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間話 辰之進、再びまいる その2

 祖父にその様な態度を取られてしまっては嫌とも言えず、一肌脱ぐ事になった。

 直ぐにでもおハル殿の元へ向かおうとしたのではあるが……


 そもそもこの件は八右衛門殿の件である。

 やはり当人自らおハル殿に直接頼むべき件であろう。

 込み入った件である故、八右衛門殿から詳しく話しをさせ、良く良く頼まねばなるまい。


 そう考えたのであるが……しかし、これが随分と大変な、骨が折れた事であった……


 八右衛門殿を捕まえ、


「件の話しを祖父から聞き申した。ついてはその対応に……」


 お主も知っておろう、あの辰巳芸者の春蔵の元に助力を求めに行くぞ。と言ったら青い顔をして、


「な、何だと!アレに相談するくらいなら拙者は腹を切る!」


 取り付く島もなかった。

 

 わたしはその場に居合わせなかったので詳しくは知らないが、どうも以前顔を合わした際に随分とやり込められた様子だ。

 

 ……やはりおハル殿も、幼いながらにしてあの女傑達の仲間であったか……


 かと言ってこのまま放って置く訳にもいかず、幾日も渡り説得を繰り返し、時には脅し賺してなんとか同行させるに至った。





 おハル殿の家に行く前に、確か甘い物が好きであったなと思い出し、手土産を用意してから深川へと向かった。


 この両国橋を渡るのも久方ぶりだ。

 以前、ここへ来たのはおハル殿と日本橋で袋物を見た後に食事に参った際であったな。


 あの時、この橋を渡るまでは、わたしはおハル殿の事をただの仲の良い大事な同性の友として考えておったのだが……


 袋物屋巡りは正直、わたしも楽しかった。

 あまり自分ではあの手の店に行く事が無かったが、あの様に友と色々と見て歩き回り、相談をしながら品を吟味するのは存外良いものであった。


 ……そのお陰で、なんとも不可思議なモノまで見るハメになってしまったが……それに、その後の事には参った……


 まず連れて行かれたその店構えに度肝を抜かれた。

 あの様に高級な料理屋なぞ全く縁がなかった故、すっかり及び腰になってしまった。


 店前で躊躇していると「大丈夫ですよ」と、おハル殿に気を使われ、その店の支払いを任させてしまう始末。

 わたしの懐具合では到底無理であるのは明らかなのだが、幼子相手にこれでは全く不甲斐無い。精進せねばならんな……


 しかして中は外見通り見事な造りで、料理や酒も素晴らしいものであった。


 ……だが、あの視線の端に見えた、部屋の奥座敷に轢かれていた寝具は……


 あの時はすぐその意味を悟り、これはおハル殿にしてやられた!と思ったものであるが……そうかわたしにも、とうとうこの手の機会が巡って来たのか……と、なんとも言えない心持ちにり、覚悟を決めた訳では無かったが、半ばどうにでもなれ!とのやけっぱちな気持ちが強かったのであろう。

 その結果、注がれるがままに酒を煽り、酩酊してしまった。


 その後は特に何事も無く帰途に着いたのであったが……あの日は終始おハル殿に振り回されっぱなしであったな……

 

 その為、わたしもおハル殿と顔を合わせるのは少々面映ゆい……気恥ずかしいのだ……




 おハル殿の家の前へと着き、意を決して声をかけた所、思わぬおハル殿の強襲を受け、アレよアレよと言う間に中へと連れ込まれてしまった。

 そのまま茶の間へと上げさせられ、気付けばそこに兄上がいらっしゃるではないか。

 あれにはとても驚いた。

 しかもよく見れば鶴吉殿と仲良く酒を酌み交わしておられる様子。

 これには更に驚いた。

 あの堅物な兄上にその様な事をする仲の者が居ようとは……

 これは国許の父上に手紙を認めねばならんな。例えあの様な恐ろしい方であっても女は女であるし……


 しかし相変わらずおハル殿には驚かされてばかりだ。


 おハル殿が冷え冷えとした視線で人睨みすると、八右衛門殿がまるで借りてきた猫の様になってしまった。

 普段の勇猛果敢な益荒男っぷりはどこへ行った?


 またこれは八右衛門殿が悪いのであるが、突如おハル殿が豹変し、八右衛門殿に手を出そうとした時は肝を冷やした。

 アレは正に電光石火の早業であったな。

 わたしも八右衛門殿に声を掛けるべく、少し腰を浮かしていたから何とか間に合ったのだが……

 あの様な小柄な身でなんとも山犬の様な動きを見せられ、心底驚いたものだ。

 わたしもまだまだ修業が足りないな……





 それでも何とかおハル殿の助けを借りる事が出来、翌日より捜索に赴く事となった。

 覚悟はしていたが、やはりわたしも一緒せねばならぬ様だ。これも定めと思い諦めよう。


 おハル殿の家から帰宅する際、八右衛門殿と少し酒を入れてから帰る事にした。


 普段酒はあまり口にしない質ではあるが、意気消沈とする彼を見兼ねて慰める為でもあり、明日からおハル殿に振り回され、大変な目にあう事が目に見えている自分自身を鼓舞する為にも少し景気付けたかったのだ。

 

 きっとまた、何やら不可思議なモノを見せられるのであろうからな……

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