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退屈龍女と少女王子の国造り  作者: ミツタカ・ケン
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龍女がわしで、私が王子

三千ぶりの人間は、必死の表情で3度も魔境を訪れた。その心意気に興味をひかれた龍は姿を現す。

透視で見ると明らかな少女は、自らを王子だと言い張る。そこにも興味を聞かれ、話を聞くことに。

そして、二人の冒険に満ちた生活が始まる。



1.龍女伝説


少年は恐れることなく龍に対峙した。

「絶大な力を持ちながら、人の世の不幸を見ぬとは、それほどに龍とは超越者でいたいのか」

高貴な雰囲気の少年の言葉も龍種の心には響かないように見えた。

「私の命と引き換えに、せめて一時の慈雨なりと降らせほしい」

血を吐くような切実な声とともに、少年は洞窟を飛び出し500メートルを超える崖下に身を投げ出した。

落下の刹那に頭に浮かんだのは乾いた大地にへたり込み、明日への希望を失った王国の民の姿だった。

 続く干ばつに作物は枯れ、動物は飢え、蓄えは底をつき、城の備蓄もわずかに次年の種芋を残すのみ。

 何棟にも及ぶ倉庫には、もう食料の姿はない。とっくに民に放出し、最後の種芋に手を付ければ次年度には、実りの可能性さえなくなる。


 民のために差し出せるのは自分の命のみ。龍に慈悲の心があるのなら、と衝動的に自死を選択した王子だった。


 わずか数秒。眼前に氷の大地が迫る。思わずきつく目をつぶる。

 刹那、何かに包まれた様に落下の感覚が薄れる。


 気づけば寝そべる龍の姿が目の前にあった。全長三メートルか、(想像したより小さい)それが初めの印象。


 「人の子よ、そう早まるでない」

 頭の中に声が響く。

 「わしが人の子と向き合うのも2千年ぶりかの。おぬし、山を越え永久氷河を超え、さらに龍霊山のわしの住まいに3度目か。人に身にしてよくもたどり着いたものじゃ。世に三顧の礼というのがあるそうじゃな。まず、話だけでも聞くとしようかの」

 居ずまいを正して龍が頭の中で話しかけてくる。

 こらえきれずという様子で、王子は堰を切ったように国の窮状を訴え、龍の加護を懇願する。


伝説は、遥か神話の時代、この地で2柱の竜が生涯に一度の子を成すために求愛行動を行ったとされる。その戯れにより高さ三千メートルを超す山々を隆起させ、半径40キロメートルに及ぶカルデラ状の大地を凍てついた氷河地帯にしたと、ふもとの古老は言う。

 中心にそびえる霊峰の頂は九千メートルを超え、すべての生き物を寄せ付けない絶対的な龍の揺籠であると伝えられていた。


 だからこそ、わずかな希望を抱き彼は龍の子を求めた。

 永久氷河に降り続ける雪は、最下層で溶け出し台地にしみこみ大陸に恩恵をもたらす。

 しかし、彼の国にその恩恵は届かず、地下深く通り過ぎるのみ。

 伝説の竜がその力で山に亀裂を入れ、わずかの地下水脈を地表の川に流したなら、彼の国は実りを取り戻すだろう。

 おとぎ話、よくて神話、承知の上で求めるしか彼に選択肢は残されていなかった。

 

 「おぬしの国に雨を降らすのだな。それでいいのか、簡単じゃのう。それだけのために命を懸けたのか。安い命じゃな」

 「永遠に生きる龍とは違い、人は死ぬ。だから次の世代の子らに夢も希望も未来も託す。

それが人間。個人の命は大事で大切なものだが、それ以上に希望の未来を求めるのだ」

 「そんなものなのか」

 龍は不思議そうに王子を見ていたが、急に

 「面白い。わしも少し退屈していたところじゃ。久々に人里に下りるとしようかの」

 「え、では」

 「おぬしの願いをかなえて進ぜよう、ということじゃ」

 「しかし、この姿でとはいかんじゃろ。変化するとしよう。時におぬし、男の格好をしているがなぜじゃ。透視で見れば人の雌のようじゃが」

 透視と聞いて、王子は羽織ってきたムース鹿の毛皮の前を隠すように両手を前で交差させた。

 「私はイサマイン王国の王子だ。いや、王子でなければならない」

 「フム、わけありか」

 恥ずかし気にモジモジする姿に

 「おぬしらは、犬猫に欲情するのか、しないであろう。わしにとっては人もペットも皆同じじゃ」

 なんとなく納得して、訳を話しだす。

 「国では重臣の貴族の力が強く、王女は他国に嫁ぎ、王子が世継ぎとなります。しかし、次期国王候補は血筋も遠く、さらに重臣の侯爵に取り込まれている状態で、国政を任せられない。そう判断した国王たる父は、私を王子として育ててきたわけです。男であればと何度悔しく思ったことでしょう」

