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浅雪姐さんの救出 その3

 西方寺から浅雪姐さんの捕まっている番所まではそう遠くは無かったのだけどもさすがにヘトヘトになったので、途中で食事休憩を取りながら向かったから番所に到着したのは正午もだいぶ回っていた。




「やっぱり疲れた時には精のつく物が食べたいですよね!」


 って、わたしの希望でももんじ屋へ寄った。

 わたしは田舎の山暮らしだったから獣肉はちょくちょく食べてたし、前世ではお馴染みだったから抵抗が無いどころかむしろ好きなのだけど辰之進さまは、


「おハルちゃんが食べたいと言うのでしたら……」


 あまり乗り気では無いご様子。

 慣れてないと薬食いは抵抗がありますものね。仕方ありません。

 わたしが鍋をパクパク食べているのを見て、「アレの後によくそんなに食べられるね……」と感心して見ていらっしゃってあまり箸が進まなかったみたい。

 ほとんどどわたしが平らげてしまった。


 さっき力を沢山使ったのでお腹が減ってしまって……お恥ずかしい……


 ノアさんにはお外で待っていてもらったので、「アンタらだけ旨いもの食って!」と怒られてしまった。


 かと言って鮑の貝殻なんて持ってきてないから猫まんまをご用意することも出来ないので、「何をお召し上がりますか?」と伺った所、鰻を所望されてしまった。

 

 鰻の蒲焼き売りの屋台のおじさんには、「猫に鰻たァ、ナリは小さくとも芸者の姐さんは豪気だな」って笑われる始末。

 もちろんわたしも食べましたけどね。


 そんな事をしていたから思ったより時間を食ってしまった。

 浅雪姐さんごめんなさい!




 番所の前に着いて通り過ぎながらチラリと中を覗き込むと、羽織袴姿の与力・同心さんや、尻端折りにしている岡っ引きさんらしい者達が忙しそうにしている。

 ピリピリしている雰囲気からも、おそらくここに浅雪姐さんが居るのは間違い無さそうだ。


 ……さて、どうしましょう……


 そのまま通り過ぎて番所近くの茶店に入り計画を練る。


「辰之進さま。どうしたら宜しいと思いますか?」


 正直、全くの無計画だ。

 お薬を浅雪姐さんに飲ますだけなら簡単だろうし、着いてから考えればいいやって思ってた。

 ここは辰之進さまのお知恵を借りたい。


「え⁉︎おハルちゃんに何か良い案があってここまで来たのでは無いのですか?」


 辰之進さまはわたしに付いてきて、お手伝いだけをすれば良いと思っていたらしく、逆に驚かれてしまった。


 二人して頭を抱えていたらノアさんに、


「バカだね、お前たちは!」


 って、叱られてしまった。


「まずはちゃんとそこに本人が居るのか、無事なのかを確認しな!」


 そうですね。と手を打って、さて……


「わたしや辰之進さまが直接行くのは無理そうですし……ノアさんでも難しそうですよね……」


 わたしがフラフラと覗き込みに行ったら、「なんだお前は!」って怒られそうだし、あのピリピリとした警戒体制ではネズミ一匹、と言った感じだ。


「なら!」


 と袂から三味線バチを出して、


「おハナ師匠、出番です!」


 茶店で待ちながら、おハナ師匠に番所の中の様子を見てきてもらった。


 多少距離があったのでちょっとだけ疲れたけど、無事おハナ師匠が偵察から戻ってきて報告をしてくれた。


「パオーン、パオ、パオーン!」


 しまった!おハナ師匠が何を言っているのか分からない!


 おぉぅ……と頭を抱えていると、


「取り敢えず無事な様だよ!縛られて奥の座敷牢に閉じ込められているとさ!」


 ノアさんが通訳をしてくれた。


「お前さんも早く言葉がわかる様にならないとね!」


 お前さんの使い魔だろ!と、怒られてしまった。

 おタエさんはわかるそうですよ。凄いですね!


 ありがとう!と、お礼にノアさんを抱きしめてあげたら爪で引っ掻かれてしまった。相変わらずつれないですね……


 ともかく無事なことがわかったので、後はこのガラスの小瓶に入ったお薬を浅雪姐さんに飲ませればいいだけだ!


 ……さて、どうしましょう……


 そのまま茶店で辰之進さまとノアさんとで色々意見を出し合った。


「ノアさんになんとか忍び込んでもらって、薬瓶を浅雪姐さんに渡すとか……」


 頑張って忍び込めても、手足が縛られている状況では薬瓶を受け取ることが出来ないだろうし、渡せたとしても、いきなり知らない猫が持ってきた物を口にはしないだろうって却下された。

 想像してみたら確かにあやしいですよね……


「では、夜まで待ち、皆が寝静まった頃に……」

 

 それでは件の糞問い与力の旦那が来てしまうかも知れない。そんなに悠長なことは出来ない。


「そうだ!いっそのこと、近所に付け火して……」


 火事だ!ってみんなが騒いでいる内に……と言ったら辰之進さまとノアさんに必死になって止められてしまった。

 良い案だと思うんですけど……


「なら天井裏に忍び込んで糸を垂らし、そこからその液体を垂らすとかどうですか……」


 なんか忍者みたいですね。でも事前に浅雪姐さんにお伝えしないでそんなことしても大丈夫かしら?


「……番所の前で騒ぎを起こし、その隙に……」


 それでも番所が空っぽになることは無いと思うのよね。


「いっその事、中にいる方々をみんな眠らせられるよな物でもあればいいんですけど……」


 お仙さんは持っているらしい。借りてくれば良かった。今から取りに戻るのでは遅いかしら?


 他にも色々案を出し合ったけど、今一これだという妙案が浮かばなかった。

 ノアさんも交えてみんなして考え込んでいたら、俄かに番所が騒がしくなって忙しそうに人が出入りする様子が見えた。


 なんでしょ?と不思議そうに見ていたらノアさんが散歩を装って番所まで行って様子を見てきてくれた。


「あれだね、吉原で事件があったって騒いでいたよ!」


 さっきの深雪さまの件で、今吉原では大変なことになっているみたい。そのために町奉行の方達が慌ててるのだと。


 あら? 


 暫くすると何人もの羽織袴姿の者や岡っ引さんらしき者達が慌てて出て行く姿が見えた。


 さすがに番所を空っぽにはしてないとは思うけど、みんなして出掛けて手薄になっているのは確かだ。

 

 これはチャンス!


 さっき思いついたけど、人が多いと出来ないと思って言わなかった案がある。だけど今なら大丈夫かもしれない。


「ノアさん、このお薬ですけど、どのくらい浅雪姐さんに飲ませればいいんでしょう?」

「そうだねぇお仙が作った一時仮死状態になるやつだろ?恐らく半分も飲めば数日は目覚めないだろうさ!」


 ひと舐めとか、ちょっとだけなら少しだけ眠ったようになるって。


「なら、この瓶の半分をあの番所にある水瓶に入れてしまえば……」


 水瓶は番所の入り口近くにあったから、人が少ない今ならそっと入れられそう。

 その水を飲んで中にいる者たちが眠るように意識が無くなっている隙に……


「ってのはどうでしょう?」


 悠長かもしれませんが、結構暑いですし、全くお水を飲まないってことは無いですよね?

 

 ……まぁ暗くなるまでには時間もありますし、付け火をされるよりはましでしょうか……試すだけならいいのでは?と二人から賛同を得られたので早速行動に移した。


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