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後始末 その4

「件の市子さんの代わりで申し訳御座いませんが、わたしが今回渡御のお手伝いをさせて頂きますので!」


 勢い込んでお不動さまにそう言うと、「是」と思ったより素直に対応して下さった。


 ……やっぱり渡御が目的でいらしたのですね……


 神主さんじゃないし、御幣ごへいも振らずに、お神輿にの中にある鏡じゃ無くても大丈夫かしら?とちょっと心配だったけど杞憂に終わった。

 すんなりお不動さまはわたしの持つ臥牛の像に舞い降りる。

 その時、身体の内側から何かが引き出される妙な感じがした。

 どうやら無事降臨なさってくれたようだ。


 そのまま臥牛の像を携えて、「お待たせ致しました!」外でお待ちになって下さっている辰之進さまの前に行くと、


「……おハルちゃん?……ですよね……淡くですが、何やら光りを纏っているような……」


 直接でなくとも、わたしを媒体にして神さまを降ろすと、わたしにも幾らか見た目に影響があるみたい。

 神さまを見ることは出来ないっておっしゃる辰之進さまですけど、神秘的なものを感じる。ですって。


 ……自分ではわかりませんけど、光っちゃってますか……

 



 深川の神輿渡御が暗い内から出輿するのは、大勢の人が橋を往来するからって聞いた。


 ……そりゃ邪魔になりますものね。でも今回、わたしと辰之進さまだけなのですから別に昼間でも良かったんじゃないかしら?


 そう思ったけど、提灯を持って先を歩いてくれる辰之進さまの後ろ姿を見ていて、静かな暗い町中に二人っきり。これはこれでオツなものですよね!って悦に浸ってしまう。


 過去の渡御を参考にした、と前もってお奉行さま側から渡された渡御の順路図を見ると、一日目は主に仙台堀川の周辺より南側をぐるぐる渡御して、二日目は本所一つ橋の御旅所まで渡御してから一旦八幡宮まで戻り、その後に大島川(大横川)からお舟に乗って大川端町に上陸。霊巌嶋の中を渡御してからまたお舟で八幡宮に戻るらしい。

 この渡御先ってのは、氏子さんのお供えする金額とか力関係でその年によって変わったりするのかしら?


 ……結構あっちこっち回るんですね……


 それでもやっぱり予定通りにはいかず、「初目は本来、舟祭りであろう!」とお不動さまが言い出して、急遽木場方面にもお舟で渡御することになったりもした。


 ……よっぽど楽しみにしてらっしゃったのですね。お詳しいこと……

 

 それでも二日共に、昼四ツか九ツには還御(帰社)出来て八幡宮に戻れるのは正直助かりました。


 ……一日目なんかほとんど寝れませんでしたから……


 寝不足や疲労、辰之進さまとご一緒出来た興奮からか、渡御期間中は目をランランと輝かせ常に高揚していた。

 それはもう、姐さんが呆れるほどに。

 お不動さまもたいそうお喜びになられたみたいで、二日目に八幡宮まで帰ると素直に戸も開けてくれました。


 ……ふぅ……やっと終わった……


 全てが終わると寝込んでしまった。




 それから目が醒めたのは二日後だった。

 

 二階の自室で寝ていると何やら下で騒がしくて目が覚めた。

 下の茶の間には姐さんとおタエさん、それに同心の堀さまがいらしていた。


 降りてきたわたしを見て、「やっと目ェ覚めたか」「おや、もう大丈夫なのかい?」「苦労をかけたな」銘々挨拶してくれた。


「お陰様で。もうすっかり大丈夫です」


 挨拶を返すと堀さまが、「今回の礼だ」と目の前にずいっと包み紙を出してきた。

 近場の物で悪いがっておっしゃいますけど、かりんとうは大好きです!有難うございます!


「実は、な……」


 ……まだお疲れ顔ですね……


 苦いお顔をした堀さまがここへいらしてるので、何か不味いことでもあったかしら?と嫌な予感がした。


「あの〜今回の件で、何か失敗がありましたか?」

「いや、此度の件は誠に上々であった。当奉行所内でも皆、其方に感謝しておるぞ」


 良かった……っと胸を撫で下ろし、では早速!ってかりんとうを戴いていると、


「もう一方で、ちと問題事が起きてしまってな……」


 ほらきた!もう嫌ですよ!


「ここに来たのは先達ての礼もあるが……おハル、主にお主に頼みたい事があっての……」


 ダメです!今回は結構大変だったので暫くはゆっくりしたいです!お菓子では誤魔化されませんよ!

 と、お断りしようとしたのだけど……


「此度の後始末もあり、此方も人を割く余裕が無くてな。またお辰にも頼む事になるのだが……」


 えッ!辰之進さまとご一緒ですか⁉︎

 それならそうと先に言って下さいよ!

 胸を張って、


「謹んでお受け致します!」

「おぉ!内容を聞かずとも承諾してくれるとは、これは有難い」


 あ、そう言えば内容はまだ伺ってなかったですね。


 チラリと姐さん方を見ると呆れてらっしゃる。


「娘御達ばかりに面倒事を押し付けるのは此方としても気が重いのであるが……承諾してくれて礼を言うぞ」


 わたしに向かって軽く頭を下げると姐さん方に向き直り、今後のことを相談し始めた。


 実際にやるのがわたしでも、最終的な決定権はあのお二人にあるのよね……とその様子を見ながら、かりんとうをぽりぽりと食べていたのだけど、


 ……あれ?何か引っ掛かる……


 そう言えばお不動さまにも、「娘御達よ良きに計らえ」とか「娘御達よ世話になったな」って、わたしと辰之進さまのことを指して、「達」っておっしゃってた気がする。

 それにさっきも、嬉しくって聞き流していたのだけど堀さまってば辰之進さまのことを「お辰」って呼んでませんでした?


 わたしを他所に話し込む三人を見て、口を挟むべきで無い状況なのはわかっているけど、今この場で確認しない訳にはいかない。そう決心し、

 

 まさか違いますよね。つまらないことをお聞きして

申し訳ございません。寝起きで頭が回らなくって変なことを言っちゃいました。子供の戯言として忘れて下さいませ。

 予防線を貼りつつ、


「あの〜堀さま。つかぬことをお伺い致しますが、辰之進さまって、もしかして堀さまの妹君いもうとぎみにあたりますか?」


 堀さまはこっちを向き、不思議そうな顔をされて、


「当然そうであるが?今更何を申される?」

「!」


 思わず目を大きく見開き、固まってしまった。


 茶の間が暫し静寂に包まれる。

 それを崩したのは笑い声だった。

 その声でハッと気付き、声のする方に視線を移すと、姐さん方が共に口を押さえてクスクスと笑っていらっしゃった。

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