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退屈龍女と少女王子の国造り  作者: ミツタカ・ケン
2/8

王女、みんなの前で上半身をさらす

書置き分の投稿です。

王女がみんなの前で上半身をさらします。

でも…。

続きを読んでね。

4.暴漢遭遇

 

 イサマイン王国には、首都ダラムを含む国王直轄領の他、4人の有力侯爵家と20を超える貴族家が存在する。最も有力なのが南に位置するハンラック侯爵家。現当主モレロは30歳半ばの偉丈夫で、好戦的野心家として知られる。西にエオーク候クレマン、東にヨークシン候ロバン、東南方向にルナール候ブランシルがそれぞれ権勢を競っていた。それらの間に中小貴族家の領地が点在する。

 

 宮殿は三々五々集まった貴族達とその一行で、久々の賑わいを見せていた。貴族たちは各々の客室に通され、家令たちは忙し気に働き、同行してきた護衛兵士がそこかしこに控える。

 城下では、ダラムに居を構える貴族の使用人達や宮殿内に入れない随行員を相手にする、街の商店や道に並ぶ屋台も活気に満ちている。

 

 「食が足りるだけでも皆笑顔に戻るのだな。これもすべてタツキのおかげだ。この恩は命に代えても報いるつもりだ」

 目立たぬ装いで城下の視察に出たウオルトとタツキ。その姿は若い恋人同士に見え、道行く人々は二人に温かい視線を向ける。ウオルトはそうした人々の眼差しに気づきもせず、久々に活気を取り戻した城下の様子を目にし、成し遂げたことに安堵するとともに胸を張る想いだった。

 

 そんな中、何気なく裏路地に入り込むと、一人の少女を4人の男が取り囲み、何かもめている様子。ウオルトが声をかけようとすると、少女は男たちの間をすり抜け、

 「助けてください」

 小さな声で訴える。

 「いい大人が、4人もそろってみっともないのう」

 タツキがそう言うと、男たちの一人が進み出て剣の柄に手をかけ、

 「われらはハンラック候にゆかりのものだ、見逃してやるから、その女を寄越しな」

 威嚇するようにどなった。

 「見て見ぬ振りも目覚めが悪いのう」

 タツキが言い放つと4人が取り囲み、剣を抜く。

 「わしは優しいからのう、冗談で済ますなら今のうちじゃぞ」

 答える代わりに一人が切りかかる。ウオルトはそれを受け流し、バランスを崩したところで足を払って転がす。残りの3人は警戒しながら隙を窺う。その時、暴漢たちの目に、騒ぎを聞きつけた街の警備隊が駆けつける姿が映る。

 「ここは引け」

 リーダーらしき者の声に反応し、逃げ出す4人。それを確認して少女に目を移す。すると、ウオルトの左手に縋り付き、おびえた様子で見上げてくる。

 「警備隊が来たからもう安心だよ、家まで送ってもらうといい」

 しかし、少女はおびえた様子のまま話し出す。

 「私は孤児たちの集まる養護施設で育ちました。12歳の時、院長先生の言いつけでハンラック様のお屋敷に侍女として奉公に上がったのです。この度、王都への同行を命じられ、ついてきました。でも、最近男の方々の私を見る目が怖いなと感じていたところ、今日、あの騎士様の方々に買い物を頼まれてついてきました。突然、別のところに連れて行くといわれ、怖くなっていたところにお二人が通り合わせて、助けていただいたと言う訳です。もうお屋敷には…」

 「おぬし、名はなんという」

 タツキの問いかけに

 「アシルと申します」

 「アシルよ、もうハンラックの屋敷には戻らぬほうがよさそうじゃのう」

 思案顔のタツキに、ウオルトが声をかける。

 「帰れないのなら、タツキが面倒を見るといいよ」

 「面倒といっても、わしは金無し、宿無しだからのう」

 「宮廷内にそれなりのものを用意するから、タツキ付きの侍女として国が採用するというのでどうかな」

 「わしは構わぬが、アシルよ、おぬしはどうじゃ」

 「身寄りもありませんし、そうしていただけるなら身を粉にして働かせていただきます。仕事は侯爵家で4年間それなりに教わってきましたので、大丈夫だと思います」

 「では、決まりだね」

 アシルの擁護院時代の生活の話などを聞きながら、3人は仲良く帰り道につくのだった。

 

 

 5.宮廷争議


 アシルは持ち前の明るさから、マヒロ・ガクマ・ルイシンら3人の侍女たちともすぐに打ち解け、かいがいしくタツキの身の回りの世話を続ける。少しわずらわしさを感じながらも、タツキは嬉しそうに世話を焼くアシルを温かく見守るのだった。

 平和な日が数日続く中、いよいよ御前会議の日がやってきた。

 

 広い玉座の間に埋め尽くされた、各地から集まった諸侯たちは、王都周辺の目を見張る変化に、何があったのかと情報集めに余念がない。ざわつく玉座の間に、王の登場を告げる声が響く。

