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猟奇的な事件の依頼 その3

 暫く二人やり取りを見ていたのだけど……


 堀さまのおっしゃる、「この件」って、やっぱりあの住持さんの血みどろ事件のことですよね?

 あの、お腹から色んなものが飛び出して血が沢山出ちゃった……イヤイヤ、そんなの考えるだけでもムリ!

 それをわたしが神さま達に聞いて回るの?そんなの絶対ムリに決まってるでしょ!

 それに、幽霊さんが出てくるかもしれないんですよね⁉︎


 ダメです!そんな怖いの絶対イヤです!


 二人が懸命に話し合っている最中だったけど、いても堪らず割って入り、


「堀さま!姐さん!この件、わたしは絶対にやりませんよ!」


 そんな怖いの絶対ムリです!って、宣言した。


 それを聞いて堀さまは苦いお顔で黙り込んでしまったけど、姐さんは笑いながら、


「ほらね、言ったろ?アイツはやらないって。そんな額じゃ精々半人前のおハルしか使えないよ。だからあたしを動かすんなら……」


 パチパチと算盤を弾き、


「こんくらいは貰わないとね」


 また交渉が再開してしまった。

 

 時折り堀さまが、「お主らの中には他にもう少し安い奴は居らんのか!」とか「我が藩の台所事情は知っておろうが……」などと怒鳴ったり泣き落としをしたりしているけれど、姐さんは涼しいお顔で全て受け流している。


 暫くの間、大人しくその様子を見ていたのだけど、飽きてきたのとお腹が空いてきたので、「では、わたしはお夕飯の支度して来ますね」と席を立ち、お文さん今日は何を用意してくれたらのかしら?と台所に向かおうとした丁度その時だった。


 玄関から、


「夜分に失礼致します。おハルさんはいらっしゃいますか?」


 ───ハッ!そのお声は!


 パッと踵を返して玄関に駆け出すと勢い良く戸を開けて、


「辰之進さま!ようこそいらっしゃいました!」


 満面の笑顔で来客を迎えた。


 ……そう言えば辰之進さまがうちにいらしたのって、初めてお会いした時以来じゃないかしら?


 思い掛けない訪問だったけど、驚きよりも嬉しさの方が先に立つ。


「狭苦しいとこで申し訳ございませんが、中にお入り下さいませ!」


 来訪の訳も聞かず、辰之進の袖を掴むと強引に中へと引っ張っていく。


 姐さんが「狭苦しくって悪かったね!」とか言ってるような気がするけどそんなのは無視だ。

 さあさあ!と、茶の間に堀さまがいらっしゃるの見て少し驚いたお顔になっている辰之進さまだったけど、それも無視して茶の間に上がってもらうと、堀さまの前に置いてあった煙草盆をサッと取って辰之進さまの前に置き、自分も辰之進さまの目の前に座わった。

 

 そして矢継ぎ早に、


「何かお飲みになりますか?お茶が良いかしら?冷たい麦湯?あ、お酒の方が良いかしら?お腹は減ってございませんか?お夕飯はお召し上がりになってますか?今ご用意致しますか?それも……」

「い、いえ、食事とかは結構ですので……」


  有無を言わさない詰め寄りに狼狽するも、「も、もう少し落ち着いて頂けますか?」と何とか手で制し、


「今日はおハルちゃんにお願いしたい事があって来たのですよ……」

「ハイ!辰之進さまのお願いでしたら何でも聞きます!なんでしょう!」


 視界の先に困ったお顔の姐さんが、「バカだね、話し聞く前から……」っておしゃっているような気がしますけど関係ない。

 辰之進さまのお願い事ですもの。何を置いても優先されます!


 辰之進は一旦呼吸を整えると、では……


「お話しするにあたって、もう一人、ここに来ているのですが家の中に上げさせて貰っても宜しいでしょうか?」


 玄関先へと視線を移す。


 釣られてわたしも玄関の方を見ると、開けっ放しになっていた戸の向こう側に人が佇んでいた。

 背が大きくて戸の上にはみ出てしまっているのでお顔は見えなかったけど。

 

「あら、コレは気がつきませんで……」


 失礼致しました。ホホホと笑って誤魔化しながら玄関へと向かった。

 近くに寄ってその人のお顔を見たら、


 ……げっ!……その額の一文字……辰之進さまの道場にいた大男じゃないの!


 思わずそのまま戸を閉めて戻りたくなったけど、さすがに辰之進さまの前でそんなことは出来ないので、


「どうぞお入り下さいまし」


 ハルは辰之進に向ける笑顔とはまた違った、冷たい笑顔でニコリと笑い、挨拶をした。


 彼はオズオズと土間に入るとその場で立ち止まり、


「先達ては誠に失礼な事を……」


 ハルに向かって深々と頭を下げて謝罪をし始めた。




 今この家の中には五人の人がいる。


 茶の間の奥には姐さんがニヤニヤとしながら座り、その斜め前に長火鉢を挟んで堀さまが驚いたお顔で座っていて、その反対側には辰之進さまが困ったお顔で座っていらっしゃる。

 わたしはというと、茶の間の端っこに座って土間へ向き、土間の土の上に直に座わる神妙な顔付きの大男を眺めていた。

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