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決戦の場へ

 その日の夕方、堀さまのお使いだという小僧さんがお手紙を持ってやって来た。


 お駄賃を渡してそれを受け取とって、姐さんにお渡しする。


「どうやら、つつがなく事は運んでいる様だよ」


 お手紙によると、件のお医者さんはちゃんと捕縛されて、浅雪姐さんのご遺体は用済みとなり、無事無縁仏として葬られた旨が書いてあった。


 お仕事が早いですねってホッと胸を撫で下ろし、早速他の姐さん方へ知らせに行こうとしたら、


「わざわざ行かなくていいよ」


 姐さんが縁側に居るお仙さんの使い魔のカラスさんを呼ぶと、


「コレをお仙とおタエんとこ持ってお行き」


 カラスさんは器用に足でお手紙を掴むと飛び立って行った。


 なんとも便利なものですね。


 関心して見ていたら、「使い魔は本来こうやって使うのさ」ですって。




 暗くなってから辰之進さまが戻られたので、お手紙の件をお伝えしてお仙さんからお預かりしたお荷物をお渡しすると、


「そうですか……では明日、決戦ですね……この刀にコレさえ有れば……」


 ……辰之進さま、目が血走っていらっしゃいますよ……ちょっと怖いです……


 少しですけど引いてしまいました。




「朝早くに二人が迎えに来るから、さっさと寝ちまいな」


 その日は夕飯を終えると早々に床に着いた。


 辰之進さまは一人、茶の間でお休みになるそうです……ちぇッ……




 今朝は六ツの鐘が鳴る前には目が覚めた。


 フフフ……辰之進さまを起こして差し上げましょう!


 いそいそと階段を降りて茶の間に入ったら、既に起きていらした。

 お着替えも済ましていらっしゃって、神妙な面持ちでお刀を前に置き、黙祷していらっしゃる。


 わたしが声を掛ける前に此方に気付いたらしく、


「おはよう。おハルちゃん。今日は良い天気になりそうだよ」


 先に挨拶されてしまった。


 どうやら準備は万端な様だ。

 ピリピリとした緊張感がこちらへも伝わってくる。

 そのご様子にちゃんとお休みになられたのかと心配でしたけど、気力はみなぎっているみたい。




 三人で朝ご飯のお膳を囲む。

 お二人はこの後に体を動かすからって簡単に湯漬けで済ましてらしたけど、わたしは体力が持たないと困るからしっかりと食べて、お仙さんとおタエさんが来るのを待った。




「ごめんなすって」


 程なくして戸を開けて現れたのは、お仙さんのお店の船頭さん、亀吉さんだった。


 どうやら今日は船で行くらしい。


「帰りに浅雪を積んでかなきゃならないし、下手に近所で襲われるのも嫌だからね」


 常に流れている水がある場所には結界は張れないらしく、その為に向こうにも気付かれにくいから川の上は安全だそうだ。


「どうせ向こうに着いたらすぐに気付かれるんだから、それまではのんびり行くさ」


 それに持ってく荷物もあるしねって。


 姐さんは風呂敷の包みと、自室からわたしの身体よりも大きな包みを持ってきて、それを亀吉さんに渡した。

 かなり重いのか、渡された亀吉さんはヨタヨタしてしまっている。

 その大きな包みは姐さんの得物らしく、「コイツを引っ張り出すのも久々だよ」って、冷え冷えとした笑顔で笑っていらっしゃった。


 船着場まで行くと、今日は見慣れた小さな猪牙舟ではなくって、大きな屋形船だった。

 船頭さんは亀吉さんの他にもう一人いて、わたしは知らない人だったけど、おタエさんのお店の人らしい。


 舟に乗ると既にお二人の姐さんとノアさんが乗って待っていらしゃって、二人共紺色の風呂敷包みを持ち込んでいらしゃる。

 わたしも今日は荷物が有りますよ!って黄色の風呂敷包みを得意げに船頭さんに渡すと、


「おや、ハル坊。あんたも荷物があるのかい?」


 アンタが何を持ってくるモンがあるんだね?って。


「フフフ……これはわたしの武器です!」


 ちゃんと用意してきました!とだけお答えしておいた。

 中身は昨日買ってきたものですけどね。


 そんな得意満面なハルに、周りはクスクスと笑っていた。




 お舟には三人の美しい姐さん方が並んで座り、まるで物見遊山にでも出掛けるみたいに楽しそうにおしゃべりをしていらっしゃって、辰之進さまはと言うと、前の方に一人でお座りになり、正に戦前と言った緊張感のあるお顔で激らせていらっしゃった。

