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浅雪姐さんの回収後で

 彼等はわたし達の行く手を阻む様にして、ニタニタと下卑た笑いを浮かべながらこちらを見ている。

 その様子はどう見ても好意的には見えず、明らかにわたし達に対して悪意を持っている様子だった。


 ……だって、長い棒とか武器を持ってる方もいますし……


 よく見ればお刀をチラつかせている浪人さんも混じっている。

 

 ……コレは……陰陽師が式神ではなくって、直接人を使った攻撃に切り替えてきたってことなのかしら?……


 そう思ったのは鶴吉姐さんもご一緒らしく、あの大鎌の包みを外そうとして、今にも駆け出さんばかりに嬉々としていらっしゃるのをおタエさんが嗜めていらっしゃった。


 ……鶴吉姐さんは相変わらずですね……


 どうするのかな?って見ていたらおタエさんが彼等の前に出て行って、


「アンタら、アタシらに何の用だい?」


 いつものヒヤッとする優しい口調で言い放ち睨みつる。


 すると彼等はあざける様に笑いながら、「ここを通りたかったらスジを通して金ェ置いてきな!」と言い出した。


 あら?陰陽師関係でなく、もしかしてただの追い剥ぎさんでしたか?


 それなら逆に面倒なことにならないで済みそうですねとホッとしていたら、それを聞いたおタエさんの顔色が曇っていき、


「……成る程そうかい……アンタら非人だね……」


 眉を顰めるお仙さんの問い掛けには返答をせずに、代わりにニヤニヤと笑っている。


 え⁉︎どういうことかしら?まさかお知り合い?って驚いていたら、肩に乗るノアさんがそっと教えてくれた。

 彼等非人さんには吉原内のゴミ拾いとか色々なお仕事があるけども、その内の一つに処刑場や無縁仏のご遺体の埋葬があるそうで、どうやらその仲間内から今日、わたし達がここに来ることを聞いていて、これ幸いにってやって来たのだろうと。


 ……そりゃぁこんな所に若い女がぞろぞろと来るって聞けばいい鴨ですよね……話しはつけてあると言っても、こういう輩はどこにでも居ますし……


 因みにお刀を差している者は浪人さんでも、大道芸なんかをやっている乞胸ごうむねという、やっぱり同じ非人さんらしい。


 ……そう言えば吉原のすぐ側に非人溜りがありますよね……ふぅ……ホントここは因果な土地ですね……


 わたしがノアさんのお話しを聞いている間にも、彼らはお仙さんに対して、


「その女の着てるモンはオレらのモンだってわかってんだろ?」

「ちゃんと出す物だしゃぁ痛い目見なくてすむぞ!」


 などとオラついていた。


 聞けば彼等には、ご遺体を埋葬する際にそのご遺体が着ている服とか装飾品とかを自由に出来る権利を持っているらしく……


「そいつが欲しいんなら着物代に色付けて置いてきな!」


 武器をチラつかせながら息巻いている。

 

 要は完全に言い掛かりのタカリですよね?

 ホントにただお着物代だけを請求するのでしたらそんな大人数で来る必要はありませんし……

 よく見ればニ、三十人はいるのかしら?暇な人が多いのですね。

 

 ……フフフ……でも、女ばかりだからって舐めてますけど……

 

 彼等も運が悪いですよね。

 今ここにいる者達がそんじょそこらのか弱い女だと思ったら大違いですよ!


 サァ!鶴吉姐さん!あんな輩共やっちゃって下さい!


 出番ですよ!とハルは鶴吉達に振り向くが……


 ……あれ?さっきとは打って変わって微妙なお顔になっていらっしゃいますね?


 ハルが、え?ナゼ?と目を見張っていると鶴吉が、


「陰陽師の奴らじゃないなら、アタシは良しとくよ」


 別に誰彼構わず切りたい訳じゃ無いよ。ですって。一番に暴れそうなのに意外です!


 ならおタエさん!あの使い魔達で蹴散らして下さい!と視線を変えるも、


「ここで非人頭と下手に遺憾を残すのもねェ……」


 どうも、彼らの頭、非人頭さんとはお仕事で繋がりが有るらしくって、おタエさんは困り顔になっていらっしゃる。手広くお仕事をされているんですね……

 それに、


「使い魔出す紙もタダじゃないんだよ?春蔵が払うかい?」


 え?え?そんな!な、ならお仙さんは!と視線を向けると、逆にジッと見返されてしまい、


「ハル坊。この件はアンタの件だよ。どう対処するのかしっかり見といてやるからね」


 陰陽師が絡んでいた時は因縁があったので姐さん方が率先して前に出てくれましたけど、このタカリ共はあくまでわたしが招いた結果なのだとおっしゃる。


 ……そりゃ、わたしが浅雪姐さんをお助けしたいと言いましたけども……


 わたしが言い出したことなので、自分のことは自分でちゃんと責任をとりなって、冷え冷えとする笑みで言われてしまった。


 ───そ、そんなこと言われましても!


 どう考えてもあんな厳つい男共、わたしがどうこうできる訳無いじゃ無いですか!


 ハルは予想外の事に顔面蒼白となり、


「た、辰之進さま!助けて下さい!」

 

 辰之進に駆け寄ろうとしたが、


「……出来る限りは頑張りますが……申し訳ない……今のわたしでは精々数人しか相手に出来無いかもしれません……」


 疲労感漂う顔に驚いて足を止め、いつもとは違う弱気な発言に頭を抱えてしまった。

 連戦続きだった辰之進は既にボロボロで、今や立って刀を構えるのも辛そうに見える。


 ───ど、どうしましょう!


 ここで素直にお金をお渡ししたらすんなり通してくれるのかしら?……いえ、どう見てもそんな雰囲気じゃありませんよね……身包みを剥がされてしまって、命もあるかどうか……


 以前、本所で追い剥ぎに会い簀巻きにされたことを思い出して身震いがした。


 ましてや、ここで浅雪姐さんをぽっぽり出して逃げ出すのは論外ですし……ならこの場をどうにか乗り切るには……


 ハルは着物の袖に仕舞っている三味線バチをそっと握りしめる。


 ……おハナ師匠に蹴散らしてもらうのはどうかしら?……いいえダメよね。人が相手では意味がありませんもの……それにそもそも、もう力が残っていないのよね……


 今日は既に何回もハナに力を込めていたハルの疲労は限界に近く、正直歩くのもやっとな程だった。


 仙は困惑しているハルの様子を黙って見続けていたが、どんな答えを出すのかとその目は少しだけ楽しそうでもあった。


 暫く考え込んだ後、ハルはパッと顔を上げると手に持つ風呂敷をギュッと抱きしめると、仙達と輩共を交互に見回す。


「わかりました。これは自分で蒔いた種です!」


 わたしがちゃんと刈り取ります!と声高々にそう宣言するとその場にしゃがみこみ、風呂敷包みを解き始めた。


 

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