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お寺での聞き込み

 着いたお寺の境内は思ったよりも広かった。

 本堂以外にも小さなお堂や建物が色々と見える。

 人もそれなりに居るし、結構人気なお寺なんだろうか。

 

 わたしは境内の中に入ると辰之進さまに向かって、

 

「では、辰之進さまもよろしくお願いしますね」


 ニコリと笑って手を差し出す。


「……やはりわたしも一緒に見るのですね……」


 はい!と元気よく返事をして、躊躇しながら手を出してくる辰之進さまの手を握ると、視線と意識を歪めていく。


 辰之進さまは、「……成る程……この様に見えているのですか……」と、ちょっと気持ち悪そうなお顔になってしまった。


 ……あら、ごめんなさい……




 さすがお寺の境内だ。

 あちらこちらに神さまらしき方々が見えてきた。


 まずは本堂へ行こうかと思ったけど、そこにいらっしゃる神さまは遠目で見ても大きくて、見た目がちょっと怖そうだったからそこへ行くのはよした。

 どこにしましょうか?と少し周りを見渡すと近くに稲荷堂があったのでそっちへ行ってみることにした。


 お稲荷さまならお馴染みのお狐さまよね?と近づいてみたら、長い黒髪の温和そうな女の神さまがいらっしゃる。

 その神さまを一緒に見ていた辰之進さまは目をパチクリさせながら、


「……これは……もしやウカノミタマ様でしょうか……」


 さすが辰之進さま!博識!わたしなんかよりよっぽどお詳しいですね!


 お狐さまは御使で、稲荷さまの主神はウカノミタマさまなんだって。

 穀物や農業の神さまと言うことなので、持って来た荷物の中から握り飯とお酒、お塩をお出して神さまの前にお供えし、お声を掛けてお話しをしてみた。


 予想通りお優しい神さまで、問題なく受け答えしてくださった。

 予想外だったのは、このウカノミタマさまが今回の事件についてよく知ってらっしゃったので、他の神さま達に聞かずに済んだことだ。


 あっちこっち回らずに済んで、それはとても助かったのですけど……


「……やっぱり住持さんを殺してしまったの、女の人の幽霊だったみたいですね……」

「そうだね。そのままの事を兄上に伝えるしかないね……」


 ウカノミタマさまが直接見た訳ではないのだけど、その現場にいらした神さまによると……


 その夜、住持さんの枕元に突如として女の幽霊が現れ、「返してもらうよ」と、ぼそりと言うと、寝ている住持さんのお腹にいきなり手を差し込んでそのまま引き抜き、お腹の臓物と血を辺り一面に飛び散らせてしまったのだと。その直後、住持さんの絶叫が響き渡たる結果に……


 ……それって、もはや幽霊ではなく妖怪か何かでは……


 ガタガタ震えながら辰之進さまの腕に抱きつき、その淡々と語られる克明な描写を聞いていた。


 ……だから来たくなかったのよね……


 このお寺にいらっしゃる神さま達の間ではその話しで持ちきりらしく、皆さんご存知のことらしい。

 確かにアレは妖怪とかではなくって、元は人で幽霊になり、その後亡者になった存在だったんだって。

 少なくともこの辺りのモノではないそうで、その幽霊か言っていた「かえせ」も何をなのかわからないし、住持さんと幽霊さんの関係もわからないのだと。

 ウカノミタマさま曰く、あの「子」は昔しから男一筋で女には興味なかったから尚更なんだって。


 ……怖いのはダメ……勘弁してください……


 でもそれがホントに幽霊であるなら、重要なことだから、ちゃんと聞いておかねばならないことがある。


「そ、それでその女の幽霊ですが……どんなお顔をしてたか、お話しに聞いていらっしゃいますか?」

 

 辰之進さまの後ろに隠れながら恐る恐る聞いたのだけれども……

 

「あの魂魄は我らと近しくはあるが異なる存在故、その容貌までは解らぬ」


 どうやら女の人の幽霊とはわかっても、お顔の判別までは出来ないみたい。


 これ以上詳しいことはわからなそうなので、お礼を言ってお寺を後にした。

 



 夏も近く暑いくらいの陽気なのに、わたしは歯の根が合わないほど震えてしまった。


「その先の茶屋で休憩しましょうか」


 顔色も悪いのだろう。わたしの様子を見て辰之進さまがとても心配してくれている。


 暖かいお汁粉を食べて何とか人心地がついたけど、三杯目でやめてしまった。


 大丈夫ですか?と、わたしの食が進まないのを辰之進さまが心配して下さる。


 ……さっきのお話しを思い出すとどうしても食欲が……


「それにしても困ったね……」

「せっかくここまできたのに、結局進展は無いのですから……」

 

 疲れましたねって、二人してため息を吐く。


 辰之進さまは、「神様とお話しするのは存外体力を使うものなのですね……」と苦笑いなさってる。


 ホント、骨折り損のくたびれ儲けだ。


 疲れて、怖い思いまでしたのに結局噂以上のことは何も分からなかった。

 幽霊さんの正体とか、住持さんと幽霊さんの関係だとかはわからないままだし、ある意味、今回の事件は幽霊の仕業だという裏付けが取れてしまっただけで、浅雪姐さんの身がますます危なくなるだけだった。


「堀さまには申し訳無いですけど、住持さんの件はやっぱり幽霊さんでしたよ、とそのまま伝えて……」


 後はそっちでどうにかやってもらうしかないですね。


 心の中で大変でしょうけど張って下さいと応援しておいた。


 ともかくこれでここで出来ることは無い。

 後は浅雪姐さんの件だ。


「では、まだ陽も高いですから日本橋のお店まで行ってしまいましょう」


 望みは薄いだろうけど、あっちは幽霊じゃないといいなって期待をしつつ、気を取り直して日本橋へと向かった。

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