後始末 おかわり その1
どうやら知らなかったのは、勘違いしていたのはわたしだけだったようだ。
おタエさんと姐さんが、「あんな綺麗な男がいてたまるかい!」「そうさね。こちとら商売上がったりさ!」って笑い合ってる。
えっ!えっ!っと困惑しているわたしを見て、堀さまは深いため息を吐き、「実は……」と、遠い目をしながら話し始めた。
辰之進さまは、堀さまのお父様の後妻の「娘」にあたるらしい。
そのお母さまは辰之進さまが幼い頃に亡くなってしまい、その後女手が無くなってしまった実家から祖父母の元へと預けられ、そこで元藩の剣術師範だった祖父から武芸の才能を見出されたことと、お父さまの放任主義も手伝い、今のようになってしまったのだと。
遠い目をしながら、「彼奴も年頃であるのだが……」父も祖父も本人も、最早その気は無いようで、武芸の道一本であるらしい。
今回、祖父と共に江戸へ赴く際に便宜上「辰之進」と名乗っているのだ。とのお話しだ。
……「女」で諸国から出るのは大変ですものね……
そんな訳で別に「男」を気取っている訳ではなく、れっきとした「女」であるらしい。
あんな格好なれど声は高いし、線も細い。見ればわかるだろう?と堀さまはおっしゃるのだけれども……頭では理解しても心が追い付かない。
「あの様な立ち振る舞い故、郷では同性の友も中々おらず、こちらに来てからは稽古三昧と聞くのでな……」
これを機に仲良くしてやってくれ。と言われてしまい、「ハイ、こちらこそ……」作り笑いで返事をするしかなかった。
お不動さまの件では予想外のところで波紋があったそうだ。
要約すると八幡の神さまから、「もう何年も町を回ってない。不動明王が出来るならワシも出来るだろう!」「ワシが町を回って無いから、最近水害やら疫病やらが流行っとるんだ!清めに行くから連れていけ!」的なことが上がってきているらしい。
……たしか以前は二年おきに祭典していたのでいたよね。延期に次ぐ延期で、最後にやったのは明和六年の四年前ですか……
そんな訳でやるき満々な八幡さまを、お不動さまと同じような形でわたしが連れ出して町中を回って欲しいとのことだ。
今回は夜中の出発で無くてもいいし、必要箇所だけなのでそう大変でもないとのお話しなのだけど……
……まぁ、さっき了承しちゃってますしね……
嫌とは言えないので「はいわかりました」と頷いたのだけど、八幡さまをお連れする際に、さすがにお神輿に入ってる依り代を持ち出す訳にはいかないので、他に依り代となる物を用意する必要があるらしく、それはこっちで用意しろと言われた。
姐さん方は「では、それも含めてお代のお話しを致しましょうか」と堀さまと向かい合って相談を始め、わたしは前回借りた臥牛の像を返しがてらお仙さんのお店に行き、依り代になる物を取りに行ってこいと、その足で向かうことに。
「おやハル坊。今日はどうしたんだい?」
「先達ては有難うございいました」
無事終わったとの報告をした後、お礼を言って臥牛の像を返すと、
「ほら、ちゃんと役に立っただろ?」
ニコリと笑い、わたしから像を受け取って床に置くと、いきなり木槌を取り出してそれを叩き出した。
「え⁉︎何なさるんですか!」
驚いているわたしを見ながら、「コレに神様が降りたんなら、清める為にもキチッと壊さないとね〜」と叩き続け像を真っ二つにした。
どうも神さまは降臨をするのに新しい物を好むそうで、一度降りた物は壊すのが良いそうだ。
「ほら、ハル坊が前に居た村でも、祭りの時に作った社殿は終わったらちゃんと壊しただろ?」
そのままにしておくと神さまの残滓が残ってしまうんだって。
神さまによってはお力が強く、残滓が残ってしまうと色々な影響が出てしまうそうだ。だから迂闊に神さまと関与したり、ましてや直接人に神さまを降ろすなんていうのは危ういことなんだとも言われた。
それを聞き、今まで軽く考えて安易に神さまと対応していた自分のことを思い出し、身震いがした。
青くなって震えているわたしの様子を見て、
「……鶴吉やおタエにそういった事、聞いて無いのかい?」
……おタエさんも姐さんも、そんなこと教えてくれなかった……
そう答えると、「……そうかい……全く、あの子等は……」と苦い顔になり、わたしのことをジッと見つめ出した。
暫くの沈黙の後、ため息を吐きながら、
「ハル坊も、あたし等と同類みたいなモンなんだから、ちゃんと教える事は教えときなって言ってあったんだが……」
もう一度、あの子達にはキチっと言っとかなきゃならないね!と、ご立腹だ。




