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新たな敵 その1

 そのお姿には見覚えが無かったのですけれども、その圧倒的な存在感は良く知っているモノでした。


 少なくとも先程まで出て来た式神なんかとは全く違う、高位な存在であることはすぐに分かった。

 背筋に冷たい物が走る。


 光が収まってくると、そのお姿がはっきりと見えてきた。

 ソレは古めかしい鎧に身を包み、手には錫杖の様な物を持っている。険しいお顔に、お口は鳥さんのくちばしみたいに尖がっていた。


 わたしはよく知らなかったけど、それを見た辰之進さまは、「……カルラテン……」とか、姐さん方は、「……あれはガルダかね……」とかおっしゃっていました。


 わたしには神々しくっても、大きな天狗の親分さん?くらいにしか見えませんでしたけどね。

 だって、その側にはその嘴男よりもニ回りほど小さい二体の天狗が浮いていますし……

 

 辰之神さまは暫くソレに見入っていらっしゃいましたけど、ハッと気づくとお刀を持ち直して警戒なさった。


 そんな辰之神さまのご様子を見ても、これは何かとんでも無く危ないモノが現れてしまったのでは……と、焦って姐さん方の方を見ると、


「あれが奴さん達の奥の手かね?……まだ次もあると思うかい?」

「……そうだねェ八部衆か……後から七体出てくるかねェ……」

「……出てこないだろ?流石に打ち止めじゃないかね……」


 その嘴男を見ながらお仙さんとおタエさんは何やら話し込んでいた。

 いきなり現れたあの存在に驚いていると言うよりも、落ち着いて品定めをしているって感じだった。

 

 え!?この状況で何のんびりとお話ししてるんですか?明らかに不味いのが来ちゃいましたよ!


 お二人の緊張感の無さに、何でそんなに余裕なのかしら?って驚いて見ていたら、その隣で鶴吉姐さんが何やらゴソゴソしているのが目に入ってきた。

 

 姐さんはお仙さんがさっき使っていたのと同じ、変なモノが書いてある紙を懐から取り出すと、同じ様に何やら唱え始める。

 すると、その紙から出て来たのは鳥さんではなく、真っ黒い大きなヤギさんが一匹現れた。


 姐さんはわたしの視線に気付くと、


「どうだい。これがアタシの使い魔だよ」


 カッコいいだろ?って得意げにニッコリ笑うと、颯爽とその黒ヤギに跨り、


「やっと歯応えがありそうなのが出てきたね!行ってくるよ!」


 その姐さんのお声に、おタエさんとお話し中だったお仙さんが気付いて……


「あッ!鶴吉、ちょっとお待ち!」


 慌てて止めようとしたのだけど、


「心配しなさんな!あんなやつ一人で大丈夫だよ!」

「違うよ!誰もお前の事なんか心配してないよ!」


 止める間も無く、姐さんは大鎌を構えて空に浮かんでいる嘴男に向かって飛んでいってしまった。




 いきなり飛び出し、嬉々として嘴男と切り結んでいる鶴吉姐さんの姿を見ながら、


「ったく……あの子は相変わらず血の気が多いね……」

「アレを始末しちまったら返せないじゃないか……」


 二人の姐さん方は呆れてたり怒っていたり。

 

 今、前線では活気盛んな姐さんが奮闘中ですけれども、対して後ろに控える二人の姐さん方は、とても戦いの最中にいらっしゃる様には見えないほど悠然とした態度で佇んでいらっしゃる。

 その余りにも違う温度差に、わたしは戸惑ってしまっていた。




 いきなり姐さんが飛び出してきたので向こうも驚いたのでしょうか?嘴男もその攻撃を錫杖で捌くのに必死なご様子でした。

 黒ヤギさんに乗って高笑いしながら大鎌を振う姐さんのお姿は味方ながらも恐ろしく見えて、心底お仲間で良かったと思った次第です。


 ……あんなのを相手にする嘴男に、敵ながらちょっと同情しちゃいますね……


 このままいけば姐さんの方は時間の問題ですねっと視線を外し、さて辰之進さまは大丈夫かしら?と探してみたら……

 姐さんが戦っているその下の方で、二体の小天狗と戦っている真っ最中だった。


 始め、飛んでいる敵に対して辰之進さまはどう対処なさるんだろう?って思ったのですけど、どこから出したのか片手には分銅の付いた鎖をお待ちになっていて、それを振るって相手にぶつけたり、絡めて自分の所まで引き寄せるとお刀で斬りつけたりしていらっしゃる。


 あら、あんなことも出来るんですね。辰之進さまってば器用ですね!


 わたしが感心して見ていたら隣にいる二人の姐さん方が、


「鶴吉は別にいいけど、お辰の方がちと不味いねェ……」

「そうだね。今の内にこっちに呼んどくかね」


 二人して辰之進さまの心配をしていらっしゃる。


 ……わたしが見ている限りでは、あの小天狗達に二体一でも善戦している様に見えますけど何が不味いんでしょう?


 そう思っていたら、おタエさんはまたいつもの紙を今度は二枚取り出すと、一枚は、「暫くこの上に乗ってな」と地面に置いてわたしをその上に乗せた。

 もう一枚はさっきと同じ様に何やら唱えて沢山の黒い鳥さん達を呼び出す。


「あの天狗共を足止めしな!」


 おタエさんが叫ぶと沢山の鳥さん達が飛んで行き、小天狗達はあっという間に鳥まみれになって身動きが取れなくなってしまった。


 その様子に呆気に取られていた辰之進さまに向かっておタエさんが、


「お辰!今の内にちょっとこっちへ来な!」


 辰之進さまはせっかくいい所なのに……ってお顔でしたけど、


「どうしたのですか?」


 すぐに息を切らせなが戻っていらした。

 

 あら、わたしはまだまだやれます!ってお顔ですね。


「あんまり時間が無いんだ。すぐさま春蔵を抱えてその紙の上に乗ってな」


 戦いの最中に水を差されていきなり来いと言われ、更にわたしを抱っこして紙の上に乗れなんて……何が何だかさっぱり訳がわかりませんってお顔になってしまった辰之進さまでしたけど、おタエさんの言うことに意を唱えられる訳もなく、


「……では、失礼しますね……」


 大人しく武器を仕舞い、狐につままれた様なお顔のままわたしを抱き上げると素直に紙の上に乗った。


 ……こんな時ですけど……いえ、こんな時だからかでしょうか?胸の高鳴りが凄いことになってます!

 ……あぁ……不思議がっていらっしゃっても、やっぱり辰之進さまのお顔は素敵ですね……


 などと悦に浸って喜んでいたら、


「ほら!来るよ!」


 そのお声にハッとして姐さん方を見ると、お二人がフードをまぶかに被り、マントをギュッと握り締めている姿が見えた。


 え?何が来るんですか?


 突如、辺り一面に金色の炎が広がった。


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