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襲撃からの帰宅

 わたしが目覚めたのは家に着いてからだった。


 辰之進さまが血相を変えて家に運び込んでくれたらしいのですけど、家に着いて、わたしの様子を見た鶴吉姐さんは一瞥だけすると涼しいお顔で、


「なんだい?どうせ腹ァ空かして寝てるだけだろ。飯の匂いでも嗅げばすぐ起きるさ」


 そのまま茶の間に用意されていたお膳の前に放り出したんだそうだ。


 なんて乱暴な!……えぇ……確かにそれで起きましたけどもね!……でも、もう少し心配してくれてもいいんじゃないでしょうか?わたし、とても大変だったんですよ!


 ホントにもぅ!とぶつくさ文句を言いながら辰之進さまと一緒に、着替えもそこそこに夕飯を頂いていたら、


「あれハル坊、もう起きてたのかい?思ったより元気そうだね〜」


 お仙さんがやってきた。


 戻ったノアさんから既にお話しは聞いたらしく、先程の襲撃の件とかは全てご存知で、「治療してやるから上、脱ぎなね〜」と、いきなり上半身裸にされてしまった。


 きゃ!いきなり脱がさいで下さい!女の人ばかりとはいえ辰之進さまの前では恥ずかしいです!


「なんだい、思ったより軽い怪我じゃないかね」


 一通り診察してくれると腕の傷に不思議な匂いのするお薬を塗ってくれて、これでもう明日、明後日には治っているはずだと言われた。ありがとう存じます。


 わたしの治療が終わるとサッサと長火鉢の所へ行って、姐さんとお酒を呑みながら何やら話し込み始める。


 お食事が終わって人心地もつき、辰之進さまと仲良くお茶を飲んでいたら今度はおタエさんがやって来た。


「あれ、お辰。随分とボロボロになったねェ」


 茶の間に上がるや否やわたしには目もくれずに辰之進さまの心配をしている。


 むぅー!わたしのことも少しは心配して下さいよ!大変だったんですから!


 そう睨んだら、「春蔵は元気そうじゃないか」って笑っていなされてしまった。


 解せぬ!


 そのままおタエさんも姐さん方の所へ行くと、皆んなしてなにやら話し込んでいる。

 

 そんな怪しげな姐さん方が狭い茶の間に三人も集まって、クスクスと怖い笑顔で話し込んでいると辰之進さまも居心地が悪そうで……


「では、わたしはそろそろ……」


 席を立とうとしたのだけれども、


「御免!ここに来る様に言われたのだが……」


 ついには堀さままでいらしてしまった。


 そのままお家に入っていらっしゃって、茶の間の戸を開けたのだけど、三人の姐さん方とわたしと辰之進さまがそこに居るのを見て、驚いて土間に立ちすくんでしまった。


「おや、やっと来たよ。中にお入り」


 姐さんに促されて緊張しながら茶の間に上がる堀さまだったけど、ボロボロになっている辰之進さまの姿を見て、何事!ってお顔になってしまった。


「……此度、一体何があり申した?……」


 ここへは件の下手人について話しを聞きに来たのだけどもって。


 わたしは姐さん方と辰之進さまを見てから堀さまに、実は……と今日起きた出来事を掻い摘んでお話した。




「……なんと……その様な事が……」


 堀さまが目を見開いて慄いているとお仙さんが、


「こっちのお膳立ては整っているけど、そっちの方は大丈夫かい?」


 って、悪戯っぽく笑いかけた。


「……言われた通り上役には……寺社奉行付殿にまでも話しは通してあるが……」


 して、その下手人は一体どういった者なのだ?と。


「……なら大丈夫かね。薬を仕込んだ医者はすぐわかったんだけどね。その大本を手繰ってみたらこのハル坊を襲った奴だったよ」


 それを聞いて堀さまはたいそう驚いていらっしゃたけど、もちろんわたしも驚いた。

 二人して顔を見合わせてしまう。


 お仙さん曰く、今回の件は結構面倒なことになっていて、陰陽師家同士のいざこざに巻き込まれてしまったみたい。




 今の陰陽道宗家は土御門家で、全国の陰陽師達を支配している陰陽頭なのだけど、百年程前の元禄の時に幕府公認の宗家となるまでは色々とゴタゴタがあったらしく、その後もなんだかんだと揉めているらしい。

 元を正せば同じなんだけどね……ってことらしいけども、どうもその土御門家と賀茂氏系の高特井家との長年に渡る争いが今回の原因の一つなんだって。


「その今の陰陽道宗家である土御門家が今の地位に固執しててね……」


 十数年前に土御門家内部のゴタゴタが原因で高特井家が一時期陰陽頭になってしまったことがあったらしく、その件がだいぶ効いていて、今や各方面に色々と付け届けをしたりとかして政治的な根回しを一生懸命らしい。


