退屈なので王国旅行・盗賊・街おこし・諸々
タツキ達一行は王国内の視察旅行。あれこれありながら、無事帰還。他の地方へ出発したら王都から呼び出しが。戦争だ。
13.盗賊退治
馬車に乗り込むと、早速カンバラが問いかけてくる。
「タツキ様、次の行き先はどちらになりますか」
「街を出たら北に向かって、竜封山脈のたもとを東に向かう予定じゃ」
「それでしたら、とりあえずの目的は鉱山都市スエトでしょうか」
「うむ、鉱山の街に興味があるし、遠回りではあるが王都へのルートじゃ。そろそろ帰らないとアシルが寂しがっておるだろうからの」
タツキが王都に向かうと聞いて、侍女たちも里心が芽生えるのだった。
左手に海を眺めながら、馬車はゆっくりと進む。道は時に海岸線のギリギリを行くかと思えば、高台に進み遠く小島を望む。どこまでも続く海の広さに感嘆する4人だった。その夜は漁村に一泊し、翌日の昼には海から離れ、龍封山脈に沿って東へ進む。途中に村はなく、所々に数軒の民家が寄り添い、農業と狩猟で生計を立てている。
そんな時には野宿だ。ムルガイで買い込んだ食料と、途中の猟師から買い求めた食材で御者のカンバラが食事の用意をする。タツキとマヒロが馬車の中で、ガクマとルイシンは馬車の上でそれぞれ眠りにつく。カンバラは焚火の番をしながら毛布にくるまって眠る。
翌朝は早めに出発し、竜封山脈沿いのうっそうとした森の中を通る街道を進んでいく。時々鹿や猪、ウサギといった動物が馬車の前を横切り、のどかに旅は進む。
突然、馬車の前に3人の男たちが躍り出る。馬車を止めるとさらに5人の男たちが周りを取り囲んだ。
「馬車と荷物を差し出したら、命だけは持って帰れる。いやなら、命も置いていいてもらう。どちらにする」
カンバラも腕に自信はあるが、4人の女性を守りながら8人を相手にはできない。
タツキに荷物を渡すようにと提案する。しかしタツキは8人の盗賊にひるみもせず、
「おぬしらこそ、武器を置いてこのまま去れ。盗賊家業は廃業するのじゃ。約束するなら今日のところは大目に見てやっても良いぞ」
「何を言う。そちらは5人、しかも4人は少女。こちらは8人もいるんだぞ。馬車ごと置いてこの場をされ」
「カンバラは馬車を守れ。マヒロたちは一人ずつを相手しろ。残りはわしが面倒を見る。一人も逃がすでないぞ」
マヒロたち3人の腕は確かで、切りかかってきた盗賊の刃をはじき返したり、受け流したりしながら、当て身を食らわせ無力化していく。タツキは目にも止まらない速い動きで5人の盗賊の持つ刀を叩き落す。何が起きたか理解できずに、茫然と立ち尽くす盗賊たち。
「わし等の強さは分かったな。罰としてお前らに魔法をかける。これからは、悪いことをすると苦痛が、良いことをすると達成感が感じられるだろう。どう生きるかはお前たち次第じゃ」
タツキは言葉とともに盗賊を解放する。
この地に親切なガイド兼用心棒が現れ、旅人が安全に行き来できるようになったと、王都にうわさが流れるのはそれから間もなくのことであった。
翌日も野宿。カンバラが馬の世話をしている間に、タツキは森の中に入り猪を狩ってくる。近くの野草とともに鍋にしたり、焚火の上で炙り焼きにしたりと、皆が満腹になるまで堪能した。近くの小川で水浴びをして、眠りにつくことに。朝は焚火の残り火に芋パンを埋めて、熱々を食べる。手分けして荷物をまとめて、箱馬車に乗り込むと目的地に向けてのんびりと進む。
次の日の午後に鉱山都市と名高いスエトに着いた。
14.都市再生
スエトの街で、まともな宿を探す。しかし、聞いていた話と違い、街に活気がなく、さびれた印象。多くの宿屋兼食堂も廃業している様子。
ようやく開店中の宿を探し、3部屋を確保すると、宿屋の主人に事情を聴いてみた。
「最近、鉱山の鉱脈が枯れたらしく、鉱夫の数が激減しましてね。それで加工していた鍛冶職人も鉱石がなければ仕事にならないので、街を離れていってしまったんです。人が減る一方で、この街はお終いです」
話を聞いて、民思いのウオルトなら、何とかしようとするだろうと考えたタツキは、詳しい状況の確認のため役所を訪れることにする。
内大臣の通行許可書を見せると、窓口の役人は町長を呼び出す。出てきた町長は40歳手前の働き盛りに見えたが、疲れ切ってあきらめの表情が浮かんでいる。
