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猟奇的な事件の依頼 その2

 その後の瓦版を、怖いもの見たさで待っていたのだけども版を重ねても、「最近町中では徘徊する女幽霊が目撃されている!」とか「実は何某お寺の住持さんも最近奇怪な死を遂げていた!」などと書いてある位で、最初にあった女幽霊の正体についての続報は載らなかった。

 そのかわりに町中では、「あの女幽霊は吉原の女郎が非業の死を迎え……」とか、「いや、何処ぞの武家の奥様が亡くなり、その幽霊だと聞いたぞ?」「いやいや、坊主も死んでんだろ?ならきっと、陰間の若い歌舞伎役者が殺されちまったのを恨んでだな……」そんな噂話しで持ちきりだった。


 瓦版もあれから何枚出たんだろう?

 今日も買ってきた瓦版を読んで、「また巷の与太話だけですね」と、姐さんと話していたある夕方のことだった。


「……非常に……不味いことになった……」


 最近では顔色の良かった堀さまが、また以前のような酷いお顔になってフラフラとしながらやってきた。


 そのあまりの悲壮漂っぷりに、恒例の辰之進さまのお手紙催促も一瞬躊躇した程だ。

 でも躊躇しただけで、ちゃんと催促もして新しいお手紙をお渡ししましたけどね。


 わたしからの手紙を力無く受け取ると、のそのそと茶の間に上がる。


「こいつは酷いね……」


 さすがの姐さんも心配するほどだったようで、お茶の用意をしようとしたら、


「おハル。茶じゃなくて、気付けに酒持ってきな」


 気付けなら強目の方がいいかな?って、お酒じゃなくって焼酎を湯飲みに入れてお出ししたら、一口目は顔を歪めたけど二口で飲み干し、


「……ふぅ……これは利くな……」


 少しはしゃっきりしたお顔になり、座り直すと真面目な目付きでわたし達を見て、


「今回はしかと案件になった故、よろしく頼む!」


 軽く頭を下げた。




「其方達も日本橋で起こった件は知っておろうが……」


 大店のご主人が例の住持さんと同じようにして亡くなった件ですよね?

 でもあの方は町民だから町奉行さんの管轄になるはずでは?そう聞くと、


「無論、町方の件は町奉行預りになる故、某らには関係無いと言えば無いのだが……」


 管轄が違うので各々捜査をしていたのだけど、似たような事件だったからお互いに気にはしてたみたい。

 でもお互いに進展が無くって業を煮やしていた最中、もう一件の事件が起きてしまったらしい。


「これは絶対に外へ漏らしてはならぬのだが……」


 しっかりと口止めの約束させた上で話し始める。


 とある武家の奥さまが江戸屋敷にて、あの二人と同じような亡くなり方をしてしまったのだと。

 その方ってば結構なお偉いさんなので緘口令が引かれているらしいけど……


 ……人の口に戸は立てられませんね……噂になってますよ……


 その奥さまの件が、この問題を更に面倒なものにしてしまったらしい。


「手前共の寺社奉行、日本橋の件は町奉行。そしてその奥方様が武家である故に勘定奉行が出てくる始末でな……結果三奉行出揃ってしまった……」


 今や上も下も、あれやこれやでしっちゃかめっちゃからしい。


 ……お役人さんってば、横の繋がりが希薄ですものね……


 しかもその亡くなった奥さまのご親族も結構な権力者であるらしく、「聞けばこの奇怪な変事、事の起こりは寺社との事。なのに未だ進展が無いとはどうなっておる!」とお冠で、上から詰められて大変なことになってしまってるんだって。


「あら、堀さまが上役から責められて大変なのですか?」


 いつものことですね。と思ったけど、

 いいや、と頭を振るう。


「まさかお奉行さまから堀さまへ直に?」


 それはまた……お奉行さまである大名さまから直接怒られたら怖いですよね。大変ですねって言ったら、

 また頭を振り、「わたしでない」指でもっと上だと指す。


 あら、もっと上ってことは……お奉行さまが責められているのかしら……?

 でも町奉行さまも勘定奉行さまも確か旗本の方がやってらっしゃるのですよね?それなのにそれを通り越して寺社奉行のお大名さまがお叱りを受けるなんて……


 ……なんか思ったより大事になってるみたい……


 案に明言を避けることでより深刻さを匂わしていた。


 思わずゴクリと唾を飲みこむ。




「そもそもが此度の件、似ているとは言え同じ者による行いとは限らぬ。しかし、もしそうであったとしたら……」


 三奉行が絡む裁判は面倒なんだそうで、三手掛かり、更に五手掛りになってしまうと大目付やら何やらが出て来てしまうらしく、それは勘弁だって。


 お酒をお召しになって少し顔色が良くなったと思ってたら、また青ざめてきてる。


 取り敢えずもう少しお酒を勧めてお話しを続けてもらう。


「心底、先の住持の件と他の件は別口であってもらいたいと思っておるのだが……」


 住持さんの件、相変わらずなんの進展もなくって八方塞がりなんだって。


「故に、兎も角にも!住持の件を詳らかにせねばならんのだ!一刻も早くだ!」


 あれ?ちょっと飲ませすぎたかしら?

 だいぶ興奮してきていらっしゃる。

 困ったなぁって思ったけど、姐さんはその様子を見ても涼しいお顔のままだ。


「はいはい。話しはわかったけどね、後は支払い次第だよ」


 いきり立つ堀さまをしり目に、姐さんは後ろから出してきた算盤をズイっと堀さまに突きつけて玉を弾く。

 

 そして堀さまと姐さんの熱い交渉が始まった。



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