 「国王陛下のおなり。恭順の意で迎えよ」

 諸侯が一斉に片膝をつき、首を垂れる中、一段高い壇上の荘厳な玉座にリカルド王が座る。横の椅子には王太子ウオルトの姿があった。

 壇上横に進み出た内大臣ルイベルトが、開会を宣言し、続けて

 「突然の呼び出しにかかわらず、早速お集まりいただき、王も諸侯の忠誠に満足しておられます。この度の招集の件につきましたは、王太子ウオルト殿下よりご説明いただきます」

 皆の視線が王子に向かう中、状況説明を始める。

 乾ききった直轄領に突然慈雨が降り注いだこと。雨の不思議な成分によって植物が驚異的な成長を見せたこと。そのすべてが龍の巫女であるタツキという少女の力であること。

 王子が話し終えるとにわかに信じられない内容に、会場中がざわつく。

 そんな中、王の声が響く。

 「静まれ。龍の巫女タツキをここへ」

 言われて大広間の扉が衛兵によって開かれると、そこに偉そうに胸を張る少女の姿があった。

 侍従長に付き添われ、玉座の前に進むタツキ。

 あどけない少女の外見に、会場が再度ざわめく。

 王の前に立つも、恭順の姿を示さずに正対するタツキに、諸侯からは

 「王の御前であの態度は、さすがに不敬である」

 騒然とする中、静かに王が進み出て

 「此度の働きに国王として感謝する。証として準男爵に任じ騎士の称号を与える」 

 驚きに静まり返る諸侯たち。あどけなさの残る少女に騎士の称号程不釣り合いなものはないと感じていた。しかし、王の決定に異を唱える者はいなかった。

 もろもろの手続きが滞りなく進み、閉会を告げようとしたとき、ハンラック候が進み出て発言を求めた。

 干ばつで王の力がそがれ、相対的に発言力を増したハンラック候にとって、王家の力が増すことは自身の押す次期国王候補にとって、見過ごせないことでもあった。

 ハンラック候は起死回生の一手に出る。

 「王よ、臣の耳によからぬ噂が届いております。よりによって王子が女であると。宮廷雀の噂と捨て置くよりも、諸侯の前で真偽を明らかにし、よからぬ噂をもとから絶ってはいかがと愚考いたします」

 それに対し、不機嫌そうな顔で横から発言する者がいた。公爵家筆頭の王弟ネオコラル公グレンであった。

 「いかに忠臣たるハンラック候といえども不敬である。単なるうわさを信じ確たる証拠もなしに王太子を侮辱するとは、このグレンが許さぬ」

 「証拠なら、王子のお体にございましょう」

 引くことができないところまできたハンラック候は勝負に出る。

 「して、違った場合はなんとする」

 王弟グレンの言葉に

 「その時は非礼を詫び、直轄領に隣接するわが領地の一部カンタールを王に返上しよう」

 

 皆の前に進み出る王子。

 豪華な上着を脱ぎ、上半身をさらす。見度に筋肉が付き、健康に日焼けした姿だ。

 「ハンラック候、下半身も必要か」

 「それには及びません、まことに失礼いたしました。皆の疑念もきれいに晴れたことでしょう」

 答えを返す顔は悔しそうに歪んでいた。

 「余興だ、領地の件も含めすべて余興。皆もそう心得よ」

 王子の発言で、緊張した空気が和む。その後は穏やかに閉会するのだった。

 

 王子の居室に戻り、同行したタツキが話しかける。

 「あやつ、王子の正体を知っておったな」

 「正体とは、もともと俺は男だぞ」

 「ほう」

 「それが政治だ」

 「人の世とは複雑な物じゃな」

 二人は上出来に終わった結果に笑いあうのだった。


 6.反乱勃発

 

 ハンラック候に反乱の兆し有り、との報告が届いたのはそれから3カ月後であった。

 知らせを受け、急遽王宮に主だった者たちが招集され、御前会議が始まる。

 討伐隊編成に向け、動員できる軍勢の規模、それを支える在庫の確認、食料・武器・備品の追加確保、すべての事が内大臣ルイベルトと守護団長マルティネスらによって次々ときめられて行き、各組織が慌ただしく動き出す。

 

 王都には続々と情報が寄せられていく。

 首謀者はハンラック候モレロ・兵数9千、加担するのはエオーク候クレマン・兵数6千、そして周辺の中小貴族たち5千であった。その数総勢2万。さらにハンラック候の妹の嫁ぎ先、隣国ザイ・カダル連盟国から6千の兵が派遣されたという。

 

 後手に回りすぎるとハンラック候の脅しに屈して、さらに周辺で反乱に加担する領主が増える可能性があるため、用意の整った第1陣が出発する。

 総大将は王弟グレン。1万2千の兵で先発する。途中、ヨークシン候ロバン・兵数6千、ルナール候ブランシル・兵数5千が合流する予定で、総数2万3千の兵になる予定だ。ただし、遠征側は兵站に割かれるため,実兵力は8割程度である。

 後詰めに王の直接の指揮のもと8千の兵が続く予定になっている。

 兵力はほぼ互角。しかも戦場になるのはハンラック候の領地、カンタール地方の草原が予想されていた。地の利はハンラック側にあった。

 

