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後始末 その3

 お不動さまを降ろすための像が入手出来たので、後は渡御するだけなのだけど……


「もしかして、八幡さまの神輿渡御と同じように二日かけてやるんですか?」

「あぁ、そうなるね。向こうは出来る限り同じ様にやりたいらしい。休めるから良かったじゃないか」


 八幡さまの神輿渡御と同じなら半日づつの日程のはずだ。

 一日中歩き回らなくて済んでホッとしたのだけど……


「あの~同じようにって、まさかわたしが八幡宮から出る時刻も出輿(しゅっこう)と同じように寅ノ刻なのですか?」

「あぁそうさね。急ぎっだって言うからね。今晩の暁七ツだよ」


 今頃、同心の堀さまが手回しに走り回ってるよ、とニッコリ言われた。


「え?それならもうすぐじゃないですか!」

「あぁもう夜四ツ過ぎてるかい。八ツには起こしてやるから遊んでないでさっさと寝ちまいな」


 姐さんは今日一日中寝てましたからお元気かも知れませんけど、わたしは今日一日中動き回って疲れてるんですよ!

 それに起こしてやるってのも、どうせこれから夜通し飲むおつもりなんでしょ!


 ホントにもう!とぶつくさ言いながらハルは二階に上がっていった。




 寝起きは最悪だった。

 案の定、お酒臭くなってる姐さんに無理矢理起こされ嫌々重い瞼を開けると外はまだ真っ暗だ。

 全然寝た気がしない。

 だるい身体に鞭を打ち寝床から這い出た。

 狭い庭に出て盥に水を張り身を清める。

 八月も中頃だ。秋風が身に染みる。水も冷たい。

 着替え終わる頃にはすっかり目も覚めた。


 茶の間に上がると姐さんが温かい茶漬けを用意してくれていた。


 ……フン!こんなので誤魔化されませんよ!


 ちょっとだけ気分が良くなりそれを食べていると、夜中なのに来客があった。


「御免」


 ……えっ!まさか……そのお声は……


 思わず持っているお箸を落としそうになった。

 玄関から静かに現れたその人は辰之進さまだ。


「おはよう。おハルちゃん。準備は整っているかい?」


 お忙しいお兄さまに代わって来て下さったのですって!




 お神輿は本来そこにお乗りになった神さまが神社から出て、その地域を巡ることによりそのお力を振り撒き、災厄や穢れを清めるなどをすることが目的なのだけど、当然、今回お不動さまがそれをなさる訳では無い。江戸を楽しみたいだけだ。ほとんど観光気分でいらっしゃる。

 それでも形だけはお神輿の渡御とするので、そのための御旅所(おたびしょ)やお舟の手配やら、やることは一杯あるらしい。


 ……御旅所の休憩場所は、結局運ぶことになるわたしのためにあるようなものなのですから、お兄さま、よろしくお願いしますね。


 その手配でお忙しいお兄さまに変わって、「流石にうら若い女の子をまだ暗い内から一人歩かせる訳にはいかないのでね」って、辰之進さまが来て下さったのだ。


 ……姐さんやおタエさんが付き合ってくれるはず無いものね……


 さっきまでは、一人寂しく臥牛の像を持って町中をウロウロすることになるのか……って、気が滅入っていたのだけど、辰之進さまがご一緒して下さるなんて!

 これは行幸!なんてご褒美なんでしょ!デート出来るなんて!しかも二日間も!

 憂いなんか吹き飛び、出発する前から胸が躍り高揚する。


 そのままの勢いで永代寺まで行き、お不動さまの前に立つと、


「おはようございま〜す!渡御のお迎えに上がりました〜!」


 元気良く挨拶した。

 あら、今回は既にこちらを向いていらっしゃいますね。

 これなら万が一の保険に姐さんから待たされた例の草は必要無かったみたい。


 懐に入れてある包みをそっと撫でながら、


 ……あれ?でも、コレをわたしが焚くとお不動さまはたいそうお気に召して下さるんですよね?

 なら、これからわざわざ渡御なんかしなくっても、今ここで「コレを炊くから戸扉を開けて下さい!」ってお願いしちゃえば良いんじゃないかしら?


 そんなことが頭をよぎったけど、すぐに打ち消した。


 ダメよ!それだとせっかくの辰之進さまとのデートが出来ないじゃ無い!


 おそらく姐さんもこのことには気付いていらっしゃっるのだと思う。

 だけど今この場で終わらせてしまえばお奉行さまから追加でお金を取れないし、それに、なんで前の段階で終わらせなかったのかって揉めることになると思う。


 多分姐さんは、コレをわたしに渡しても、扉を開けさせる為には使わないってことを織り込み済みで渡したのだと思う。

 もしかして今回、辰之進さまがいらしてくれたのは姐さんがそう仕向けたのかも……


 ……姐さん掌で弄ばれてる気がする……


 癪に触るので姐さんの予想を裏切ってやりたい気持ちがふつふつと湧いて来たのだけど、辰之進さまとのデートを天秤に掛け、


 姐さん!ありがとう存じます!


 心の中で姐さんに感謝し、ついでに結果お忙しくなってしまった辰之進さまのお兄さまには謝っておいた。


「さ、お不動さま。行きますよ!コレにお乗り下さいませ!」


 ハルは依り代にする為の臥牛の像を取り出すと、元気よくお声をかけた。

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