仕掛けについて
盥を用意したら、「危ないから少し離れて見てな」ってわたしを下がらせると、袂から油紙の包みを取り出し、その包みを開けると中から黒い丸薬っぽい物が出てきた。
わたしがそれを興味津々に見ていると、
「これはね、あの医者が作った物と大体同じ物だよ」
ですって。
え⁉︎同じ物?なら人の胎児を干したやつ⁉︎
驚いて嫌そうな顔になって後退りしてたら、お仙さんどころか二人の姐さん方にも笑われてしまった。
「大体同じさ」
コレの元になった物のは亡くなった人を乾燥させて作る木乃伊って言うそうだ。
この国で作られたのではなくって、海の向こうの大きな大陸の、とても暑い地域から運ばれてきた物らしく、
「コレ自体はその辺りの唐物屋で普通に売ってる物だよ」
その舶来品の木乃伊は誰でも買える物だと平然と言うお仙さんの言葉に驚いたけど、辰之進さまや堀さまを見たら、彼等もまたさも当然だというお顔をなさっていたので更に驚いてしまった。
え?木乃伊のこと、知らなかったのってわたしだけ?
なんでもこの木乃伊は万能薬としてよく使われる物らしく、飲み薬としても、出血の時に傷口に塗ったりとか、または燃やして匂いを嗅ぐなどと、症状に合わせて色々な用途に使えるお薬なんだって。
……しかし、なんだってそんな物を……
って顔を顰めていたら、
「まぁ、ホントは人の身体なんか飲んでも意味は無いんだけどね……」
どうもその木乃伊を作る時にその身体へ塗る物に薬効成分が有るらしく、あながち間違ってる訳でもないらしいのだけど……
……いや、わたしそんなの絶対無理ですよ!勘弁して下さい!
で、その木乃伊を使って使っているから、大体同じ物なのだと。
「コレが普通のとはちょっと違うのはね……」
今回必要なのは、深雪姐さんの悪霊に殺されてしまった時の様に、そのお薬を飲んだ者がお腹から内臓を飛び出させて死んじゃうって必要があるので、
「アタシが調合したこいつはね、飲んじまうとと……」
実際に人が飲み込む代わりの盥の水だそうで、その盥に黒い丸薬を放り込み少し待つと……
━━━ボンッ!
大きな音と共に水柱が立った。
呆気に取られて見ていたら、
「コレは試し用だから威力は抑えてあるけどね」
用意した物はちゃんとお腹が破裂するほどの威力があるんですって!
何それ怖い!って驚いていたら辰之進さまも堀さまも目を丸くして驚いていらっしゃいましたけど、三人の姐さま方はクスクスと笑っていらっしゃる。
「木乃伊が主な材料だけどね、爆発させる為に入っているモンはこの国じゃ手に入らないやつをアタシが調合したからね」
詳しく調べようとしても御殿医殿だってわかりゃしないはずさって更に高笑い。
「……コレを……飲ませるのですか……」
見れば堀さまが苦いお顔で胃が痛そうにお腹を押さえていらっしゃる。
「ハハハ。ホントに飲ます訳じゃないよ。寺社奉行の旦那方の都合が良い様に、死んじまった坊主の所と医者の住処にはもう既にコレを置いといたからね」
お医者さんの所にはこの爆発するための材料も置いてあるらしく、
「後は上手いことおやりな」
そしてそのお医者さんが今居る場所が書いてあるという紙を堀さまに渡した。
それを受け取るとすぐさま席を立って出て行こうとしたのだけど、
「お待ち!」
お仙さんに止められてしまった。
「この世の名残に、今晩くらいは良い夢見せてやりなよ」
今いる所は絶対安全だから明日にでも捕まえに行けと。
どんな所でしょう?と、その堀さまが持つ紙をそっと覗き見したら、ここ深川とか吉原ではないけれども、有名な岡場所とそこにあるお店の名前が書いてあった。
「そこにいる限りは安全さね」
