新たな敵 その2
いきなりのことに、「燃えちゃう!眩しい!目が痛いです!」って暴れてしまったけど、
「おハルちゃん!大丈夫だよ!」
辰之進さまがしっかり抱いて押さえてくれました。
……そう言えば熱くは無いですね?眩しかったですけど……
まだチカチカする目を擦りながら顔を上げようとしたのだけど、
「ほら!また来るよ!」
肩に乗るノアさんの声に、慌てて辰之進さまの胸に顔を埋める。
もう!一体何が起きてるんですか!
しがみついたまま震えていたら辰之進さまがわたしのことをぎゅっと握り締めてくれて、
「……どうやら……鶴吉殿の相手をしている者が火を放っている様です……」
怯えるわたしと違って、しっかりとその様子を見ていたらしく、辰之進さまは震えながらも詳しく説明してくれました。
姐さんと戦っていた嘴男が突然距離をとると口を開き、ここら一面を覆ってしまうような金色の炎を吐いてきたのだそうだ。
その炎の勢いはとても凄くって、まるで押し寄せる波の様だったとおっしゃる。
因みに小天狗達にはその炎の影響はなかったみたいで健在ですけれど、その周りにいた鳥さん達はみんな燃えて消えちゃったんですって。
よく見ればわたしの周りの地面も、その炎のためか燻っていた。
……この紙の上に乗っていたお陰で大丈夫だったのかしら?……
自分と辰之進さまが無事なのにホッとすると、次に姐さん方のことも気になった。ご無事かしら?
お姿を探すと、お仙さんもおタエさんもご無事な様子で平然と目の前で構えておられ、上を見ると鶴吉姐さんは相変わらず黒ヤギさんに乗ったまま、嘴男に果敢に攻めていらっしゃいました。
……姐さん方達は心配するだけ無駄な様ですね……
みんなの無事な姿を確認するとちょっと落ち着いてきたので、改めて辰之進さまのご様子を見たのですけれども……
始め、辰之進さまから感じていた震えはわたしと同じ様に怯えていらっしゃるのかな?って思っていましたけども、どうやらそのお顔を見た限りでは恐怖と言うよりも、強敵に対して気が昂って震えていらっしゃったみたい。
……辰之進さまも姐さん方に負けず劣らず闘うのがお好きな様ですね。でもそんな見かけによらない所も素敵ですよ!
そんな高ぶっている辰之進さまのご様子をおタエさんもご覧になったらしく、
「何だい。まだやる気があるのかい?なら……」
と、自分のマントを脱いで辰之進さまに渡し、
「コレを着とけばあの火も大丈夫だから行っといで!」
「はい!」
辰之進さまはとても良いお返事をなさると、わたしのことをポイッと放り出し、そのマントを受け取って前線に向かって駆け出して行ってしまった。
……あぁ……辰之進さまが行ってしまわれる……
つまんないなってまた紙の上に戻ろうとしたら、おタエさんがわたしのことを掴むとそのまま抱え、一緒にお乗りになった。
「流石にアタシも生身であの火を受けたくないからねェ」
ですって。
おタエさんのお話しによると、あの嘴男が放つ炎は不浄なモノを焼き清める厄介なモノらしいのですけど、
「アタシらのマントや、この陣にいる限りは安全だよ」
ただ、この炎から守ってくれる紙は一枚しか持ってきてないのでわたしと一緒するらしい。
こんな便利な物があるのでしたら先に出しといてくださいよ!
それならさっき怖い思いしなくて済んだのにって思ったのですけど、お刀とかは通しちゃうらしく物理的な攻撃にはダメっぽい。
何でもは無理なのですね。
それなら仕方有りません。今も辰之進さまと違っておタエさんに抱かれているのはちょっと居心地が悪いのですけど、それも仕方がないですね。
諦めてそのまま大人しくお二人の戦いを眺めることにした。
嘴男がいくら凄い炎を放っても、マントを着ているから鶴吉姐さんと辰之進さまは大丈夫ですねって安心して見ていたのですけど……
あら?姐さんは相変わらず嬉々として攻撃を仕掛けていらっしゃいますけど、辰之進さまのご様子が……
先程とは打って変わって劣勢でいらっしゃる。
え⁉︎何故?ってよく見てみれば、時折手裏剣は投げるもののそれは牽制にしかなっておらず、ほとんどお刀だけで懸命に戦っていらっしゃって、空からの攻撃に悪戦苦闘していらっしゃる。
なんでお刀だけ?さっき使ってらした鎖はどうされたの?ってよく見てみれば、辰之進さまの足元に落ちていた。
なんで使わないんだろう?と不思議に思っていたらお仙さんが、
「やっぱり即席のモンは駄目だねぇ……」
難しいお顔で辰之進さまを見ながら呟く。
即席?なんのことでしょ?って疑問に思っていたら肩に乗るノアさんが、
「昨日あの子に渡した武器はね、アイツ等に利く様にアンタの髪の毛を入れてあるんだよ!」
え?わたしの髪の毛?何故?何時の間に!
慌ててお仙さんにどういうことですか!って聞いたら、昨晩わたしがみんなの前で寝落ちしている時に勝手に抜かれていたらしく、「抜くからねって言ったけど、全く起きなかったじゃないか」って済ましたお顔で鼻で笑われた。
いやいや。確かに全く気付きませんでしたけど、起きなかったからって乙女の髪を勝手に抜かないで下さい!
わたしの血をお刀に塗って式神と斬り合えたのだから髪でも一緒だろうってことで、丁度良いからって毟られたらしく、辰之進さまにお渡しした手裏剣とか鎖とかの武器にはわたしの髪の毛を入れ込んであるんだって。
「お辰に使われるなら本望だろ?それにちゃんと使えるか少し不安だったけどね。利いてたみたいで良かったよ。でもね……」
そりゃ辰之進さまがお使いになるのでしたらいくらでも差し上げますけど、そういったことは事前に言って下さいね!
鎖に使っていたわたしの髪の毛はあの嘴男が吐く炎で燃やされてしまったようで、今やただの普通の鎖になっていて小天狗達いは利かなくなってしまっているみたい。でも……
「一応、まど使えそうなのを渡してあるんだけどね」
ですって。
良かった!他にもまだ武器があるなら大丈夫でしょう!とホッと胸を撫で下ろし辰之進さまの戦うお姿を見ていたら、今度は懐から鉄の鉤手が付いている紐を取り出した。
ソレを投げつけると小天狗の体に絡み付け、そのまま引き寄せようとしたから、「よし!」って思ったのですれども……
鶴吉姐さんと戦っている最中の嘴男が炎を吐くと、辰之進さま達がらいらっしゃる所まで炎が届いてその紐はすぐに燃えて切れてしまった。
「……やっぱり駄目だね……」
それを一緒に見ていたお仙さんとおタエさんは、「こりゃ無理かね」って二人して笑っていらっしゃる。
いや、そんな簡単に諦めないで下さいよ!何で笑ってられるんですか!他にもっと武器は無いんですか?無いなら助けに行って下さいよ!このままじゃ辰之進さまがやられちゃいます!
ハルはタエに抱かれたまま懸命に叫ぶも、
「まぁ、ホントに危なくなったら助けてやらない事も無いがね」
まだ様子見だろ?って相手にしてくれない。
そんな……
ハルは何も出来ず、ただ目の前で小天狗達に蹂躙されていく辰之進を見ている事しか出来ないでいた。