 助けてもらえるとの安ど感から、口調が変わったのにも気づかない。

 言うと同時に、王子は大きなため息をつき、悔し気に奥歯をかみしめた。

 「となると、女に未練はないということでいいのか。なら、男にして進ぜようかの」

 「そんなことができるのですか」

 希望半分、疑い半分で王子は聞き返す。

 「問題ない。おぬしを王子にして、わしはおなごになって道行じゃ。それでどうかの」


体の内側がチリチリしたと感じた直後、感覚が変わったのに気付いた。目の高さが幾分高くなり、声を出すと低音に、手足に前以上に力がみなぎっていた。

「もう少し筋肉をつけて、見た目をごつくしようか」

少女の姿になった龍が面白そうに提案してきた。あまり変わると王子の存在を快く思わない侯爵はじめ重臣に、あらぬ疑いを持たれかねないと考え、

「十分です」

と、答えて龍を見ると、見目麗しく、それでいて少女のあどけないかわいさを残す姿になっていた。

「ほう」

思わず感嘆のため息を漏らさずにいられない美しさに、

「どうじゃ」

と、美少女らしからぬ言葉使いで龍女がほほ笑む。



2.夜間襲来


帰り道は極めて順調。橇の帆は風もないのに大きく膨らみ、飛ぶようにベースキャンプへ突き進むのであった。徒歩で7日かかった行程がわずか6時間足らず。雪が切れ拳大の石が転がるキャンプに、10人ほどの近衛兵が所在なさげに王子の帰還を待っていた。

指揮官と思しき偉丈夫が王子を認め、大きく手を振る。

「ウオルト王子、よくぞご無事で。して首尾はいかがでしたか」

「おう、サイマーン、留守中何かあったか。私は思いがけぬ土産を持ち帰ったぞ」

そう言うと、傍らの見目麗しき少女の手を戴くように皆の前に披露するのだった。

「王子が出かけてすぐ、不審なものどもがこちらを覗いていたとの報告を受けております。すぐに姿を消してそれきりですので、偶然かとも思いましたが、念のため警戒は怠っておりません。して、傍らのその少女はどなたで」

「道々話すので、まずは帰還準備を急げ」

王子の一声でサイマーンは部隊の者たちに指示を伝え、帰還準備を急ぐのだった。


3台の馬車にキャンプのもろもろを積み込み、6名の騎士が馬に跨ると、早速王子も騎乗し、龍女の手を引き自分の前に引き寄せた。

しばらくして、皆の関心が薄れたのを見計らい、小声で語り掛ける。

「あなたのことはなんと説明したらよろしいか。本当のことを話しても信じがたいと思う。恐れる者や不審に感じるものが出るでしょう」

「そうじゃな、わしは龍の巫女の一人。赤子の時に口減らしのため山に捨てられたのを、龍の下働きのため拾われ、育てられた、ということでどうじゃ」

「それならまだ理解しやすいかと」

こそこそと二人で打ち合わせを続け、細部は龍女が決めることで話はまとまった。

「最後に、お名前をお聞かせ願いたい。なんとお呼びすれば」

「わしか、そうじゃのう、タツキとでもしておこうかの」



道を急ぎながら、夕方になり野営のための設営が終わり、夕食の準備が整うとウオルトは皆を集めて、二人で決めたこれまでの経緯を話した。

「わしの名はタツキという。多少の霊力は主たる龍より譲り受けておる。ウオルトの頼みじゃ、後のことはわしに任せるがよいぞ」

あどけない美少女の姿で膨らみかけた胸を張る。

皆は一瞬、保護欲を掻き立てられながら、半信半疑の面持ちで笑顔を向けた。

「私はこの隊を預かるサイマーンと申します。国の窮状へのご助力、感謝いたします。

「副長のクルマンです」

簡単にあいさつを交わし他の地、隊員たちからのかわるがわるの質問攻めに、滞ることなく答えているうち、「実は王子の思い人で、宮殿の老臣達の反対を抑えるための作り話では」との噂がちらほら起こる。それほどの美しさだ。

