはず、橋ができる前の進軍はありえないと、連盟国軍のすべての将兵に気のゆるみがあった。

 連盟軍の本陣に王国軍の渡河開始の報が届く。

 参謀長が寝起きの不機嫌さをあらわに、

 「王国軍が橋を造り始めたのだろう。まだ間がある、軍が動くのは早くても半日後だ。斥候は何を焦っているのやら。小官はもう少し眠るとしよう」

 本陣に駆け付けた主だった将たちも同じ意見だった。そこへ続報が届く。

 「王国軍重歩兵が続々と渡河を継続、一部は渡河を終えこちら側にて布陣を開始」

 ありえない事態に、本陣は思考停止状態。それでも応戦の準備を各部隊に通達する。ゆるみのあった連盟国軍は混乱に陥り、組織だった陣形造りに手間取っていた。

 

 渡河を終えた王国軍は陣形を整えると、前進を開始。今度は背後からの強風が進行を後押しする。

 連盟国軍は小集団に別れ、馬上から弓での攻撃を仕掛けては即離脱。矢は盾の堅陣に阻まれ成果は極めて僅かだ。王国軍から斉射された弓矢が馬上に襲いかかり、戦場を血で染める。

 攻撃しては損失を繰り返す中、連盟国軍は撤退準備に追われる。

 本陣に詰めていた各部族長は、撤退準備のため次々と自らの部族に帰っていった。

 

 足音を殺すことなく、かえって誇らしげに鎧を打ち鳴らし、王国軍がじりじりと迫る。本陣に残ったオプトカは全軍撤退の伝令を発する。それが事態の混乱に拍車をかけた。戦闘継続のため自軍を鼓舞していた各部族長は、命令を受け撤退を始める。

 命令が末端に届くのに時間はかかったが、元々遊牧生活で移動にたけていた各部族の撤退は迅速であった。後方に帯同していた家族や家畜を先に避難させる。非戦闘員を守りながらの転身だが、行動は早かった。

 

 王国軍の騎馬隊が後続部隊に襲い掛かる。小型の馬に乗り軽装備の連盟軍。機動力に長け、馬術も巧みで両手を話して弓を撃つほどだ。対する王国軍は、大きな馬体に騎乗し、軽鎧を着用。槍を主な武器とする、一般的な戦闘方式を採用していた。

 王国軍の騎馬兵は、追撃のため隊列が伸び切っていた。そのため少人数で孤立してしまい、囲まれては各個撃破にあってしまった。指揮官は追撃をいったん中断させ、先行部隊が集結するのを待つことに。そのわずかな時間で、連盟国軍は撤退を完了させることができた。

 

  

18.候都包囲


 報告を受けたウオルトは、

 「歩兵の進軍速度に合わせて、一旦停止し斥候を出すように。今夜はあそこの丘にて野営する。各部隊は被害状況を急ぎ報告せよ」

 追撃をしてもいたずらに兵を消耗させるだけ、と判断し、休ませることに決める。

 王国軍はゆっくりと南下を続ける。連盟国の非戦闘員の避難を促すためだ。

 7日をかけて進軍した後、2万5千の兵で候都を包囲する。

 設営したばかりの本陣にエオーク候が飛び込んできて、

 「連盟国は一旦ハンラックの城にこもるでしょうが、すぐに撤退すると思われます。逃げるとすれば南大門からでしょう。わが軍の軽騎兵団に是非とも南大門の攻めと、追撃の栄誉をお与えください」

 先の内乱で反乱軍に与した負い目と許された恩義から、エオーク候の戦意は高い。

 「クレマン候よ、任せるが、窮鼠猫を噛むのたとえ通り、死に物狂いで来る敵は強い。適当にあしらって逃がしてやるのが得策ではないか。候にそれができるか」

 「司令官の命令とあらば従いますので、ぜひご下命を」

 ウオルトはこれを承認し南門はクレマン候に任せることにした。

 もちろん、別の意図もあったが。

 

 攻城戦が始まる。

 投石機からの巨石が、城壁に炸裂。場内の士気を砕く。

 盾を何重にも頭上に掲げ、城壁の上からの弓矢を防ぎつつ、攻城用の破城槌を正面の大門に打ち付ける。

 数度の打撃で大門がきしむ。ギシッと鳴るたびに場内の兵に動揺が走る。籠城の経験のない連盟国の将兵達はなおさらに浮足立ち、我先に南門からの撤退準備を始める。場内の6千の連盟国軍兵士が一斉に騎乗し、南門を目指し逃走を開始。南門から出ようとして、止めに入った守備兵を切り伏せ、門を開け放ちエオーク候の軍勢に分け入る。エオーク候クレマンは巧みな采配で連盟国軍との戦闘を避け、逃走を見逃しつつ、開け離れた門から場内に突入する。


 場内に王国軍が雪崩を打って侵入してきたため、守備兵たちの士気は落ち、皆こぞって降伏していく。王の慈悲深さが将兵の隅々まで浸透している証拠と言えた。

 ハンラック候の居城に近づくにつれ、抵抗は弱まって行く。王国守護騎士団のマルティネスが入場するころには、組織だった抵抗はなく、散発的に戦闘の音が聞こえる程度だった。


 城内制圧の次の目的はハンラック候ロペスの身柄の確保だ。候主の間にはロペスの実母が呆然として座っているだけであった。問いただすと、ロペスは連盟軍への協力を拒否したため、西の塔に軟禁されているとのこと。

軟禁場所からハンラック候ロペスが救い出され、降伏の命令を発すると、全ての抵抗は終結し、ハンラック兵は誰もがその場にへたり込むのであった。


少しUPに間隔があいたけど、少しでも続けるつもりです。これから連盟国に攻め入りますが、定住しない騎馬遊牧民の国のどこを攻めるのでしょう。こうご期待。

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