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捜索の開始

 今日は辰之進さまと捜索と言う名のデートだ!

 朝から身支度に気合を入れる。


 化粧も万全。下唇にはちゃんと玉虫色の小町紅もさしてバッチリだ。

 髪型は鬢張を使って最近流行りの灯籠鬢にして、お気に入りの簪も二つ挿す。

 紺鼠色の小袖に同系色の帯を締め、中にはチラリと見えるように赤い襦袢。黒鳶の羽織で全体的に深川の芸者らしく小粋にまとめてみた。

 下ろしたての日和下駄も用意して、ちゃんと辰之進さまから頂いた巾着も、おハナ師匠の三味線バチも持った。

 そうそう忘れてましたと、赤い湯文字の下から白い脛ってことで、内股にも白粉を塗って……


 完璧です!サァ、何時でも来て下さい!って玄関前に仁王立ちして待ち構える。

 姐さんに「お座敷行くんじゃ無いのにやり過ぎだよ」って笑われたけどそんなことありません!




 辰之進さまは今日もいつもと同じく爽やかな笑顔と共にやって来て、「おハルちゃんお待たせ。今日はまた……随分とめかし込んでるね……では参りますか」と、わたしの荷物を持ってくれる。

 ありがとうぞんじます!荷物があると、左手で褄を取って歩けませんものね。


「この風呂敷はいったい何が入っているんですか?」


 随分と大きいようだけど、と。

 わたしでは両手で抱えるほどだったけど、辰之進さまは片手で軽々と持っている。


「神さま達へのお供物ですよ」


 昨晩、お家のお家にいらっしゃる神さま、縁起棚の神さま達や荒神さまとかにもご相談して、これから行くお寺の神さま達へのお供物に良さそうな物を見繕って持ってきたのだ。


「お話しを聞くのに、どれほどの神さま達とお会いするかわかりませんもの」


 結構有りますねって、荷物を見て辰之進さまが笑っていらっしゃる。




 今回、堀さまからご要望は例の住持さんが「誰に殺されてしまったか」がわかれば良いだけなのだ。

 犯人の目星をつけるだけだったら、直接その現場を目撃した神さまをお探しすれば良いだけなので簡単な話しなのだけども、わたしが渋ってたのはそのお話しを神さま達から聞く時に、あのおぞましい状況を詳しく聞いてしまうことが嫌だったからだ。

 それに沢山の神さま達とお話しすると疲れますしね。


 でも辰之進さまがご一緒してくれるなら大丈夫!

 怖いお話しもちゃんと聞けると思うの。頑張ります!


 ……問題は八右衛門さまと浅雪姐さんの件よね……


 こっちはどうしましょう?

 単純に犯人かわかるだけではダメなのよね?

 八右衛門さまのことなんかは正直どうでも良いのだけど、辰之進さまのお顔を立てなければいけないし、何よりこのままだと浅雪姐さんが……


 いくら考えても仕方がないからそれについては現地に行ってから考えることにして、まずは例の住持さんが亡くなった湯島天神近くのお寺へと向かった。




 湯島天神の境内や門前は朝から賑わっていた。

 茶店や料理屋、芝居小屋、色んなお店が出ている。 

 やった事はないけれど、たしか富くじもここよね?

 そんな中を辰之進さまと二人連れ立って歩いていたら……

 

 ん?


 茶屋の店先に座る男達から秋波を感じた。

 ただその視線の先はわたしにではなく、隣にいる辰之進さまに、だ。

 

 辰之進さまもそれを感じ取ったらしく、


「……何やら、変にしなをつくる優男共に、妙な視線を向けられているような……」


 女装をしている者も混じっている様だが、あの者達は何であろう?こちらに対して敵愾心がある訳でも無さそうだか……と困惑していらっしゃる。


「ふふふ……あそこは蔭間茶屋ですよ」

「蔭間……あぁ成る程、男同士の……」


 あら、さすがにご存知でいらっしゃいましたか。

 でも何故わたしを?って、合点がいかないってお顔で考え込んでいらっしゃる。


「それはもちろん、辰之進さまがお美しいからですよ……」


 お客さんになって欲しい彼等の気持ちもわかりますけど、隣に居るわたしのことは見えないのかしら?失礼しちゃいますよね。


 それでもまだ、「わたしの事を同輩とでも思っておるのか……」と納得出来ないってお顔でしたので、「そうでも無いですよ」と、近くの料理屋の店前に止まっていた豪華な駕籠を指差した。


「あの女乗物(おんなのりもの)がどうかしましたか?」

「アレはきっと、蔭間茶屋から呼び出したお客さまのですよ」


 別に男の人同士だけでなく、ここには女の人もいらっしゃるのですよ、と教えてあげた。

 蔭間には幼い頃に連れてこられて、親方に男色の訓練を仕込まれてから店に立つのもいれば、若い歌舞伎役者がバイト感覚でやっている者もいる。

 なので全員が男同士を好む訳ではなく、当然バイもいた。


 微妙なお顔になったけど、それでようやく納得してくれた様子だ。


「ここいらは蔭間茶屋が沢山あるので有名なんですよ」


 これから行く例のお寺の住持さんも、ここでは常連さんで有名だったらしいです。でもあまり男癖が良くなかったそうで、よくお店で揉めてたってお話しも聞きますけど……と。


「……ならばその住持は、ここの者達と痴情のもつれにて殺されてしまったと言う事も……」

「それもありそうですよね」


 むしろそうあって欲しいと思う。


 もし、蔭間の方に殺されたのだとしたら、日本橋のご主人の件もその方かもしれませんし、そうでなかったとしてもその方には悪いですけど、全部その方に被せてしまって、噂になる前に深雪姐さんの幽霊の件を有耶無耶に出来るかもしれない。

 お武家のご内儀さんの件は知りませんけど……


 いずれにしても浅雪姐さんの件があるし、また同じ様な事件が起きるかもしれないのでなるべく早くこの件については解決をしなければいけない。


 気合を入れ直して、


「さて、ともかく現地に行って色々と聞いてみましょう!」


 辰之進さまを促すと、少し歩みを早めた。

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