新たな敵 その3
……辰之進さまもお空を飛べたら良いのに……
姐さん方が助けてくれないのでしたら、何とか辰之進さまご自身に頑張ってもらうしかないですよね。
それならせめて鶴吉姐さんみたくお空を飛べれば、あんな小天狗達になんか負けるはずないと思う。
ハルはチラリと肩に乗るノアを見るが、
……さすがにノアさんでは無理ですけど……
でも大丈夫!わたしにはおハナ師匠がいますから!
そう。おハナ師匠なら大きくもなれるし、お空も飛べる!
象さんなので、ちょっと足が遅いのが玉に瑕ですけれども……
それにそのままでは辰之進さまはおハナ師匠に乗れませんけど、わたしが一緒に乗って辰之進さまにしがみついていれば大丈夫じゃないかしら?そのままマントの後ろに隠れていれば嘴男の炎もへっちゃらですし!
コレは良い案ですよね!早速やりましょう!って、袂から三味線バチを出して力を込めようとしたのだけどその様子をお仙さんに見られ、
「何だい?おハナを使ってお辰の加勢する気かね?」
姐さん方はまだ手を出さないけど、わたしがやる分には勉強にもなるから構わないよって、ニッコリ笑って許可を貰ったので、コレからわたしがしようとすることを良い案でしょ!と、大威張りでお伝えしていたら段々とお顔が変わってきてしまい……
「バカな事を言ってるんじゃないよ!」
怒られてしまった。
「アイツらの一番の目標はおハルなんだよ!それがノコノコ出てって良い訳無いじゃないか!」
大人しくこの陣の中に居なさい!って、おタエさんにまで叱られてしまって、抱き抱えられている手が逃がさんばかりにガッチリ掴まれてしまった。
……うぅ……残念です……せっかく辰之進さまのお力になれると思ったのに……
ハルがバチを持ったまましょげていたら、その様子を見た仙はため息を吐いた。
「ホントにこの子は考え無しだね……別におハナを使う分には構わないんだから、その場所にいて上手い事やれる事を考えな」
ですって。何だかんだ言ってもやっぱりお仙さんはお優しいですよね。
……そうですか……ここからおハナ師匠を使ってわたしが出来ることか……
手に持つバチをじっと見て、現状でおハナ師匠に何が出来るかを考えてみた。
お空を飛んだり身体を大きくすることは出来ますね。でも別に攻撃が得意って訳でも無いですし、動きもゆっくりなんですよね……
改めて考えてみると、おハナ師匠は闘うことには向いてないのがよく分かった。
攻撃が得意では無くっても大きくはなれるので、地面を歩いている鬼ならば時間が掛かかっても踏み潰すことが出来た。
でも今回の敵は空にいる。のんびりと飛んでいたら、俊敏に飛び回っている小天狗達には追いつけ無さそうですし、逆に良い的になってしまうだけかも……ならいっそのことおハナ師匠には囮になって頂く?でもそんな可哀想なことさせる訳にはいきませんし……
暫く考えていたけど結局良い案は浮かばなかったので、取り敢えずやれることをやってみることにした。
ようは辰之進さまのお力になれれば良いのですからね!
早速やって見よう!って思ったけど、一応やる前に姐さん方とノアさんに相談しておいた。後で怒られると怖いですからね。
わたしの案をお伝えしたら微妙なお顔で、「まぁやりたきゃやってみな……」危ないことではなさそうだから好きにしなって。
取り敢えずは許可を頂けたので、早速バチを握りしめて力を込めた。
「おハナ師匠!一つ宜しくお願いしますね!」
今回はいつもと違っておハナ師匠にはまず小さくなって頂く必要がある。
お姿を変えるのには小さくなって頂くにも大きくなって頂くのと同じ様に結構な力を込める必要があるみたいで、頑張って力を込めてなるべく小さくしてみる。
結果、指の先程の大きさまで小さくなった。
「よし!コレなら見つかりませんよね!」
小さくなったハナは辰之進達が戦っている場所までゆっくりと飛んで行く。
豆粒程に小さなハナは、誰にも気付かれずに小天狗達がいる場所の上までたどり着いた。
取り敢えずあの辺かな?さすがに小さ過ぎて姿が見えないので当てずっぽうですがまぁ大丈夫でしょう!
姐さん方には、「相変わらず雑だねぇ」って笑われてますが。
深呼吸をして力を込める準備をする。
さて、ここから大きくするのだけど、今回はいつもとはちょっと違って、敵に気付かれない内にいきなり大きくする必要がある。
出来る限り力を込めて、バチに一気に力を込める。
「行けー!」
すると、小天狗の上空にいた豆粒程のハナがグングンと大きくなり、あっという間に堤からはみ出さんばかりの大きさになった。
突如現れた巨大な象に驚き、その場にいた者達はみな一様に一瞬動きが止まる。
あら?ちょっと位置がズレちゃったかしら?