 そんな渾沌とした屋形船が大川を登って行くとすれ違う舟からは奇異な目で見られてしまい、ノアさんを膝に抱いているわたしは、ただでさえ小さいのに尚更小さくなって姐さん方の横で大人しく座っていた。




 大川から山谷堀に入れば目指す西方寺はすぐそこだ。

 真っ先にわたしが下船して、堤を駆け上がったのだけど……周りの景色に違和感を感じた。


 確か以前来た時には昼間でも人出が多かったはずだけど、堤の上にあった出店も今は影も形もなく、人影が全く無い。


 これはさすがにおかしいですよね……


「……これはどうしたことでしょう?」


 後からやって来た姐さん方の方を向くと、


「ハル坊。コレは既にアイツらの結界の中だね」


 どうやら予想通り、ここで待ち構えていた様だねと、落ち着き払った様子で姐さん方は持って来た風呂敷を解き始め、中から黒い布を取り出し、


「さて……ちゃんとやり合うなら、此方も正装しないとね」


 三人揃って黒いマントを羽織るとフードを被った。


 何それ!格好良い!ずるいです!わたしのは?


 お前はまだ半人前だから無いよと、にべもなくあしらわれた。


 いいなぁ〜わたしも欲しかったなぁ〜


 姐さん方が闘いの準備をしている間、わたしは一人不貞腐れていたけれども、辰之進さまは左手にしっかりとお刀を握りしめて周りを警戒していた。


 突如、「いた!」と言う声と共に、辰之進さまは懐に手を伸ばすと、素早い動きで何かを投擲した。


 タンッ!


 音のする先を見ると、細い鉄の棒に刺さった白い鳥が木に縫い付けられ、紙に変わる所だった。


 あっ、式神だ!


 アレは以前も見た陰陽師の鳥の式神だった。


 ヒラヒラと舞う紙を見て、よし!っと辰之進さまが喜色を浮かべていらしたのだけど……あれ?でも、普通の武器では式神に通用しないはずじゃなかったかしら?


 不思議に思っていたら、ぴょんと肩にノアさんが乗って来て、


「どうやらおタエが渡したモンはちゃんと通用する様だね!」


 昨日お仙さんから渡されたお荷物は今日の為の武器だった様だ。


 格好良くって羨ましいなって思ったけど、確かにわたしには扱えませんよね。


 辰之進さま、さすがです!


 辰之進さまの勇姿に惚れ惚れとして見ていたら、


「ほら、ボヤッとしないでお前さんは下がりな!」


 ノアさんに姐さん方の後ろに行くよう注意された。


 どうやらこの戦いの間、ノアさんがつきっきりで面倒を見てくれるらしい。


「おハナの使い所はアタシが言うからね!」

 

 後ろに控えて準備するように指示された。


 慌てて姐さん方の後ろに下がっておハナ師匠の三味線バチを構えていると、目の前で姐さん方が色々と準備をしている。


 鶴吉姐さんを見ていたら、あの大きなお荷物の包みを解き始めた。

 中から出て来たのは人の胴体なんて簡単に切れちゃいそうな程に大きい鎌だった。


 あんな大きい鎌なんて見たことない!


 姐さんは嬉しそうな顔をして振り回し、ブンブンと音をさせて肩慣らしをしている。


 ……そのお顔にその鎌では、まるで死神みたいですよ……


 おタエさんは……と見ると、何枚もの折り畳んだ紙を取り出し、それを開いて自分の周りに置いている。

 中には円や記号やら見たことの無い小さな字が沢山書かれていた。

 それらを置き終わると、何やらゴニョゴニョ呟き始める。


 ……見ていても聞いていても、何をしているのかサッパリです……


 なら、お仙さんはどんな戦闘準備をしているのだろう?と期待して見てみたら……

 ただ悠然と構えているだけでした。


 ……ちょっと拍子抜け……


 あれ?でも良く見ればマントの下に竹箒を持っていらっしゃる。

 お掃除でもするのかしら?

 よく分かりませんが、どうやらアレがお仙さんの戦闘スタイルの様ですね。



 

 御三方共、いつでも来い!といった表情でお顔に笑みが溢れている。

 辰之進さまも羽織を脱ぎ捨て、お着物に襷を掛けていた。

 みんな気合十分だ。


 わたしだけが一人、いつもと同じなのでちょっと場違いな感じがした。

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