タツキ暇を持て余して旅に出る
旅に出たタツキ達。ある村ではやり病?に遭遇。タツキが魔法で大本を断つが、結果が出るまで詐欺師扱いも。その間、港町でぶらぶら。戦闘シーンはありません。
10.旅行日和
学園生活が平穏に過ぎると、タツキの退屈の虫が騒ぎ出す。アシルは学ぶことが楽しいらしく、いろいろな授業に顔を出しては目を輝かせ、積極的に質問をし、教授たちにかわいがられていた。
「アシルよ、わしはそろそろ王宮に戻って、国の状況を見て回ろうと思うのじゃが、おぬしはどうしたい」
「私はタツキ様の侍女ですから、お供するのが当然です」
学園生活に未練を感じつつ、答えるアシルに向かって、
「今回はおぬしは留守番じゃ。わしの席は学園に残しておくので、部屋は好きに使っておれ。皆が集まる場所も必要じゃからのう」
連れて行ってもらえないと聞いて、寂しさ半分嬉しさ半分のアシルであった。
「一か月もあれば戻ってくる予定じゃ、その間、何かあったらマルティネス団長に相談せい。よく言い含めておくからな」
タツキのいない学園生活に不安を感じながらも、戻ってくるのを楽しみに待とうと決めるアシルだった。
王宮に戻ったタツキは、早速内大臣ルイベルトを訪ねる。
ルイベルトの執務室は、巨大な机の上に各地からの報告書が山になって積まれ、3人の補佐官とともに秒単位の忙しさがうかがえた。
「ルイベルトよ、忙しそうじゃな。わしはこれから国内視察に出かける。一応伝えたぞ」
言うや否や、反論の時間を与えないように足早に執務室を後にする。
続いてウオルトの元を訪れる。部屋の前で控える衛兵に右手で挨拶を送り、自ら扉を開け、部屋に入る。ウオルトもまた書類の山と格闘中だ。ソファーに腰を落としてウオルトの手が空くのを待つ。控えの間から補佐官が紅茶とケーキを持って現れ、タツキの前に静かに差し出し戻ってゆく。素早く食べを得ると大きな声で、お代わりを注文する。
2人分の追加を持って現れた補佐官は小声で、
「殿下の執務の邪魔をされませんよう、お願いいたします」
お構いなしに、
「ウオルト、いらぬならわしが全部食べてしまうぞ」
苦笑しながらも、書類を脇にどけてタツキの前のソファーに座る。
「今日はどうした。学園で何かあったか」
「いやなに、平和すぎて暇なもので、領地の視察にでも回ろうかと思ってのう」
「それは良いことだね。僕の代わりにお願いしたいくらいだ」
話しはまとまり、詳細は家令のサナルと詰めることになる。
「サナルよ、何度も言うが護衛は不要じゃ。わしを傷つけるものなどおらんわ。マヒロとガクマとルイシンの4人で十分じゃ」
王室専用馬車も断り、旅支度の4人は城下に出て昼食や途中のおやつなどを買い求め、大門近くの辻馬車組合を訪れる。
美少女4人組の旅というので、受付嬢は心配そうに尋ねる。
「保護者とか同行の大人はいらっしゃらないの」
「心配は無用じゃ。この3人は武芸の心得がある。王国騎士見習いなら互角に渡り合える実力じゃ」
見ると旅支度の腰に小ぶりの剣が装備されている。
それでも不安を感じた受付嬢は、最も頼りになる御者のカンバラを呼び、同行の手配をするのだった。
「とりあえず王の領地を回る予定なので、1カ月ほどは頼みたいのじゃが、構わんか」
「貸し切ですと料金が嵩みますが、よろしいのですか」
「構わぬ、出来るだけ乗り心地の良い箱馬車を頼む」
案内嬢と御者のカンバラは、どこの御令嬢かしら、でも護衛もつれずに旅行とは何か訳があるに違いない、とささやきあい、我々が助けてあげなければと奮い立つのだった。
大門を出てしばらく行くと道は十字路に出る。左はヨークシン候領、まっすぐ進むとハンラック候領、右に進むとさらに西のエオーク候領と北西に向かう道に分かれる。
馬車は北西への道を進む。行先は国王領で最大の港町ムルガイ。
「魚料理が有名ですよ。新鮮な魚介類の種類が豊富で、平民から貴族まで食通が通うほどだと聞いています」
御者席から顔を向けてカンバラが告げる。
「楽しみだね」
4人は、はしゃぎながら旅の始まりの興奮に酔うのだった。
本心は退屈しのぎで出た旅だったが、途中に村があると立ち寄っては生活に不都合はないかと気を配るタツキだった。村々の畑は作物がたわわに」実り、家畜たちも健康そうに育ち、村人の表情は一様に明るかった。