王都の使いが何の用事かと訝し気に5人を見つめる町長。しばらく町長を観察していたタツキが尋ねる。
「単刀直入に聞くが、この街に何が必要じゃ。わしが力になる故申してみよ」
「新しい鉱脈が見つかると良いのですが、あらかた掘り尽くしまして、より深くを掘っても採算が取れません」
「そうか、採算面はおぬしのほうで考えるとして、明日にでも鉱脈を探してみるかのう」
「鉱脈はベテランの鉱夫でも見つけるのは運次第です。失礼ですが、あなたでは難しいと思いますよ。ですが、見つかるのでしたらお願いします」
町長は藁にも縋る思いでそう言うと、案内の職員を同行させるように手配する。
翌朝、4人は役人の案内で鉱山を視察に行くことに。廃坑に入り、最深部に向かってしばらく進むが、確かに鉱脈は掘り尽くされてしまったようだ。タツキの力で鉱脈を再生することはできるが、鉱石を地表に持ち上げるには、一度火山の噴火が必要で、街は壊滅的被害を受けることになる。
しばらく色々と回ったが、どこの坑道も似たような状況だった。しばらく考えたタツキは、ある案を思いつく。町長に提案するため,町役場へ戻ることにした。
入口のドアを開け中に入ると、職員の期待に満ちた視線に迎えられた。同行した職員は、首を横に振り結果が満足行くものでなかったと知らせる。一瞬にして役人達の気分が沈む。タツキはそれに気づいたが、堂々と町長への面会を求める。
期待半分で待っていた町長と街の有力者達の注目を浴びる4人。町長は4人にお茶を進めるのも忘れ、
「どうでした。何とか再生の目途は付きそうですか」
タツキはお茶とケーキを催促して、出されたのをゆっくり楽しんで、おもむろに話始める。
「鉱山の再生は無理じゃな。残りを細々と掘っていくしかあるまい。そこでじゃ、街の再生については考えがある。提案に乗るなら援助するが、どうじゃ」
「お話を聞いてから考えます。ご提案の内容はどのような物でしょうか。また、王都の援助は望めるのでしょうか」
「資金援助は王国に掛け合ってやる。後はお主達のやる気じゃ」
町長はしばらく席をはずし、街の有力者たちと相談する。国の援助が望めるなら、どうせこのままでは衰退するだけなので、どんな内容でもタツキの提案に乗るしかないと腹を決める町長たち。
「山に温泉を出す。宿泊施設や温泉施設、温泉を使った一大リゾート地にする。鉱山からの産出物で特産品を作り、お土産のすることも可能じゃ。施設は作れるが運用はお主等が進めるのだぞ」
「しかし、この地に温泉が出るという話は聞いていませんが」
有力者の一人が遠慮がちに発言する。
「明日にでも沸いて来よう。場所の選定は相談して決めよ。下流に広い土地がある場所が理想ではある」
翌日、町長たちと土地選びに出かける。鉱山との中間近くに、山間の広い土地があり、住民もおらず、草原が広がっている。
「ここがよさそうじゃな。王都から無理をすれば1日半でこれそうじゃ。中間に宿が必要じゃな。後は、近隣の農家と話をして食材の確保や、人手じゃが、何とかなりそうか」
山の麓から少し上ったあたりで、タツキが足で岩肌を蹴ると、岩が割れ温泉が噴き出す。瞬く間に温泉の池ができ、もうもうと湯気を上げる。
急いで街へ帰り、今後の対処を相談し始める。温泉地の確保と保全には、軍に出動が命じられる。施設の設営は全体像を計画して取り掛かり、出来たところから運用を開始する。商人には近隣から初めて、広範囲に温泉リゾートの誕生を宣伝して回らせる。タツキは王都に戻り、途中の宿場の整備に取り掛かる。
計画は次々にまとめられていき、半年後の一部開業を目指すことで話はまとまる。町の再生に希望が見えたことで、意気も上がるのだった。
15.王都帰郷
2日後タツキ達は王都についた。馬車を返して、御者のカンバラとしばしの別れを告げ、王宮に向かう。途中、街を救った英雄タツキに、露店の商人たちは気軽に声をかける。
「しばらく見なかったね、どこに行ってたんだい。久しぶりだね、名物のコーン焼きをもっておゆき」
「おお、かえって来なすったか、元気そうで何より、何より」
街の皆はタツキの帰りを歓迎してくれる。
歓迎ぶりに気をよくしたタツキ達一行は、もらったばかりのコーン焼きを頬張りながら、意気揚々と王宮に向かう。
