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新しいお師匠さま

  驚いて目を丸くしてその場に佇んでいると、「ぼやぼやしてないでこっちにくるんだよ!」ノアさんに怒られてしまい、慌てて後について行く。


 建物の中は外見からは想像出来ないほど広かった。

 あ、履物を脱がないと!って下を見たら石畳の通路だ。

 周りをよく見ればここは、今世では馴染みがないけど、前世では見慣れた石造の建物であることがわかった。


 ノアさんの案内で一室に通される。

 部屋の中に入るとそこには表のお店にある商品とはまた違った系統の、怪しげな物が所狭しと置いてあった。

 いったい何に使うモノなのかさっぱりわからない物ばかりだけど、どこかちょっと懐かしい感じがする。

 物珍しそうに眺めていると、


「ここで大人しく待っておいで。お仙を呼んでくるから。待ってる間にそこらの物を勝手に触るんじゃないよ!」


 部屋の中央には久々に見たテーブルとイスが置いてあったので、大人しくそこに座って待つことにした。


 暫くすると、「おや、思ったより早く来たね〜」小箱を抱えたお仙さんが現れ、


「どうだい?ここは。驚いたかい?」


 どうやらここはお仙さんの秘密の隠れ家らしく、ノアさんと一緒じゃないと勝手には入れなくって、あの勝手口は表のお店とは全く違う場所に繋がっているのだって。

 こんなとこに来ちゃってちゃんと帰れるのかしら?ってちょっと不安になったけど、外へ出るのは簡単らしい。あと表のお店にも繋がっているみたい。

 それから、「もう少し大きくなるまではお店の方には来ちゃダメだよ。あたしに用がある時はノアに言ってこっちに来なね」って言われた。




「今日呼んだのはね……」

 

 事前にわかってれば昨日持って行ったんだけどね……と、手に持つ小箱をわたしの目の前のテーブルに置き、


「コレをやるからしっかり修練に励みなね」


 箱の蓋を開けると、中から白い三味線「バチ」が一つ出てきた。

 

 バチなら姐さんに貰った柘植のを持っている。

 ちょっと小ぶりでわたしにちょうどいい大きさのやつだ。

 目の前にあるバチも同じような大きさで、今持っているのと大差ないと思う。

 なんでコレをわたしに?って顔で箱からお仙さんに視線を移すと、


「いつも見たく、視線をずらしてから良く見てみな」


 その通りにしてみると何やら小さい、面妖なモノが浮かんで見えてきた。

 思わず驚いて後退り、


「お、お仙さん!コレ、何ですか⁉︎」

「あれ、知らないかい?可愛らしいだろ?」


 いやこんなの見たことも聞いたこともないですよ!


 ちょこんと、足を前に投げ出して座っている鼠色のソレは毛が無くツルツルして丸っこい。

 顔の脇でパタパタ動いているアレは耳?それにしては大き過ぎる気が……

 口元には小さな二本の牙が見える。

 そして顔の中央からは尻尾のような長いモノが生えてブラブラしていた。

 それに「バオー!」って変な声で鳴くし!

 

 見ようによっては可愛らしいと言えば言えなくもないですけど……


 驚いているわたしを見てお仙さんは笑っている。


「ちょっと前に、江戸にも居た事があったんだけどね。それは象って獣さ」

「ゾウ?」


 ……姐さん方の「ちょっと前」は当てにならないことは知ってますよ……


 わたしは知らなかったけど、大陸の暖かい地方に住むとても大きな獣だそうだ。

 その牙は重宝されて色々な加工品になるらしく、「そのバチは象の牙で出来ているのさ」そして「今見えてるソレはそのバチの付喪神さね」


 ですって。


 付喪神さまは知っている。

 物を大事にしていると、その「物」に付く神様のことだ。

 聞いたことはあっても見たのは初めてだった。


 改めてよくよく見てみれば、さすが神さまなのでそのお姿はとても気高く高貴な……いや、むしろたしかに可愛らしいですよね。コロコロしてて。

 愛らしい、つぶらな瞳でわたしのことを見つめてくる。

 そっとバチを手に取り、その上にちょこんと座る付喪神さまのことをジッと見つめながら、


「でも、なんでわたしに?」

 

 可愛らしいですね!って思わず付喪神さまに頬擦りしながら、一度わたしくれた物だからもう返しませんよ!とニコニコ顔で尋ねると、


「このバチはね……」


 長い間、色んな人のところで使われていたから付喪神さまになったのだけど、そのお陰で三味線のことにとてもお詳しくなっていて、教えるのが得意らしい。

 だからわたしの良い先生になるだろうって。


「ハル坊を鶴吉のとこに置いとく手前、三味線習いに他のお師匠のとこ行かせるのも外聞が悪いしね」


 そんな訳でこの可愛らしい象さんがわたしのお師匠さまになることに。

 お名前は何ですか?って聞いたら特に無いそうなのでわたしがつけさせてもらった。


「おハナ師匠。これからどうぞよろしくお願いしますね」

「パオーン!」



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