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芸者デビュー


 お仙さんから頂いたおハナ師匠のバチを持って家に帰ると姐さんから、


「おハル、頭に何乗っけてるんだい?」


 当然、姐さんにはおハナ師匠が見えるらしく、


「また奇妙なモン貰って来たね」


 と笑われた。


 お文さんもいたので、「どうですか?わたしの新しいお師匠さまになる、おハナ師匠です!」って手のひらに乗せて、今ここに可愛らしい象さんが居るんですよって得意げに紹介したのだけど、残念ながらやっぱり見えないみたい。


「あらあら、象さんがいるのかい?なつかしいねぇ……」

 

 お文さんは若い頃、本物を見たことがあるそうだ。

 当時は大変なブームだったらしい。


 ……ちゃんといらしてたのね。お仙さん、ごめんなさい……




 それから毎日バチを振り回しておハナ師匠と遊んでたのだけど、以前お仙さんから、身体に影響があるからあまり神さまとは関与しない方が良い……とのことを言われたことを思い出し、


「そう言えば姐さん。わたし、この子とあまり一緒にいない方がいいんでしょうか?」


 お稽古の時しか一緒にいられないのは寂しいなってちょっと悲しくなったけど、


「そいつは付喪神だろ?なら大丈夫さ」


 どちらかと言うと付喪神さまは妖怪寄りらしく、人が祈るその信仰をお力にする他の神さま方とはちょっと違う的なことを言われた。

 そもそも危なっかしい物ならお仙さんが渡さないって。

 それを聞いてからは嬉しくって、いつも持ち歩いている。


 そう言えばこの象さん。三味線のお稽古はどうするんだろう?って思ったけど、器用に鼻で棒を持ち、糸の抑え方とか胴の位置とか細かく丁寧に指導してくれた。

 姐さんよりよっぽど厳しい指導でした……


 今年の冬は予想通り寒波が襲い、大川が凍ってしまう程の寒さだった。

 あんまり寒いので外出する時に足袋を履こうとしたら、「深川芸者たる者、素足で下駄さ」って言われたけど無理ですよ!

 お陰であまり外へ出歩くこともなくお稽古に専念出来たためか、おハナ師匠の熱心な指導のお陰なのか。

 暖かくなる頃には何とか姐さん方からの合格も貰え、十三になった今年、無事に芸者になれました!




 色々と変化があったけど、一番変わったって実感したのはやっぱり名前。

 わたしは「ハル」改め「春蔵はるぞう」になった。


 男っぽい名前は、これから深川芸者の一員になるということを重く受け止めて甘受するとしても、「あの〜この「蔵」の字なんですけど、わたしらしく可愛らしいゾウさんの「象」ではダメですか?」おハナ師匠もそう言ってますよって聞いたら姐さん方に笑って却下されてしまった。

 でもお文さんからお祝いにって、「昔つけてて今は話使ってないから」と白い象牙彫の象の根付を頂いて、おハナ師匠も一緒に喜んでいたからまぁいいか。

 

 仕込みっ子から姐さんの妹芸者になったことで、お座敷に行く時は箱屋さんが三味線を持ってついてきてくれるようになったのだけど、そのお座敷自体あまり声が掛からなかった。

 初めの頃は御祝儀だ!って馴染みの方々が呼んで下さったのだけど、それが終わると姐さんについてお座敷に上がるとか、他の姐さん方の埋め合わせで呼ばれるくらい。

 名指しで呼ばれることなんてほとんど無かった。

 ちゃんと見番にわたしの名前の板(名札)、かかってるんだけどなぁ……


「ガキの芸者なんてそんなもんさ」


 って姐さんがしなをつくってバカにする。

 

 えぇ、どうせ姐さんみたく三味線は上手じゃないし、なまめかしくもありませんよ!

 あと、おハルじゃなくてちゃんと春蔵って呼んで下さい!

 もぉー!姐さん方もお文さんもみんなちゃんと呼んでくれないんだから!失礼よね!

 アレ?でもお座敷でも未だにおハルちゃんって呼ばれてる気がする……

 ……あぁ……早く大人の色気が出るようになりたいなぁ……


 お座敷はそんなに無くても忙しさはそう変わらなかった。むしろ忙しいくらいだ。

 お稽古事は相変わらずあるし、まだ手習にも通ってる。お友達は沢山出来たけどね。

 神さま関連のお座敷は減ったとはいえ、全く無くなったわけではないし、お使いもそこそこある。

 あと、たまに堀さまからの相談事がちょこちょこと来るようになった。

 

 相談事といっても、あまり突っ込んだ神さま関係のお仕事はお仙さんに止められているので今はあんまりやらないけど、「○○の寺の坊主の件でな……」噂話程度で構わんから、そこにいる神さまに話しを聞いてみてくれぬか?とか、「○○神社の騒動は知っておろう?そこの神様達が何やら言っておらんだったか?知っていたら教えてくれ!」そんな程度のことだ。


 ……あれ?でもなんかわたしって間諜っぽい?


 堀さまは「手隙きの際で構わぬ」とのことなので初めは熱心にお手伝いをするつもりは無かったんだけど、毎回なにか甘い物のお土産をくれたりとか、少しはお小遣いも貰えるし、何より辰之進さまとの幸便(こうびん)、お手紙のやり取りをしてもらってるので、今は頑張ってます!


 堀さまからは、「手前共は某を飛脚か何かと勘違いしておる」と何時もおっしゃっていますけど、お手紙を渡すのを口実に、かわいい妹とお会い出来るのは嬉しいみたい。

 何時もお忙しそうですけど、最近は顔色も良くなってきてますよね。


 そんな手紙のやり取りをしていたら、


『おハルちゃん。あ、今は春蔵さんかな?遅ればせながらおめでとう!今度お祝いを兼ねて……』


 よし!来ました!デートのお誘いです!


 心の中でこぶしを握り締め、姐さんに勢いよく手紙を見せて、


「そんな訳で、わたしはその日は辰之進さまの道場に行って、その後お食事とかお買い物とかしてきますので!何があっても行きますから、その日は絶対に用を言いつけないで下さいまし!」


 わたしの必死の形相に、姐さんは呆れながらも了承してくれたので、その日は粧し込んでウキウキ気分でお出掛けした。

 

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