途中王立学院の近くを通ると、皆の足が向く。裏門から入り教員棟に学院長を訪ねる。
タツキが顔を出すと、学院長はすぐにお茶とお菓子の用意をさせる。お菓子を頬張りながら、
「アシルはきちんと学んでいますか」
妹を気遣うようにマヒロが話し始める。ガクマも続けて
「あの子は勉強より剣を振るうほうが好きですが、学問は必要ですので、しっかり勉強もさせてください、お願いします」
「今日はちょっと顔を見に寄っただけじゃ。明日からわしらも学院に戻るでな。またすぐ旅に出るとは思うが、しばらく厄介になるぞ」
学院長室に呼び出されたアシルは4人の姿を認めて嬉しそうに駆け寄ってくると、侍女3人と手を取りあって再会を喜び合う。
「私たちがいない間、何か困ったこととかなかった」
マヒロが訊ねると、アシルは笑顔で返す。
「一人、私に剣の稽古中に負けた男の子がいて、それから仲間を集めて絡んでくるようになったの。おかげで稽古相手に不自由しなくなったわ」
マヒロは声を小さくして、
「私達みんながタツキ様の龍力を少しいただいて、それなりに強くなったけど、過信しないで。上には上がいるのだから毎日の稽古は必要よ」
軽く慢心をいさめるのだった。
学院長室を出た5人は
「明日から学院に戻るので、用意をお願いね」
とアシルに告げ、王宮へと向かった。
道々、顔見知りの商店のおかみさん連中から話しかけられ、応対しているうち、次々とお菓子や果物を渡され、抱えきれないほどになる。
王宮内ではフリーパスで、正門からウオルトの執務室まで、とがめられることなくたどり着く。
ウオルトはいつものように、机の上にうず高く積まれた書類の山と格闘中だった。入ってきた4人を見ると手を止め、タツキを応接セット招き3人を下がらせると、自分もドカッと腰掛ける。その様子にタツキは
「どうしたのじゃ、何が問題か話してみるがよい」
「タツキのおかげで食料生産は順調で、輸出できるほどの収穫ができている。けど、スエトの鉱山が掘りつくされて、廃坑にするしかなさそうだ。武器等の生産は別の鉱山で賄うが、スエトの支援要請にどうこたえるか。王都にも余裕があるわけでもないし」
「その件で相談じゃ。スエトに温泉を湧きださせた。温泉を中心にしたリゾートを作りたい。夏は避暑を兼ねて、冬は温泉保養にと、需要は見込めると考えておる。将来の税収のために投資せぬか」
「あそこは国有地だ。貴族や商人に土地を貸し出して、さらに税収も上がる。地元の職場の確保にもなる。実現の方向で国王にお願いしてすぐに役人を派遣しよう」
思わぬ拾い物に顔をほころばすウオルトだった。
3週間も経つとタツキの退屈がピークを迎える。スエトの街の準備も迅速に動き出した。町割りに続き、王都からの資材搬入で職人・労働者が増え、それらを相手の食堂や娯楽施設も簡易テントで始まったようだ。スエトの件は国に任せるとして、次の行き先を考える。
今度の視察は東のヨークシン領に向かい、龍背山脈の手前を南に、州都ネオヨークシンに寄りルナール候領に入るルートに決める。通行手形の発行、馬車の手配やカンバラのスケジュール調整と荷物の用意などをすすめ、今回はアシルも同行。
3日で用意を済ませ、5人は意気揚々と出発する。4日目の宿についたとき、王都から早馬が届いた。至急王都に帰還を要請するもの。
馬車と5人にも戻るよう伝えると、タツキは竜の姿になり、1時間ほどで王宮に戻る。
「タツキ、待っていた。ザイ・ガダル連盟国が戦の準備に入ったと報告があった。どうやらハンラック領主の母親あたりが裏で糸をひいているらしい。こちらも準備を始めるが、双方に犠牲は出したくない。手を貸してくれるか。今回は内乱とは違うので私が総指揮を任された」
ザイ・ガダル連盟国は、内陸に位置する大草原に発生した遊牧民の国。すべての兵が騎馬での戦闘を基本に、機動力で押し切る戦いを得意としていた。対してイサマイン王国軍は、重厚な盾の防御と長槍を主力とした布陣で敵の足を止め、弓と騎馬隊で攪乱する戦法を得意としていた。戦場に盾の砦を築くため、機動力には劣っていた。
思いのほか時間が空いてしまった。ゆっくり、少しづつ書き続けるつもり。でも読んでくれる人はいないか。もしいたら、誤字・脱字・変換ミスは教えてね。