タツキ、模擬戦でずるをする
戦闘シーンは模擬戦だけです。
なんとなく車掛りの陣をイメージしました。
学園での龍の魔法は反則ですが、教育面を押し出してうやむやに。
7.内乱終結
タツキの力の一端を垣間見ただけで、城内の兵たちの戦意がそがれる。そんな中、タツキは悠々と帰還する。
ハンラック候の居城ブラウンシュール城は山の中腹に建てられ、後方を山、片側を川、もう一方を切り立った崖に囲まれた、攻めるに難い難攻不落の名城として知られていた。攻め落とすには兵糧攻めが有効だが、攻めあぐねると後方よりザイ・カダル連盟国が救援に駆けつける。攻撃側は挟撃される恐れを抱えつつの対陣になる。
「長引けば国が荒れる。隣国どもがよからぬことを企む隙も生まれる。早期の解決が一番だ」
国王の一声で、最大に譲歩した停戦案が示されたわけだ。戦勝者としての権利を主張していた貴族たちも、王の決定に従うしかなかった。背景にタツキの魔力による各国の食糧増産の約束があったことも大きく作用した。
猶予時間が残り僅かになると、タツキが城の正面に姿を現す。不必要に大げさな動作を繰り返しながらタツキが風の魔法を発する。突然空が暗くなり、びゅうびゅうと風が吹き始め、嵐の様相鵜を呈していく。タツキが空に伸ばした手を振ると、ぴたりと風はやみ雲が消えて青空が戻る。それを見た城の守備兵たちは戦意を失う。
城内では主だった者たちによる会議が続いている。
「ハンラック候、兵の動揺は抑えがたく、これ以上の戦は各地より集めた兵が付いてこない。国王の慈悲にすがるよりあるまい」
エオーク候の言葉に、集まった諸侯も賛同の姿勢を示す。
「何を弱気に。この城に籠れば半年以上は軽く持ちこたえる。その間にザイ・カダルから妹の婿殿が兵を差し向けてくれるはずだ」
ハンラック候は強気の姿勢を崩さない。そうこうするうち、約束の時間が近づく。そこに大門を守る守備隊長が駆け込んできて、
「申し上げます。我々の制止にかかわらず、招集兵の一部が反乱し、大門を開けてしまいました。大門付近は敵味方入り乱れての乱戦になっており、押し返すのはもう不可能かと思われます。城壁は捨て城を守りの拠点にするべく、残った兵を撤収させることを進言いたします」
諸侯は顔色失う。ハンラック候はガクリと椅子に崩れ落ちた。
「白旗を上げろ、遅きに失した感はあるがまだ時間前だ。もう一度、王の慈悲にすがろう」
エオーク候の言葉に反対できるものはいなかった。
塔の最も高い位置に白旗が揚がる。それに気づいた城の兵たちは次々に武器を置きその場にへたり込む。徐々に城兵の抵抗がやんでいく。
王国親衛隊が武装解除をしながら城の最深部への道を作っていく。そのあとを王とウオルト、タツキが進み、貴族たちが従う。ひそひそと語り合う声が聞こえる。
「ハンラックもこれでお終いだな。今まで威張り散らしていた分、お返しのチャンスだ。
貴公も随分と嫌味を言われてたであろう。水に落ちた犬は打てというではないか。存分にいたぶるのも一興」
王はそれを聞きつけ、諭すように話し出す。
「ハンラックは反乱の大逆を犯したとはいえ、これまで国を支えてくれた重臣じゃ。行き過ぎた言動はあったが、国を思う心に偽りはなかった。ただ、自尊心が強すぎて歯止めがきかず、今回の仕儀に至ったのだろう。止めきれなかったわしらにも罪はある。そう思わぬか」
王の言葉に皆恥ずかし気にうつむく。同時に慈悲あふれる姿に、この王なればと忠誠を新たにするのであった。
親衛隊を先頭に、ハンラック候の待つ大広間に入る。左側には今回の反乱に加わった貴族達とその主だった家臣たちが片膝をついて恭順の意を示し、候たちを迎い入れた。
主君用の椅子に王が座る。両側にウオルトとタツキが並び、同行してきた貴族たちが囲み、さらに親衛隊が周囲を固める。
王の近くにハンラック候が進み出る。
「此度の件、余は誠に残念じゃ。なぜ反乱なに及んだのか、訳を知らせよ」
王の言葉に、さらに首を垂れ力なく答える。
「まことに、このモレロの浅はかな考えから出た事。王子が女であるとの情報を鵜みにし、女子に国は任せられないと先走ってしまいました。王都での一件で引くに引けなくなり、半ばやけを起こしました。王国にいらぬ混乱を招いた件、万死に値すると承知いたしております。しかし、可能でしたら一族の罪はこれまでの我が侯爵家の功績に免じ、罪を減じていただくようお願いいたします」
