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後始末 おかわり その2

 え⁉︎わたし、姐さん方と同類なのですか?あんなに怖くも妖しくもないですよ⁉

 こんな可愛い子を捕まえて、何を言ってるのかさっぱり分からないって顔で困惑していると、


「あたし等はね、元々はここよりずっとずっと西の方、海の向こうにある大きな大陸の、更にその端っこの方の出でなのさ」


 もう随分と昔のことになるがねって、遠い目をしながらおっしゃる。

 懐かしんでるとは言い難い、難しいお顔をなさっているのであまり良くない思い出の方が多いのだろうか。


「向こうに居た時はフェイトニーサマ、ソルシエール、ヘクセ、ウイッチ……とか色々言われてたんだよ」


 自分達のことを詳しくお話ししてくれた。

 それを聞いていて、なんと表現すればいいのかわからなかったけど、前世ではたまに耳にしたことがある魔法使いさんみたいなものなのかしら?と思った。

 普通の人が理解出来ないような技術や知識を持っていて、またその際に行う儀式などが原因で迫害を受けてしまい、仲間達は大勢殺されてしまったのだそうだ。

 そのためその土地から逃げ出してきたのだと。

 ここへとやって来るまでには随分と年月も掛かったらしい。


「幸いあたし等は長い寿命に、ある程度は見掛けを自由に変えられるすべを持っていたからね……」


 今は世界的にみても人が沢山密集して住んでいる、ここ江戸に落ち着いているのだと。

 人が多いと隠れて住むのに良いみたい。


 ……大変だったんですね。でもその妖艶さはあまり隠せていませんよ……


 明らかに普通では無い姐さん方なので、ある意味予想の範疇内ではあったのだけど、今まで敢えて聞こうとしなかった、知ろうとしなかったのは知ってしまうと恐ろしい目に遭うんじゃないかと思っていたからだ。

 だからそのお話しを聞いて、


「そんなこと聞いてしまって、わたし大丈夫なのでしようか?」


 姐さん方の秘密を聞いてしまったので、もしやこのまま取って食われでもしてしまうんじゃないかと不安で一杯だ。

 でもお仙さんはニコリと笑いながら、


「ほら、ハル坊はこの子が見えるだろ?」


 お仙さんの膝上で気持ち良さそうに寝ている、いつもの黒い猫さんをなでながら、


「この子を見れて更に触る事も出来る。なら、出自は違えどあたし等と同類さ」

 

 ですって。でも魔法は使えませんよ?


 この猫さんのお名前はノアさんと言うらしく、お仙さんの使い魔なんだって。

 ただ者の猫さんでは無いようだ。

 猫さん自身が意識しないと普通の人には見ることすら出来ないという。


「ハル坊がいつも神様と話しをする時と同じ様にして、それから話しかけてみな」


 言われた通りに視線と意識をずらしてみる。

 だけど猫さんの姿は特に変わらず、相変わらずどこにでもいるような普通の黒猫だ。

 訝しみつつ、そっと手を伸ばして撫でながら、


「こんにちは。ノアちゃん」

「これ!歳上にちゃん付けをするものでないよ!」


 いきなりバシッと猫さんに前足で手を払いのけられ、思わず驚いて後ずさってしまう。


「お前さん、私を触れるのをいい事に撫で回すんじゃないよ!」


 この前みたく弄んだらタダじゃおかないよ!と猫さんに怒られてしまった。


 その様子を見てお仙さんはクスクスと笑っている。




 その後も色々とお話しを聞いた。

 他にもこの国へ一緒に逃げてきたお仲間は何人もいるとか、その中でもお仙さんがここらのまとめ役で三人の姉さん方の中ではお仙さんが一番歳上で、その次がおタエさんなるとか。

 因みにこの猫のノアさんはおタエさんよりもお偉いらしい。


 ……知らずとはいえ気安く撫で回してしまい、大変申し訳御座いませんでした……

 

 どうもわたしのことは村のお社さま経由で前からご存知だったらしく、ここへ引き取って芸者にするという最終的な判断をしたのもお仙さんだったらしい。


「それについてはちゃんとやるようにと、鶴吉達に言っといたんだがね……」


 近い内、色々キッチリと話しをつけとかなきゃならないねって、怖いお顔でおっしゃっている。


「で、今日はコレを返すだけじゃないんだろう?」


 そうそう忘れてました、と八幡さまの件をお話しをすると、首から掛けられる紐が付いた掌サイズの銅鏡を渡された。


「ある意味あたし等には懐かしいのだけど、新しい物好きの鶴吉の所にある鏡はガラスで出来た鬢鏡びんきょうばかりだろうからね」


 使い終わって割られちゃかなわんから、わたしの所へハル坊を寄越したんだろうさ。ですって。

 

 帰り際に、「連日に渡ってお前も大変だね」って頭を撫でられてちょっと涙ぐんだ。




 昨日は辰之進さまのことや姐さん方のことで色々と衝撃の一日でした。


 家に戻ってから姐さんにお仙さんから聞いたお話しをして、「今度、お仙さんから姐さんにお話しがあるそうですよ」と言ったら、とても苦いお顔をされていた。

 いつも姐さんに振り回されている身としては、ちょっと溜飲が下がった。

 

 そして今日は辰之進さまとご一緒に八幡さまを降ろして深川を回る日なのだけども……


 ……どんな顔してお会いすれば良いのかしら……


 自分の美的感覚がこことはちょっとズレているのは認識していた。特に男の人を見る目に対して。

 それに前世も含めて昔っから、夢見る乙女を拗らせていることも自覚している。これは死んでも治らなかった。

 だから男装の麗人だった彼女を見つけて、はしゃいでしまってたのだろうか。


 そんなことを考えながら、気まずい思いをしつつ辰之進さまをお待ちしていたのだけど、待ち合わせ場所に現れた辰之進さまはいつもと変わらない、清々しい爽やかな笑顔をわたしに向けてきた。


「やあ、おハルちゃん。この前はお疲れ様。今日も頑張りましょうね」


 わたしはその姿を見て改めて確信した。

 

 わたしか恋焦がれたのは辰之進さまが男の人だったからでは無く、もちろん女の人だからでも無い。

 ただ、辰之進さまだからなんだ。ってことを。

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