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猟奇的な事件の依頼 その4

 この状況下で一番困惑しているのは堀さまだった。

 

 もう酔いも覚めたのか青いお顔をされて、「も、もしや藤井様の御子息では⁉︎」「そんな事をなさらないで下さい!わたしが代わりますので!」とか何やら騒いでいらっしゃる。


 わたしはそれに一瞥すると土間へと視線を戻し、「あら、こちらでよろしいのですよね?」とニコリと優しく問いかけると、こちらも青いお顔で何度も頷いている。


 ……茶の間は狭いですし、大柄なこの方に上られてしまうと窮屈です。そこにいて下さいね。


 その様子に姐さんは笑いを堪えていて、辰之進さまは更に困ったお顔になっているのにはちょっと腑に落ちませんけど。


「では、お話しを伺いましょうか?」


 仕切り直して大男さんのお話しを聞いた。




 彼の名前は藤井八右衛門と言うそうだ。


 で、その彼がなんで先日わたしに対してあの様な態度を取ったのか、それなのに今日は神妙な顔つきでうちにやってきたのかを、ぽつりぽつりと恥ずかしそうに、謝罪を交えながら語り出した。

 時折り辰之進さまが言葉を加えて。


 興味無かったのでちゃんと聞いてなかったけど彼にはそこそこお偉いお父さまがいらして、辰之進さまと同じ様に剣の道に励むため、子供の頃から彼のお爺さまの元で修行をなさっていたそうだ。

 そのお爺さまが辰之進さまのお爺さまの兄弟子あにでしにあたるらしく、同じ藩の者ではないけれど辰之進さまとは子供の頃からのお知り合いなんだって。


───まぁ!なんて羨ましい!小さい頃の辰之進さまを見てみてみたかったわ!さぞや可愛らしかったのでしょうね!


 因みに額の傷は昔し稽古中に辰之進さまがつけたものらしい。


 …… まぁ……お転婆さんでいらしたのね……


 辰之進さまがおっしゃるには、彼は元来剣一筋で、女はおろか他のことには目も暮れない人柄だったらしい。

 だけど彼のお爺さまである道場主が体調を崩し、代わりに辰之進さまのお爺さまがその道場へとやって来るまでの間、一時的に道場を閉鎖していた時期があって、その際に彼は他の道場で修業がてらご厄介になっていたのだけど、その時を境に豹変してしまったのだそうだ。

 そこの道場の者からいわゆる「悪所」遊びを教わってしまい、その味を覚えてからというもの……ですって。

 それなりに小遣いに不自由しない身であったのも拍車をかけ、毎晩の様に遊び歩くようになってしまったのだと。

 辰之進さまのお爺さまも、兄弟子の孫であるからして強くは言えず、辰之進さまは彼が遊び歩いていることすら気が付かなかったらしい。


「今にして思えば以前に比べて剣の腕前が鈍っていた様な……」

 

 ……ちょっとお顔を赤くしてそうおっしゃる辰之進さまもお可愛いですね!良いものが見れました!


 ただ小遣いに不自由しないといってもさすがに吉原へ足繁く通えるほどではないから、色んな岡場所を遊び歩いた結果、変に自信もつき、もう拙者も粋人だろう!と深川へやって来たらしい。


 ……確かに、四谷・赤坂とか他の岡場所に比べて、深川の仲町とか土橋はお高いですしね……


 しかし調子に乗ってやって来てみれば、半可通を見抜かれて子供の姐さんや芸者の姐さん。果ては案内してくれた船頭さんにまでバカにされ、カモにされてしまったんだって。


 ……あぁ、ここの姐さん方はそういったこと、おやりになるわよね……野暮はお嫌いですし……

 通人気取りの若侍だなんて、面白がってコケにするに決まってる。姐さん方の悪いお顔が目に浮かぶわ……


 そんなことがあって、二度と来るものか!っと深川の岡場所ではそれ以降は遊ぶことが無かったらしいのだけど、先の大火で吉原の仮宅が深川に置かれるや、憧れの吉原女郎が格安で!って日参していたらしい。


 ……恥ずかしい人……

 

 ジト目で睨むと俯いてしまった。


 その後も、さすがに仮宅の時ほどではないけれども、吉原が元の場所へ戻った後にも何度か吉原の妓楼に通っていたのだと自慢げにおっしゃていますけど……そろそろいい加減、彼の夜遊び遍歴を聞くのはおなか一杯で飽きて来たので、


「先達ての悪様な件はわかりましたので、そろそろ今回いらした理由をお話しいただけますか?」


 少し語尾を強めてサッサと話して下さいなとニッコリ睨むと、


「……そ、その節は大変申し訳なく……再度謝罪させて頂きたい……恥を承知で今回こちらに参ったのは手前では如何様にもならず御助力を願えればと……」


 彼は言い淀みながら、


「今巷で噂になっておるあの女幽霊の事なのだが……あの件に関して、拙者も無関係とは言えず……」


 ───はっ⁉


 思わず声を上げそうになったけど慌ててそれを飲み込み、パッと後ろを見ると、堀さまがすごく驚いたお顔で目をひん剥き、姐さんはちょっと嫌そうなお顔になっていて、そのまま反対にいる辰之進さまを見ると神妙なお顔をなさっていた。


「……その……それで吉原の遊女、浅雪(あさゆき)を救ってほしいのだ……」


 ……?なんでそこに浅雪姐さんが出てくるの?


「……実は、巷で騒がれておる日本橋の店主が殺された折にいた女幽霊であるが……それが浅雪の姉、先に亡くなった遊女の深雪(みゆき)であってな……」


 え?え⁉︎ちょ、ちょっと待って下さい!頭の処理が追いつかない!

 深雪姐さんが亡くなったの?そんなの知らなかった!まだお若かったのに……でも若くして亡くなる遊女さんは少なく無いけど……それにしても幽霊だなんて……いや、そもそもホントにソレって美雪姐さんの幽霊なの?


 冗談でそんなこと言ったのならタダじゃおきませんよ!


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