「降伏勧告はまだ有効じゃ。そなたは王都に連れ帰る。後のことは侍従長にでも言づけるがよい」
王の言葉に、その場の反乱貴族一党は安堵のつぶやきを漏らすのだった。
8.王都帰還
集まった貴族達と会議を続け、事後処理にめどが立ったのは7日後の事。ハンラック侯爵家は当面、候の一番下の妹、マリアンナが引き継ぐこと。現在13歳の世継ぎであるロペスは王都に同行し、王が認めた場合に帰郷し、ハンラックの家名を継ぐことになった。
後の処理を王弟ネオコラル公グレンとその軍に託し、王都への帰還を始める。途中、貴族たちは三々五々、自分の領地に戻っていく。王はその度に傍ら控えるウオルト王子への忠誠を誓わせ、タツキの存在を心の奥に焼き付けさせるのだった。国王の領地に入ると、直参の貴族たちも離れていき、最後に王国守護騎士団と近衛兵団を引き連れて王都に帰還を果たした。王都は戦勝気分に沸きかえり、領民たちは王の帰還を喜び合うのだった。
帰還後はウオルトも王の補佐として、事務処理に国務に忙しい日々を送る。タツキはというと、朝目を覚ますとアシルや3人のメイドに甲斐甲斐しく世話をされ、緑の髪は結い上げられ、フリルの衣装を着せられそうになるのを断固として断る、そんな日々を過ごしていた。また、暇を持て余し、ウオルトの執務室に入り込んでは、上質な紅茶と王室料理人特製のショートケーキを頬張る毎日。さすがに10日も過ぎると、周りも落ち着きを取り戻し、タツキの興味は城の外に移っていく。
マヒロ、ガクマ、ルイシンの3人はもともと城下の生まれで、案内役を買って出る。タツキとアシルと5人で明日はどこを回ろうかと計画を立てているとウオルトがやってきて、
「5人だけでは何が起きるかわからないし、サイマーンを護衛につけようか」
提案されるも近衛兵が付いていては、周りが気を遣うだろうし、自由な行動ができなくなりそうなので、タツキが即、却下する。
「わしが一緒じゃ、何か起こるわけがあるまい」
「確かにそうだ。私が同行できればいいのだが、執務が忙しく無理だな。わかったけど十分注意してくれよ」
そう言いながら、国庫から100リン金貨10枚を出させ、明日の軍資金として渡す気遣いを見せる。
「遠慮なく使わせてもらうとしようかの」
受け取るタツキを見て4人は、声も出せずに
「50リンもあれば4人家族が一月暮らせる額。このような大金を目にするのは初めて」
と、金銭感覚の違いに驚くとともに、平然と受け取るタツキに、さすがはタツキ様との思いを強くする。
翌日、いつものような朝の一幕の後、朝食を終えた5人は、いそいそと街へ繰りだすのだった。
タツキの興味はまず、市場へ。王都に流通する野菜や果物、魚や肉の種類を見て回る。つい一か月程前に深刻な食糧不足だったとは思えないほどの品ぞろえだ。タツキはその成果に満足げに胸を張る。同行の4人も女神を見るかの如く、崇拝の眼差しを向ける。気をよくしたタツキは、市場を後にし、職人街へ。
宝飾店で4人それぞれにおしゃれな髪飾りを買い、おそろいのネックレスを5個購入。その場で、危機管理の魔法を付与して、4人の首にかける。アクセサリーとしても一級品でありながら、何かあったときにはタツキに危機の内容と位置情報を知らせるアイテムでもあった。
次に寄ったのは、おしゃれな洋品店。タツキは魔法で装いを変えるので、服装に無頓着だが、特にアシルは私服を殆ど持っていないので、流行のファッションに興味が尽きない様子。
「お気に召すようなものがありますか」
店員の声に、数着の服を試着して思案気な様子のアシル。
「とりあえず、それ全部もらおうか」
タツキが言うと、大喜びの店員はいそいそと放送を始める。
「タツキ様、いくら何でももったいなさ過ぎます」
アシルの喜びと困惑の入り混じった表情のアシルに
「これから、わしと一緒に王立学校に通ってもらう。おぬしには勉強の機会が必要じゃろうし、わしは暇つぶしじゃ。寄宿舎生活になるので、私服も必要じゃろ」
「え、学校ですか、タツキ様のお世話係でしたら、喜んでお供します」
包み終えた洋服を嬉しそうに抱えるアシルを見ながら、4人は妹を見るような温かい眼差しを向けるのだった。
楽しい思い出を残し、一日が終わる。次の日からは入学手続きを行う。二人の保証人は国王では堅苦しすぎるとの提案で、守護騎士団のマルティネス団長に決まる。
9.学園遊戯
あわただしい準備の末、編入の日が来た。