「田沼のマネ事じゃあるまいし……」


 術師が政治屋の真似事しくさってバカだねって。今や大奥にまで手を伸ばしているとのことだ。


 で、その手回しの一環として、大陸由来の長寿の妙薬だと例の薬を作ってお得意様に配って回っていたんだって。


「大方、陰陽師らしく大陸で古くから伝わる秘薬って事で、ばら撒いてたんだろうさ。あの深雪って子の以外にも、だいぶ仕込んでいたみたいだよ……」


 って、怖い顔で笑わないで下さい!


 そのお薬、作っているのは別な所だけど原材料、供給元は吉原だそうです。


 だから結界とか随分と守りが堅いのかしら?楼主さん達も土御門さんと同じ地域の出身ですし、きっとみんなしてグルなのね。


 なお、今回深雪姉さんの幽霊に殺されてしまった武家の奥方さまってのが、実は大奥の方だったみたいで……


 ……それならお大名であるお奉行さまでも詰められてしまって大変ですよね……


「でもよく大奥のことまでわかりましたね?」


 って聞いたら笑いながら、


「ふふふ……女が大勢居る所にはね、あたしらの仲間内が大体入り込んでいるんだよ」


 ですって。


 思ったよりお仲間さんは沢山いる様ですね。でもお仙さん!相変わらず笑顔が怖いですよ!ほら、辰之進さまや堀さまが引いちゃってます!


 他にもそのお薬を飲んだ方は大勢いらっしゃるみたいですけど、今回亡くなってしまった方々はたまたま深雪姉さんのに当たってしまったんだろうね、と。

 それは運が悪かったですね。ご愁傷さまです。


 そこまで聞いて、陰陽師家同士のつまらない争いと政治活動については大体わかったけど、なんでわたしがあんな目にあったのかはよく分からなかった。


 陰陽師なんてわたし、全く関係ないじゃないですか。なんで狙われてたんでしょう?ってお仙さんに聞いたら、


「あぁ、そりゃあれだよ。勘違いだね」


 え⁉勘違いでわたし殺されそうになったの?なんて理不尽な!って思ったら……


「そもそも、その一連の事件の事については彼奴等もちゃんとわかってたみたいだけどね……」


 巷で話題なになっている、お腹を破裂させて亡くなってしまうおかしな死に方をしている者達を調べて見れば自分の所の顧客ばかり。

 これはおかしいなって思ったけど、まさか本当に悪霊が出て、お薬を飲んだ者を殺して回ってるとは思わなくって、そんな殺し方はおそらく土御門家を恨む賀茂氏系とか、どこぞの陰陽師の仕業だろうと考えていたらしい。


 ……恨まれる覚え、沢山ありそうですものね……


 それで更に詳しく調べてみれば、同じ遊女の子から作ったお薬を飲んだ者ばかりだとわかり、その内の一人、最後に生き残っているあの吉原の楼主を見張っていたのだけど、吉原の結界を破って殺されてしまってとても驚いたみたい。

 その時にどうも西方寺にも監視の目があったみたいで、わたしが深雪姉さんを神さまにしている所もみられていたっぽい。


 ……神さまの光臨は神々しかったですからね……仕方ないですね……


「それでハル坊はどこぞの陰陽師だと思われて襲撃されたって訳さ」


 災難だったね。ですって。


 ……あら?でもわたしがしたことが原因だし、わたしを狙うことはあながち間違いでもない気がしますから、しょうがないのかな?


 などと考え込んでいたら堀さまが、


「なら、その薬を作った医者を召し上げるとなると、土御門家が出て来る事になる……と……」


 そうおっしゃって難しいお顔をなさってる。


 そう言えば陰陽師も寺社奉行さまの管轄なのよね?大丈夫なのかしら?面倒事になっちゃう?


「いや、そっちの方の問題は大丈夫だと思うけどね……」


 既にその医者との関係発覚を恐れた土御門家は切り離しにかかっているそうで、


「口封じに殺されちまわないかの方が心配だね」


 そうされない様にお仙さんがもう手を回しているらしい。

 さすがですね。


「せっかく用意した仕込みが無駄になっちまうからね」


 などと笑ってらっしゃいますが……え?仕込み?


「そりゃそうさ。そいつを完全な下手人に仕立て上げなければいけないからね」


 ニッコリ笑って、「旦那にもみせといてやろうかね」と、わたしに盥に水を張って土間に持ってくるよう言いつけた。

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