ウオルドは内心、「そのうち本当のことを知るはず。その時の皆の顔が見ものだ」とほくそ笑む。

夜も更け、隊員の一人を不寝番に立て、さすがの精鋭たちも強行軍で疲れたのか、皆が深い眠りにつく。キャンプが寝静まった真夜中、突然鬨の声が聞こえると多数の足音が響いた。

テントから皆が飛び出す。

「ウオルト様、夜襲かと思われます」

サイマーンの声を聴くまでもなく、剣を取りテントを抜け出し周囲を見回す。月明かりの中、30名ほどが襲撃してきたらしい。

「皆集まれ、固まって各々の身を守れ。死ぬのはもちろん怪我も許さん」

襲撃者たちが周りを取り囲む。

「ウオルト王子とお見受けいたす。お命頂戴」

襲撃者の首謀者らしき大男が叫ぶ。いでたちは胸当ての上にクマの毛皮を着こみ、山賊ですと言わんばかり。しかし、その剣の構え、鋭い眼光、足さばきを見れば鍛え抜かれた騎士そのものだ。

ゆらりと輪の中からタツキが抜け出す。

「タツキちゃん、危ない。下がれ」

近衛兵から慌てたような声が漏れた瞬間、突然周囲を突風が吹き荒れ、巻き上げられた小石が雨あられと襲撃者たちを襲った。

顔を覆い石礫を避けようとする襲撃者。さらに烈風が襲い膝をつき耐えるところを、風をものともしないでタツキは一人、また一人と相手の剣を奪っていく。

すべての襲撃者が丸腰になったのを確認し、タツキは風を止める。

「逃げられはせぬぞ、試してみるか」

タツキの声に戦意を失う襲撃者。タツキが襲撃者全員に触れると、そこに竜の刻印が浮かぶ。

「わしに反しようとしたらその刻印が体内で暴れまわる。痛いぞ。逆らわぬことじゃ」

旋風の魔法を目の当たりにした者たちには言葉もない。


夜明け前に、武装解除した襲撃者たちを解き放ち、首謀者のみ尋問のため連行して、一行ははやる気持ちで王都に向かう。

道すがらの村々は、遠くから眺めるだけでも生気にかけ、荒れ果てた畑や果樹園が広がる。その都度ウオルトの表情が曇る。すがるような眼がタツキを覗う。うなずき返すタツキ。


あくる日の昼過ぎに王都がその姿を現す。周囲を城壁で囲まれたイサマイン王国首都、ダラムである。

正門では守備兵がウオルトの姿を確認すると、大門を大きくあけ放ち迎い入れる。城壁を抜け正面に望む王城は、四隅に白亜の塔を配置し、武骨な城のイメージとかけ離れた宮殿と呼ぶにふさわしい造り。外壁が破られたら住民に被害が及ぶ。堅固な城を作って籠ったとしても国民には迷惑なだけ。歴代の王はそう考えた。そして今の姿に。



3.慈雨招福


城下の街並みも生気に乏しく、活力なく沈み込んでいた。普段ならあふれる、子供たちの声、物売りの声さえない。


王城に飛び込み、馬の世話をまかせ、玉座の間に向かう。途中、家令のサナルがちらりとタツキに目をやり、付き従いながら、状況の説明を始める。

「王城に貴族の方々はいらっしゃいません。食料の乏しい王都を見限り、領地に帰られました」

淡々とした口調に、いくばくかの悔しさがにじむ。

「しばしの辛抱だ。このタツキ殿が状況を好転させてくれる」

自信に満ちたウオルトの言葉に、わずかに表情を緩める。


見事な彫刻が施された大扉を衛兵が左右から大きくあけ放つ。いつものように貴族であふれていると思い、意識して堂々と進むが、王の間にいたのはわずかの腹心たる貴族のみ。

疲れ切った表情の王の前に進み出て跪き、かいつまんで状況説明を行う。最後にタツキをローラン・リカルド王に紹介する。

「リカルドよ、わしが来たからには安心せい。王子の望みじゃ、雨を、慈雨をふらせて進ぜよう」

小娘が大きな口をたたく、と貴族たちが嘲笑する。それをちらりとにらみ、

「高いところが良いのう、案内せい」


北の棟の最も高い場所で周囲を見渡すタツキ。見渡す限りの平野にはひび割れた農地や茶色く枯れた畑が広がる。

右手を高く差し上げるタツキ。瞬く間に空に雲が広がる。明るい空が暗転したかと感じた瞬間、大粒の雨が広い大地いっぱいに降り注ぐ。

ひび割れた大地に雨が染み込むと、見る間に緑の草や木が芽吹く。畑では種を植えてもいないのに、拾い忘れた種が幾十倍にもなって芽吹き始める。居合わす皆が唖然として見守る中、芋が、豆が、麦が、野菜が実をつける。龍の魔法は水の成分さえ変えるのだった。