王都には、貴族かまたは優秀と認められた子女の通う王立学校と、主に一般の市民、裕福な商人や職人、下級役人の子女が通う首都幼年校(7歳から12歳)がある。
王立学校は8歳から13歳までの初等部と17歳までの高等部に分かれているが、授業は教授の受け持ちの教室に出向く形で行う。授業は年齢にかかわらず行われ、興味のある授業を選択するため、初等部,高等部の垣根はあいまいで、学生が混在することも珍しくない。宿舎は全寮制で2人一部屋、王族と高級貴族には3間続きで浴室付きの部屋が特別に用意されている。
タツキとアシルには特別室が用意されていた「
翌朝、全生徒を集めた校長の挨拶が行われる。話の内容はタツキについて。準王室扱いになること、しかし、普通に接することが言い渡される。生徒たちの反応は、王都に雨を降らせた恩人と歓迎するもの、眉唾物の詐欺師ではないかと疑うもの、半々といったところ。
ハンラック候の長子ロペスは、城が陥落するときの様子を知っていたので、タツキには恐れと憧れを抱いていた。タツキにうさん臭さを感じ、糾弾の先方に立ったのはエオーク候の次男モロレロであった。
モロレロは家督を継ぐ望みがないため、将来は実力を磨き騎士団長を目指し、さらに作戦立案能力も高く評価されていた。校内の模擬戦闘では、相手の突進に部隊を少し後退させ、そこからの包囲殲滅戦で勝利を手にし、傭兵家としての才能も見せつけた。
自らの能力に自信があるからこそ、モロレロは、なんの実績もないと感じるタツキが王家に準じる扱いを受けることに我慢できないでいた。
他人の思惑などまったく気にしないタツキは、学園生活を楽しんでいた。
タツキの部屋には、王都に連れてこられ、王立学校で勉強させられていた貴族の子弟が、毎日、入れ替わり訪れるようになっていた。アシルの入れるおいしい紅茶、王宮から届けられる日替わりのケーキを目当てに通う者も多かった。
タツキは貴族の子弟を前に、自身の見て来た人の営みの中から、役立ちそうな逸話を交えて語り、上に立つ者の心得を教えるのだった。
その日は模擬戦が予定されていた。モロレロにとって、タツキの鼻を明かす機会となるはずの日だ。事前の裏工作でモロレロはタツキと対戦することになっていた。
模擬兵団は王国守護騎士団から王都守備隊が貸し出され、熟練度は折り紙付き。
モロレロは、中央に重装備で長槍を構える歩兵で守りを厚くする。その後ろに弓兵で迫る敵を撃つ。左右に騎馬隊と軽装の歩兵という機動力重視の配置だ。
対するタツキは軽歩兵を前列に配し、その後ろに重歩兵、左右に騎馬隊と弓隊という変則な構えだ。
「戦を知らぬ女に、戦闘を教えてやらねば」
タツキの陣形を見たモロレロは勝利を確信する。
模擬戦闘が始まる。先に仕掛けるのはタツキ。騎馬隊がきどう力を発揮して、モロレロ軍に切りかかる。両軍の弓矢が飛び交う。タツキの騎馬隊は円を描くように、一点に切りかかっては後退を繰り返す。さすがの重歩兵にほころびが生じる。さらに騎馬隊が追い打ちをかける。それを見たモロレロは、軍に全身を命じる。ジワリと前進するモロレロ軍。突然、重歩兵の前列が窪地に足を取られ転びだす。続く兵たちも足を取られ大混乱に。そこにタツキの重歩兵が切り込み、混乱に拍車をかける。救助に向かうモロレロ軍。その隙をついて騎馬隊がモロレロの本陣になだれ込む。
タツキの勝利だ。
「なぜあそこで…」
悔しがるモロレロ。対して
「戦場では、何が起こるかわからぬものじゃ。おぬしの作戦、用兵も見事であった。だが、不測の事態への対応も学んでおくことじゃ」
魔法を使ったことに少しばかりの後ろめたさを感じつつ、これもよい経験になったろうと、一人納得するタツキだった。
学園生活は日を重ねていく。命令によって王立学校に編入させられた貴族の子弟たちだったが、民を大事にし、公正な領地経営をすることこそが国と国民を豊かにするという、王の考えが、時間とともに浸透する。頃合いと見たお王は年長者の領地への帰還を認める。
各々の領地へと帰っていく貴族の子弟の心には、王への尊敬と国への忠誠心が芽生えていた。
「タツキの思惑通り、教育こそが国の礎になるのだな。王への助言、重ねて礼を言う」
ウオルトは教育の必要性を再認識しながら、タツキに礼を言うのだった。
次回は、大陸の中心的宗教をが、魔法を使う龍女を異端ととして審問官を派遣してきます。
一神教の審問官は、果たして神の御使いと判断するのか、魔女とするのか、筆者にもわかりません。