「これもみんなタツキ様のおかげですよね」
マヒロたちの尊敬のまなざしに、
「それはあまり宣伝せずとも良い」
照れたように答える。
11.地脈変更
のんびりと旅を続けるタツキ達。村を見つけると必ず立ち寄る。少し大きな村で、加工品が有名だと聞けば滞在を伸ばし、加工品の作製過程を見学して2泊に及ぶこともあった。
「人の営みとは興味深いものじゃのう」
訪れる村々にそれぞれ違う特徴を感じて、タツキが感想を漏らす。
城下と宮殿での生活しか知らない3人も、タツキの言葉に同意して、連れ出してくれたことに感謝するのだった。
明後日の夕方にはムルガイに着くだろうと、のんびり進む一行。昼食のために立ち寄ったキオス村の宿屋兼食堂で、店主と世話話をしていると、店主が声を落として告げる。
「最近、村に病人が増えていて、医者が見ても原因も分からず、村人に不安が広がっているんですよ」
「わしが見てみようかの」
タツキが言うと、
「お医者さまでしたか。お若いのに御見それ致しました」
「似たようなものじゃ、患者に合わせてくれぬか」
はす向かいの家に一人いると聞いて。案内がてら紹介してもらう。
患者は40歳手前くらいの女性。顔色は土気色でお腹が張ったような状態。そこに手を当ててしばらく考え込む様子のタツキ。
「わかった。しばらく安静にしておれ」
告げると、タツキ家を出て、近くの川べりを上流に向けて歩き出す。
後からついて行く3人はタツキに説明をお願いする。
「あの女性と同じいやな気配が川にあふれている。川の水が原因じゃろう」
4時間ほど歩いて、上流のある地点でタツキの足が止まる。
「山から有毒物質が川に流れ込んで居る。地脈を変えて流れ込まぬようにした。被害はなくなるはずじゃ」
村に帰り着いたのは夜になってから。
先ほどの店主に宿を借り、病気の説明をする。
「川の水が原因じゃ、あと2日ほど川の水を避ければ、きれいな水が流れてくる。そうなれば病もよくなっていくはずじゃ。村中に伝えておいてくれ」
翌朝、馬車は村を離れる。また、のんびりとした旅を続ける。
最初の目的地ムルガイに到着したのは、それから3日後である。
ムルガイは川に挟まれた土地に発展したため、街に入るにはいずれかの橋を渡る必要がある。すべての橋の入り口には門が作られ、守備隊がつめ、身元の確認を行っていた。
タツキはルイベルトからわたされていた通行証を見せる。通行証を確認していた守備兵が、「申し訳ないが、少しお待ちください」
門の隣の守備兵の詰め所に案内され、しばらく待っている。まもなく街を預かる執政官の使いと名乗る者が現れ
「ご同行お願いします」
と告げる。
箱馬車のまま街に入るタツキ達一行。
案内されたのは、執政官事務所。カンバラに馬の世話を頼み、4人は建物の中へ。職員の好奇な目にさらされながら、3階の執政官執務室に案内される。
ドアを開けると、執政官がにこやかに迎い入れる。
「及びたてして申し訳ありません。私はパラールと申します。内大臣直々の通行証をお持ちだと聞き、ぜひ当館に滞在して王都の話でも聞かせていただければ嬉しいのですが」
これまで村の宿に泊まって不自由にしていた侍女たち3人は、お風呂にもはいれると大喜びで賛成する。
「それで、執政官がわざわざ迎い入れた、本心はどこにあるのじゃ」
タツキの問いかけに、パラールは
「最近、他国の間者と思われる者が、偽の通行所で街に入り込んでいまして。あなた方がそうとは思いませんが、キオス村に4人の美女が訪れて、はやり病を治すと言って去ったと報告が来ています。その噂を利用してよからぬことを企む者が出ないとも限りません。本当に治ったという連絡が来るまで、申し訳ないが、監視下に置かせてもらいます」
「タツキ様を詐欺師とおっしゃるのですか」
マヒロが怒りの表情でパラールに詰め寄る。
「あくまで賓客としてお持て成ししますので、ご了承ください。私にも街の治安を守る役目がありますので」
「良い、監視ではなく案内人が付くと考えれば、観光も楽しめるというものじゃ」
タツキの言葉に、3人も不承不承提案を受け入れる。