突然の雨音に何事かと飛び出す住民たち。雨に濡れてうれしそうに空を見上げる。雨は半時間ほど続き、突然やむと青空が広がる。しかし、地面は全く変わった様相を呈していた。

道にぬかるみはなく、花壇の枯れた花は咲き誇り、干上がった川は清流となり魚が泳ぐ。

まるであの悲惨な干ばつなどなかったように町は潤いに満ちていた。


先ほどまでの絶望に満ちた状況から一転、王宮の皆はしばし唖然としながらタツキを注視する。本当にこの少女が、皆の思いを代表するかのように

「本当に感謝するが、あなたは何者だ。それほどの力を持つものなら、この王国をわが物にするのさえ簡単にできよう」

リカルド王は懐疑的な表情を浮かべながらささやくように言う。

「ご懸念には及びません。国の運営などという面倒ごとを間違っても引き受けてはくれないでしょう。必要な時に手助けする関係が居心地よい様ですから」

「ウオルト王子がそうまで言うなら信じよう」

そう言いながらリカルド王は、傍らに控える内務大臣ルイベルトと王国守護騎士団団長マルティネスにそっと目配せする。それを受け二人は、本心を確認するまでは警戒を続けようと頷き返すのだった。


ウオルトに案内されて、国賓用の客室に案内されたタツキは、一人になると部屋を確認する。入ってすぐの間が40畳はあるかという応接間、中央のテーブルは重厚で向かい合わせに椅子が計16脚。ほかの家具も美術品といえる逸品だ。

右手に主寝室。クローゼットを覗くと早くも少女用の着替えが用意されている。その隣に予備の寝室。どちらも天蓋付きの広くふかふかベッドが眠気を誘う。

反対側には水回り。タツキは広い湯舟を見つけると服を脱ぎ散らかして音を立てて飛び込む。

「山に沸く温泉につかることはあったが、人の風呂というのも格別じゃな。最も、わしは汚れぬから必要はないが、心地よい香りが漂って、よいものじゃな」

すっかり堪能したタツキが風呂を出る。若い肌は水をはじき、緑色の髪は水滴にきらめく。そこには3人の宮廷付き侍女が待ち構えていた。見た目、タツキよりわずかに年上か。

「タツキ様のお世話を仰せつかりました、私がマヒロ、こちらがガクマとルイシンと申します。お着替えのお手伝いを」

言われて、服装などは魔法でイメージ通りになんとでもなるのじゃがな、と思いつつ、せっかくなので宮廷が用意した服を見てみた。フリルのお化けかというほどひらひらで、しかもピンクのワンピース。少女趣味の極致に唖然とする。

「よい、自分で着るから下がっておれ」

クローゼットに向かい魔法で呼び出した服を取り出し、自分で着る。機能性重視のモスグリーンの上下に編み込みブーツ。髪の色と相まって美しさが際立つ。

「せっかくお可愛いのですから、着飾ってください。私たちの立場もありますから」

3人に懇願されたが、断固拒否の態度を崩さず、押し切る。

マヒロ達3人に髪を任せゆったりとくつろいでいると、ノックの後、執事長が顔を出す。

「歓迎の宴の用意が整いました。よろしければご同行をお願いします」

王国の食糧事情を知るタツキが、無理をしたのでなければよいが、と思いながら宴会場へ向かった。



中規模ながら贅沢な造りの宴会場は、いたるところに燭台が立てられ、こうこうと輝いていた。王都に残った貴族たちが興味深げにタツキを見つめる。

「すまぬな、このような状況なのでろくなもてなしができず心苦しくあるが、精いっぱいの心尽くしだ。楽しんでくれ」

王の言葉で宴会が始まる。料理は素材は


それから2週間、タツキは政治・経済・農業・外交などの資料に目を通し、現状把握に努めた。

国中に散っていた貴族たちが、続々と王都に集まってくる。途中、荒れ果てた王家直轄領の大地が、緑に覆われていることに多くの人々が驚愕するのだった。



執筆途中につき、時間はかかるかと思いますが、取り敢え書き留めた分はアップしていきます。

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