どうやらそこのお店にもお仙さんのお仲間さんがいらっしゃるらしく、守りは完璧らしい。
……なるほど。いい夢って、そう言うことですか……
ちょっとブルっとした。
「それに医者を捕まえるのは、まず先に寺へ行ってからだろ?」
お寺に置いてあるそのお薬を、さも今し方発見したかのように装って、そしてそのお薬を渡したお医者を手繰ってく必要があるだろうって。
ちゃんとそのお医者さんから受け取ったお薬だとわかるようにもしてあるらしい。
色々と面倒くさいですけど用意周到ですね。
それにお医者さんの捕縛自体は町奉行の仕事になるだろうけど、寺社奉行側としてはその切っ掛けを作ってやっただけでも面目を立てられるはずだとおっしゃる。
それを聞いた堀さまは、「ふぅー……」っとため息を吐くと座り直した。
「さて、これで旦那の件は済んだんだけどね……」
そのままわたしと辰之進さまに視線を移し、
「まだこっちの問題が残ってるね」
今度はお仙さんがため息を吐いた。
ここの家とかは陰陽師が用いる結界とはまた違った姐さん方の作った結界が張ってあるので安全なんだけど、外に出たらあの陰陽師がきっとちょっかい出してくるだろうね、と。
「だから浅雪って子を回収する時が、ちと面倒だね」
ですって。
いやいや、それは困ります!
そもそも今回の件はそれが一番重要ですから!
ハルは立ち上がると仙に食ってかかった。
その陰陽師が邪魔しに来るんでしたら、そんなのわたしがおハナ師匠にお願いして踏み潰してくれます!
えぇ!わたしはやりますよ!
力を込めれば込めた分だけ大きくなるのですから、それこそ彼等が住んでいる屋敷ごと潰せる位大きくなって頂いくとか……
彼等にわたしの邪魔なんてさせない!目に物見せてくれるわ!
などと息巻いていたら鶴吉姐さんに、
「いきり立つんじゃないよ。アイツらを潰す事自体は賛成だが、わざわざ京まで出向くのかい?」
一人でノコノコと向かっていったら、その最中にやられちまうよって笑われた。
え⁉︎京?
あの陰陽師、住んでいる京から式神を飛ばしてきて、わたし達を襲撃していたのだそうで、
「アイツらはいつもそうだよ。自分で動かずに式神任せなんだから」
コソコソと意気地なし共だからね。やるなら本身で来いってんだ!っとお怒りだ。
どうやら鶴吉姐さんは彼等のそういった所もお気に召さないらしく、
「以前は遅れをとったがね……どれ、良い機会だ。今回はちと本気になってやるかな……」
冷え冷えとする様な笑顔で闘志を燃やして、活気盛んにやる気になっていらっしゃる。
どうも積年の恨みを晴らすために一戦交えたくてしょうがないらしい。
「よし!おハルがその気ならアタシも付き合ってやるか!」
あら、珍しく鶴吉姐さんと意見が合いましたね。
それなら二人でやっつけましょう!やりましょう!と鶴吉姐さんと手を取りあって騒いでいたら、
「バカな事言ってんじゃないよ!」
お仙さんに叱られてしまった。
「今更アイツらを潰した所で面倒事になるだけだろ?」
チラリと移すお仙さんの視線の先を見たら堀さまがいらしていて、顔面蒼白になって固まっていらっしゃる。
……堀さまのお立場のこと、すっかり忘れてましたね。ごめんなさい……
「でもまぁ、向こうから来る分にはしっかりとお出迎えしてやらなきゃいけないがね……」
横に居るおタエさんを見ながら、
「アイツらが寄越してきた変なのを返したところで、その後にどうなるかは知ったこっちゃ無いしね」
お互い笑顔で頷き合っている。
……あら、どうやらそれぞれやり方は違うようですけど、皆さん交戦的なことには変わり無さそうですね……
姐さん方は三人揃って、とても良い笑顔で笑い合っていらっしゃった。