案内された部屋は最上階にある来客用のゲストルーム。各人に1部屋ずつあてがわれ、ふかふかで清潔なベッドが設えてある。早速教えられた共同の浴室に飛び込む4人。王都に残してきたアシルの話に盛り上がりながら、久々に湯舟で手足を伸ばしあい、旅の汚れを落とすのだった
12.聖女魔女
朝になり、遅めに起きてバルコニーに出るマヒロたち。目の前に海が広がる。青い空と白い雲、そしてどこまでも広がる青い海、初めて見る海に3人は大興奮だ。
素早く着替えを済ませると、タツキの部屋で今日の行動予定を立てる。
「まずは観光じゃ、案内人に任せるとして、最初は海に行こうかの」
監視役の役人に海への案内を頼む。10分もしないで海岸線に。
波打ち際で波と追いかけっこを楽しむ3人の姿に、
「若いのう」
タツキがつぶやくと、隣で役人が、
「あなたが一番若いのではないですか」
と、あきれたように話しかけた。
役人の案内で魚市場へ。内陸育ちの3人と、そもそも海に興味がなかったタツキは、魚の種類の豊富さ、見たこともない生きた甲殻類などに目を見張るのだった。
昼食の時間になり、買い求めた魚介類をその場で調理してもらう。新鮮な魚のおいしさに、来てよかったと顔をほころばせる4人。
次に訪れたのは博物館。海運都市だけに貿易で世界中の工芸品や美術品、歴史的価値のある品々が集まり、内容は目を見張るものがあった。
タツキは興味津々で、毎日でも通い詰めたい様子だった。
役人に促されて、やむなく市街地に戻り、少し行くと商店街に出る。八百屋、魚屋、肉屋、生活雑貨店、洋品店、金物屋、総菜屋などの日常生活の店に並んで、武器屋、装飾品店が点在する。雑多な分活気に満ちた街だ。
ぶらぶらと大通りを歩いていると後ろから声がかかる。
「キオスの村から来た、タツキ様と御一行様とお見受けする。教会へのご同行を願いたい」
慇懃無礼な言葉にタツキ達は足を止め振り返る。聖職者の服装に身を包んだ若者が偉そうに手招きする。教会の権威を自分のものと勘違いするタイプに見える。
「教会がなんの用じゃ。わしには用はないぞ」
「私は拝神教のムルガイ教区の司祭だ。つべこべ言わずについてこい」
「ここは同行してください。私は執政官に報告してから協会に向かいます」
役人に言われて、教会についていくことにする。
連れていかれたのは、ムルガイ教区の中心だけあって立派な教会。教区のトップである司教の部屋は、質素でありながら重厚な雰囲気に包まれていた。
「お呼び立てして申し訳ありません。私は司教のシュンカです。少しお尋ねしたいことがあります。キオス村で奇跡を起こしたとの報告が来ています。また、王都からは突然の慈雨と植物の急成長の噂が届いています。すべてあなた方が絡んでいるようですが、詐欺師なのか、神の使いの聖女様か、悪魔の手先の魔女との見方もできそうです。直接お会いして真偽を見極めたいと思いましてね。まずはキオス村の病が収まったのかが、決め手になりそうです。報告が届くまで、教会の監視下に置かせていただきます」
「執政官といい、おぬしといい、気苦労がたえぬようじゃな。好きにせい」
「王都の内大臣ルイベルト様の通行証をお持ちである以上、通行所が本物なら身元は確かですから、私からはお願いに留めておきましょう」
「言っておくが、4人を殺して成りすましたのではとの心配も不要じゃ。我々は本物じゃからの」
3日ほど買い物や観光地巡りを楽しんでいると、教会からの呼び出し状が届く。出向いてみるとシュンカ司教の執務室には他にパラール執政官も呼ばれていた。
「キオス村から知らせが届きました。あれから病は急速に沈静化してきた模様です。タツキ様が正しい処置をしたと判断いたします。執政官も同意していますので、街を離れるのも自由にしてください。なお、今回の事で、私は総本山にタツキ様を聖女と推薦します」
「そろそろ、次の街に行こうかと思っておる。まだまだ、見ぬ土地がいっぱいじゃからのう」
御者のカンバラに使いを出し、翌朝出発の準備をさせる。タツキ達は旅の途中のおやつなどを買い出し、最後の優雅な夜を楽しむのだった。
魔法に慣れていない世界で、タツキは神様の使いか、悪魔の手先か。
我関せずのタツキだが、国ごと破門では王政が危機に。
1週間に一度は更新したいけど、タツキ達が働いてくれるかな。
14時に更新したはずが、更新されないのでアップします。使い方がまだ不安。