ハルの予想通りの大きさになったハナであったが、よく見れば小天狗達達の上空には違い無いが更にその上、嘴男の上で大きくなっていた。
……もうちょっと下の方を予定していたのですけどね……
それでもまぁいいか。と気を取り直すと、
「さぁ!おハナ師匠!そのまま踏み潰して下さい!」
ハルが掛け声を掛けると、「パオーン!」と大きく一鳴きして、ハナは足を広げながら落下した。
突然上空に現れた巨大な質量に、下に居た者達はなすすべもなく押し潰されて地面に落ちていく。
鶴吉は、「ちっ!おハルめ、余計な事を!」悪態を吐きつつも、いきなり落ちてくるハナから既の所で何とか逃れられた。
辰之進はハルの叫ぶ声で事情を察し、慌てて下がるとハナと共に落ちてくる小天狗達を待ち構え、地面に打ち付けられた小天狗達をすかさず斬り捨てた。
「やった!やりましたよ!」
さすが辰之進さま!と、その様子を見てハルは手を叩いて喜んでいたが、仙とタエは顔を顰めていた。
「……やっちまったね……」
「……トドメを刺しちまったよ……」
え?何か不味いことが有りましたか?
無事、辰之進さまは小天狗達を討ち取り、おハナ師匠もいつもの大きさになって戻って来たけど、どこも怪我をしている様子は無い。
ハルが不思議そうな顔をしていたら、「ほら」と仙が指を指す先では、嘴男の姿が紙に変わるところだった。
「あら、嘴男も一緒に倒しちゃっんですね」
どうも散々姐さんに痛めつけられ、おハナ師匠のプレスがトドメになつたみたいですね。
ハルは、「おハナ師匠、凄いじゃないですか!」と無邪気に喜んでハナを褒めていたが仙は、
「せっかくアイツを送りつけてやろうとしたのにね」
残念そうにため息を吐く。
……あら、そう言えばそんなことおっしゃってましたね……
今後、二度とちょっかいをかけてこない様に陰陽師達に此方の力を十分に見せつけたら、後はアイツ等から送られてきた式神を送り返して嫌がらせをする予定だったのを思い出した。
「アレがそこそこ強いから丁度良かったのにね……」
とても残念そうなお顔に、お仙さんのお楽しみを奪ってしまったみたいだ。
……ごめんなさい……
ハルがしょげていると丁度そこに、「折角良い所だったのに邪魔するんじゃないよ!」と怒りながら黒ヤギに乗った鶴吉が戻って来たが、意気消沈としているハルを見て、「何があったんだい?」と近づいていく。
ハルから事のあらましを聞くと、「……まぁ済んじまった事は仕方ないからね……」ばつが悪そうな顔になった。
……あら、これは姐さんも倒すことに夢中になってて、返すことすっかり忘れていましたね……
そんな二人の様子を見た仙は諦め顔で、
「まぁもういいから……じゃぁ本来の目的地に行くかね」
仙は気を取り直し、「ほら、ハル坊も何時までもしょげてないでさっさと行くよ」とその場を立とうとした。
そうですよね。浅雪姐さんの回収が今回一番の目的ですし。さぁ行きましょう!とハルも気持ちを切り替え、顔を上げたのだが……
あれ?でもまだ結界の中ですよ?どうするんですか?
周りを見るとまだモヤっとした霧みたいな結界があった。
「そうだね……もう式神は送って来ないと思うから解かれていてもいい筈なんだがね……」
お仙さんも訝しがっている。
本来は外と隔離して他に影響を及ぼさない為に張られていた結界なので、新たな式神が来ない今はもう必要が無いはずだから無くなっているはずなのにおかしいねぇとおっしゃる。
「でもまぁ……」
仙は手に持つ短い棒を構えると、
「こんな結界、壊しちまうのは造作もないがね」
何やら不思議な言葉を唱え始める。
すると、空に黒い雲が現れ、昼間なのに辺りが暗くなり、稲光も見えだした。
「お、お仙さん!結界を破るのって大変なんですね!」
突然の雷の音に驚き、耳を塞ぎながら慌てるハルであったが、
「……いや……あたしはまだやってないよ……」
仙も同じく驚きの表情になった。
「あ、あれは!」
その叫び声は誰が発したものなのか、若しくはそこに居た者全てが一様に叫んだのかは分からなかったが、ただ、稲光と共に雲の間から覗く龍の姿に、そこに居る者一同は新たな敵の出現であるとの事を認識をした。




