猟奇的な事件の依頼 その1
あの日は夢のような一日でした。
暫く間、その日の余韻に浸ってボーとしてたからよく姐さんに怒られた。
また辰之進さまとお会いしたいなって、焦がれる毎日だった。
そんなある日、「御免。鶴吉どのはご在宅か?」寺社奉行同心の堀さまがいらっしゃった。
待ってましたとお出迎えし、挨拶もそこそこに手を出して、
「はい!お手紙お待ちしておりました!いらっしゃいませ」
「春蔵よ……逆だ。すまんが今日は預かっておらんぞ」
パタパタと手で追い払われてしまった。
むぅー。
仕方が無いので「ではこれをお願い致しますね」と辰之進さま宛のお手紙を押し付けてから家の中へ入ってもらった。
堀さまがうちにいらっしゃるのも恒例になっているので、何時ものように茶の間に上がってもらい煙草盆を用意して姐さんを待ってもらう。
わたしは姐さんを呼んだらお暇しようと思ったのだけど、
「すまぬがお主も聞いておくれ」
同席を勧められたので、お土産に頂いたお煎餅を食べながら姐さんと一緒にお話しを聞いた。
「実はな……」
とあるお寺の住持がお亡くなりになってしまったのだけど、その亡くなり方が奇妙なものだったらしい。
夜遅くに、住持の部屋から叫び声が聞こえたので、何事かと小坊主が慌てて部屋に駆けつけたところ、住持が仰向けに倒れ、お腹から臓物を飛び散らせて辺り一面血の海だったらしい。
その小坊主が部屋に入った時は住持はまだ事切れる前で、「大丈夫ですか!どうしましたか!」と駆け寄ると「……女……女の……」とだけ言い残し、息を引き取ってしまったのだと。
……うわぁ……血生臭いのは勘弁です……
もう夏も近いのに鳥肌が立ってきた。
食欲もなくなり、食べる手も止まってしまう。
その惨状を想像するだけで気持ち悪くなって一刻も早くこの場から逃げ出したくなった。
……なんの嫌がらせですか……
「その様に非常に凄惨な現場であってな、咎人については今現在も鋭意捜索中なのであるが……」
そんな恐ろしい事件、わたし達になんの関係もないじゃ無いですか!奉行所で勝手に捜査でも捕獲でもして下さい!って言おうとしたら……
「その女ってのが問題なんだう?」
姐さんが煙管の灰を落としながら、「寺の中に女が居ちゃまずかろう」と。
堀さまはそれに頷き、
「僧籍に置いている身で、商売女ならまだしも素人女に手を出す事は御法度である故な。それに……」
その住持さんは有名な若衆好きで、蔭間茶屋通いは有名らしい。
……確かお坊さんは商売者以外の、庶民の女性に手を出してしまうと、その後の責任を取れないこともあって大変な罪に問われるらしい。それもあってか、お坊さん達は衆道に勤しみ、それどころかその道に長けて無いと上の位には行けないってことを聞いたことがある。
……お坊さんって大変ですね。
だからこそ、そのお寺に夜遅く女の人がいるはずもないのだけど……
「他の小坊主がな、その夜、寺の中でどうも女の姿、幽霊を見たとか見ていないとか……」
思わず耳を塞いで、
「お化けはダメです!まだ夏になってませんよ!」
幽霊は怖いです!泣きそうな顔で訴え続ける。
その様子を見て、「普段から異界のモノを見とるくせに……」と苦笑しながら、
「いや、某もまさか幽霊の仕業とは思っておらんぞ。故にな……」
「ちょっとお待ち!」
姐さんがその先を遮り、
「この件はちゃんとした案件として、上から降りて来てるモノなのかい?」
要はちゃんとお金が出るのかどうかが問題らしい。そうじゃ無ければその先は聞かないよ。ですって。
堀さまは渋いお顔をなさりながら、
「……いや、まだ捜査の段階でな……」
口籠もりながらチラッとわたしの方を見て、
「で、あるからして、そこの寺に行ってもらい、例の如くその手のモノ共に噂話程度で良いので聞いてもらってだな……」
そうですか。わたしにお菓子とお小遣い程度で安く済ますおつもりですね!
プイッと横を向いて、
「嫌です!」
断固拒否した。
幽霊だ、血生臭いのだなんて、そんな怖いのヤです!
「だ、そうだよ」
わたしを見ながら姐さんが笑っている。
その日は堀さまには悪いけどさっさとお帰り頂いて、ついでに玄関にお塩を撒いておいた。
……ほんと、怖いのは勘弁してください……
数日がたち、やっと夜に厠へ行くのも怖くなくなってきた頃、お文さんが瓦版を持ってやって来た。
「ねえねえ、姐さん、おハルちゃん。これ知ってるかい?今、巷でたいそう噂になってるんだけどね」
その瓦版を見てみると、日本橋のとある大店の主人が女幽霊に殺されたというものだった。
夜中に主人の部屋から叫び声がしたので番頭が駆けつけてみたところ、主人は腹から内臓をまき散らして死んでいた……ってことが臨場感たっぷりに書いてある。
読み続けると、「その主人の傍らにいた女幽霊はなんと!……次回の続報を待て!」ですって。
それを読み、姐さんと顔を見合わせた。
「……あの……これって……」
「まんま同じだね……」
嫌な予感しかしなかった。