 早朝、先に陣を敷いたのはハンラック軍。前線に長槍隊、その後ろに8列の歩兵、弓隊が続き、4千の騎馬隊が後ろからすきを窺う。鉄壁の陣である。

 対する王国軍は後続も合流し、こちらも万全の構え。最前列に盾を隙間なく掲げ、守りの姿勢に見える。

 

 ハンラック軍が動く。軍鼓の響きに合わせ、ゆっくりと間合いを詰めてくる。

 最初は弓の一斉射撃。しかし掲げられた盾でほとんどが防がれる。軍鼓が激しく打ち鳴らされると、それを合図に突撃が始まる。恐怖を忘れるように大声で突進してくるハンラック軍に対し、王国軍は静かにその時を待つ。

 ハンラック軍が王国軍の盾に突進した瞬間、盾の間から無数の槍が突き出された。突進力を失うハンラック軍。それならと騎馬隊が突破を試みるが槍衾に阻まれ後退を余技される。

 ハンラック軍が一旦軍を引いたのを確認し、王国軍は負傷者たちを軍に引き入れ、敵味方なく治療させる。両軍が安全な距離にはなれると、王国軍は警戒しながらも隊列を解いて、食事と休息を取り始めた。

 

 ハンラック軍では軍議が行われる。

 「あのような陣は初めて見る。野戦ではなくまるで攻城戦ではないか」

 将軍の一人が言うと

 「長引けばこちらが不利になります。日和見を決め込む貴族だけではなく、わが軍から脱走するものや反旗を翻すもさえのが出ないとも限りません。短期決戦のため、正面攻撃と同時に投石を加え、乱れたところを左右から騎馬隊が切り込みます。その時弓隊が雨あられと射かけて敵陣を混乱に陥れます」

 参謀長の作戦に、それしかないかと、皆が同意する。

 

 両軍が寝静まったころ、王国軍からタツキの魔法で拡声された大音量の声が流れてきた。

 「「国王リカルドだ。速やかに軍を解き慈悲を求めよ。投降するものはハンラック候の脅しに屈したとみなし、罪を問わないと約束しよう」

 動揺が走ったもののハンラック兵の目が光っていたため、表立って行動に出る者はいなかった。

 

 翌日の戦いはハンラック軍の作戦通りに進む。

 両軍がぶつかるや投石が開始され、乱れたところに騎馬隊が突撃し混乱に拍車をかける。

 王国騎馬隊は介入すると自軍がさらに混乱すると考え、手を出せずにいる。一時の混乱が収まりかけると、騎馬隊の前に王国軍の槍衾が作られ始める。頃合いとみて離脱を始めるハンラック騎馬隊に、はやる気持ちを抑えていた王国騎馬隊が追撃を開始。気持ちが逃げに入ったハンラック騎馬兵は次々に打倒されていく。

 戦いが半ばを迎えるころ、突撃してきたはずのハンラック軍の中から、武器を捨て投降するものが出始める。それを見た中小貴族の兵たちは我先に投降を始める。勝負が決した瞬間だ。

 

 残ったハンラック軍は半数以下に兵を減らし、居城へと敗走する。

 その報告を受けながら王国軍の天幕でタツキは不満そうにウオルトに話しかけていた。

 「わしの活躍はないのか。せっかく来たんじゃから何か手伝わせろ。これでも王国騎士様じゃぞ。何ならハンラックの城を落としてこようか」

 嬉しそうに腰を浮かせるタツキに

 「タツキにならできるだろうけど、ここは人間同士の任せてくれないかな。これ以上犠牲者は出したくないからね」

 「そんなものかのう」

 最近口癖になったと感じながら、つぶやいた。


 速度を抑えながら追撃し、3日後には居城を取り囲み、降伏韓国の使者を立てる。

 「わしは死なぬし、傷つくこともない」

  押し切る形で使者の役目を担ったタツキが城門の正面に立つと

 「お嬢ちゃん、危ないからおうちにお帰り」

 と、揶揄する声が上がる。構わず、風の魔法で城内の全員に聞こえるように口上を述べる。

 「ひとつ、反乱の首謀者・モレロの身柄を引き渡すこと、

  ひとつ、領地の半分を国に返上すること、

  ひとつ、反乱に加担した侯爵家・伯爵家の当主は直ちに隠居、家督は3親等以内のものに継がせること、

 ひとつ、やむなく加担した貴族を含め、各領主の家督相続権を持つ16歳以下のものを王都に留学させること、

  この条件を飲むのであれば、息子の誰かが各々の家名を継ぐことを許す。猶予は3時間じゃ」

 言い終わるとタツキは悠々と来た道を帰り始める。途中一本の矢が飛んで来て当たるかと見えた瞬間、強風にあおられどこともなく飛び去っていく。それを見ていた城兵はあり得ない出来事に目を見開き、驚愕の表情を浮かべるのだった。



先に投降した1.2.が重複してアップしてしまいました。ごめんなさい。編集しなおしました。

今後気をℙ付けます。

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