救出手段の模索
お仙さんからの許可が出たので早速やる気になったのだけど……
「お仙さん。お恥ずかしいのですけど……どうすれば良いと思いますか?」
やる気は十分有るけど、どうすれば良いかがサッパリだ。
一番の目的はまず浅雪姐さんを無事に助けだすこと。
これは外せない。
そして二番目には深雪姐さんの本懐を遂げさせてあげたい。
正直、こっちは出来なくても構わないのですけど……
そうさねぇ……と、お仙さんは暫く考え込み、
「いくら好き勝手やると言っても、まだこの土地には未練もあるし、下手に軋轢を産むのも悪手だね……」
それはわたしもそう思います。
だって、ここには美味しいものが沢山有りますし、それに辰之進さまもいらっしゃる!
「ハル坊は、その浅雪って子を番所から救い出したいのだろ?それも早急に」
ハイ!と力強く頷く。
「なら救い出した後、その子は吉原へは戻んなくてもいいのかね?」
ちょっとだけ考えたけど、多分いいと思う。
楼主も変わってしまって浅雪姐さんも居心地も悪そうですし、それに深雪姐さんも、吉原にはもういない……
「……でも……かと言って田舎に帰るわけにも行かないと思います」
お姉さんである深雪姐さんと一緒に吉原へ買われて来たのだ。
まだ年季も明けてないだろうし、田舎に戻ったとしても居場所が無いと思う。
……わたしもだけどね……
「流石にあたしが身請けの身代金を払ってやる義理は無いよ」
はっきりと言われてしまった。
……それはそうですよね……
「でもまぁ、出しちまえば何とかなるかね」
よく分からないけど何とかなるらしい。お願いします!
「なら面倒だけど、一旦死んでもらうのが手っ取り早いかね」
え?死ぬんですか?一旦って?浅雪姐さんが⁉︎
死ぬだなんて聞こえてきた不穏な言葉におどろいて目を見開いた。
「番所の中での不審死ってことにすれば手っ取り早いさね」
仙はそう言うと、驚いているハルを他所に席を立ち、部屋の脇に乱雑に置いてある薬瓶を物色し始める。
「……何がいいかね……コロっといって暫く目を覚さないやつにしないといけないから……」
何やら色々な瓶を取り出すと調合し始めた。
「……まずはお馴染みのマンドラゴラだろ……他には……」
ハルは黙って暫くその様子を見ていたのだけど、気になって仕方がない。
「……あのぉ……お仙さん?……それは何をなさっているんですか?」
「あぁ、一旦死んだ様に見える薬を作ってるんだよ。この手の薬作りはあたしらの本業さね。いずれハル坊にも色々と教えてやるからね」
ヒッヒッヒ……と、お仙さんが嬉々として薬を調合する姿は妖しくって、見ていてちょっと不気味だった。
……どう見てもお薬と言うより、毒薬の調合よね……
程なくして出来上がったお薬を小さなガラス瓶に詰めると、机の上に置いた。
……あれだけ色々な物を混ぜたのにこれっぽっちしか出来ないんだ……
その透明な瓶には不気味な色を放つ液体が入っていた。
「ここらじゃあまり手に入らない物を使ってるからね。大事に扱うようにね」
それとこの瓶も高いんだから気をつけるように。とも言われた。
「後はその深雪って子が一旦死んだ後、面倒事にならない様にしとく必要があるし、堀の旦那にも恩を売れる様に代わりの下手人が必要か……誰にしようかね……」
なんて怖いお顔で笑っていらっしゃる。
それを聞いて、まさか幽霊の深雪姐さんを下手人として引っ捕らえさせる訳にはいきませんよね?どうするんだろ?って思いながら黙ってお仙さんの言葉を待った。
「ハル坊、その子は自分の子を粉末にされて薬にされちまったんだろ?」
思い出したくないけどそう聞いたので黙って頷く。
「それを長寿の薬としたのか…… 同物同治だね」
……ドウブツドウチ?
「あぁ。身体の悪い部位を治すのにその部位と同じ物を食べるって考え方だよ。それなら漢方医、いや大陸の中医かね……」
堕胎させた中条の女医ではそんなことはしないだろうと。
幼い子は陰陽思想の陽に当たるから、陰である爺婆共がそれを丸っと体内に入れる目的もあったんだろうって。
その手の考え方は海を渡った向こうの大陸のものだそうだ。
「……そんなにまでして長生きをしたいものかね……」
って、しみじみおっしゃってますが、それをお仙さんが言いますか?怒られそうだから突っ込みませんけど。
「なら丁度いいからその薬を作った奴を下手人に仕立て上げてしまうかね。そもそもそいつが作った薬を飲んで死んじまったのには代わりは無いんだからね」
ですって。
そうですね。その方のせいでこうなってしまったのだですから、わたしもそれでいいと思います。
「……だけどね……」
こうも立て続けに同じような死に方をしたのだから、当然そのお薬を作った者にも嫌疑がかかっているはずなのだけど、その手の噂を聞かないところを見ると、その方ってば結構なお偉いさんか、それに関係する者が絡んでるんじゃないのか。ですって。
「そいつが捕まると、どれだけ上の方が混乱するか知らないが、あたしの知ったこっちゃないがね」
と、とても良い笑顔で笑いながらおっしゃる。頼もしいことですね。
「……後はね……」
番所の中で、ただ死んだだけじゃ他に下手人がいても共犯者として見せしめに一緒に晒されてしまうおそれがあるから、
「ちゃんと一連の事件はその子の仕業じゃないって事を見せとかないとね」
そうすれば死んだと見せかけた後は、無関係な者だったとして埋葬されるだろうとのことだ。
「遊女の投げ込み先は大体決まってるからそこはあたしが手を打っといてやるよ」
他にもいるお仙さんのお仲間達に連絡を取り、その薬を作った者の捜索も含めて早急に色々と事にあたらせるんですって。
まぁ!何から何まで頼もしい!さすがお仙さん!ってお礼を言ったのだけど……
「まぁ、実際色々と働くのはハル坊だけどね」
ですって。
仕方ありません……
そういえば浅雪姐さんの仕業じゃなく見せるのはどうするんだろう?まさか浅雪姐さんが番所に居る間に、わたしがあの楼主を殺せばいいの?いくら気に食わない方でも直接手を下すのはちょっと……
まぁ、やらなきゃいけないのでしたら、深雪姐さんの仇にもなるのですしやぶさかではないですけども……って考えていたら……
「別にハル坊がそんなやる気を出さなくともいいさね。その深雪って子に本懐を遂げさせてやればいいのさ」
ですって。怖い顔するなよって笑われててしまった。
あら、お恥ずかしい。お顔に出てましたか?
なら、鶴吉姐さんに駄目だといわれた陰陽師の五行の守りを崩すのでしょうか?ってお聞きしたら、
「いや、それをやってしまうと他にも色んなもんが吉原に入ってしまうからね……」
別にお上の陰陽方だろうが土御門家を敵に回すのは構わないけど、どうもあそこら辺は色々と良くないものが溜まっているらしく、それをやると大事になってしまうんですって。
そう言えば近くには刑場跡地とかもありますしね……
「だからね……」
お仙さんからそのやり方の説明を受けた時はとても驚いたけど、果たしてわたしの体力が最後まで持つのかどうかの方が心配になった。




